僕の幸せ

朝比奈和花

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駅とは真逆の少し丘になっているところにある白い漆喰と硝子のコントラストが美しい建物。

flower shop -shiki-

四季しき琥太郎こたろうさん、ゆずさんの仲良し夫夫が営む花屋。
虎太朗さんはαで、柚さんは僕と同じΩ。

琥太郎さんはくまさんみたいな人で必要最低限の言葉しか話さない職人肌気質。
とても頼りになる人でもある。

柚さんは妖精みたい。
くるくる動きまわって、どんなお客さんにも最後にはまた来るね。って言葉をいただく。
話し上手で聞き上手な人だ。

この夫夫は僕たちの恩人だ。

Ωだと仕事に就くことはとても難しい。
発情期があるし、社会的差別があるから。
けれどこの夫夫は僕を正社員で雇ってくれたのだ。

最初はアルバイト始まりだったけれどそのときからΩだからと低時給ではなく、きちんとした時給で働かせてくれた。

俺たちは番だからお前のフェロモンは効かないし発情期が来たらシェルターもあるから安心して働け。ってそう言って雇ってくれた。

だから僕は恩返しも込めて一生懸命働いている。



-shiki-を花屋さんでしょ?と舐めてはいけない。

-shiki-は生花の販売はもちろんドライフラワーやプリザーブドフラワーの作成・販売にウェディング関係のお花の販売・装飾。

さらにフラワーアレンジメントスクールやハーバリウムスクールもやっており多岐に渡って活動している。

極めつけは琥太郎さんの花への愛が爆発して造られた店の裏の植物園。
売り場の小さな温室とは別に花を育てるための大きな温室まであり虫の駆除なども仕事になるのだ。

だから接客は柚さん、裏の仕事は琥太郎さんがしている。

僕の仕事はその両方のお手伝い。

お客さんが多いときは接客に入り、柚さんがひとりで大丈夫なときは琥太郎さんと作業をする。
とてつもなく大変だけど僕はこの仕事がだいすきだし誇りを持っている。


「おはようございます!」

「陽くんおはよう!
りぃくんは元気に保育園行った?」

「はい!今日は給食がカレーライスなのでうきうきでしたよ。」

「それはかわいいねぇ!」

「はい、毎日かわいいです。」

そんなことを話しながら制服に着替える。

リネンの白シャツ、黒のスキニーパンツにサロンエプロン、たまにカーディガン。
黒のキャップは外に出るとき首をすっぽり隠すカーテンみたいなものをつけることができてとても便利。

「あ、今日は午前は通常営業で、午後は明日結婚式が行われる会場の装飾準備でおやすみ。
久しぶりのウェディングの仕事だよ。」

「はい。」

裏に入って琥太郎さんを探すと丁度近くの温室で青紫の花びらが美しいシネラリア、別名サイネリアの面倒を見ていた。

「琥太郎さん、おはようございます。」

「ああ、おはよう。」

「なにから始めたらいいですか?」

「Aブロックのバラの水やり。

後は見回って花がらを摘んでくれ。
もし切り戻しをした方がよさそうなものがあればそれはメモってあとで俺に。

終わったらまた声をかけてくれ。」

それだけ言うとまた作業に戻ってしまった。
琥太郎さんはいつもこんな感じ。

たまに琥太郎さんを見た新規のお客さんは愛想が悪いと言うけれど、表情を面に出すのが苦手なだけでとても優しい人なのだ。

実際りぃくんは琥太郎さんがだいすきだし。

今の指示だって僕が午前に終わるだろう量しかない。
なにより優しくないひとは繊細な花なんて育てられない。



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