玉響から久遠へ

after story 4

3

side 佐助

沼にとっぷりと浸かっていることに気づいたのは縞さんの送別会の帰り、コートを着込み翔さんにマフラーをきちんとしろとぐるぐる巻きにされている縞さんから離れたあの男が僕の元に駆け寄ってきて耳元で悪魔の囁きを吹きかけられたとき。


「だから、言ったでしょう？餞別だって。

僕の大切な人に好意を寄せている人間がいるとわかっている場所にずっと居させるわけないでしょ。

あ、でもさすがに可哀想なので貴方が苦しむ前に餞別、僕がもらってあげましょうか？」

にっこりと手を伸ばしてきてくるその人間の仮面をつけた悪魔の手を払いのけた。

「なんで！？
縞さんの蝶ネクタイは僕のお守りだよ！

そのお守りでなんで僕が苦しむんだ！」

「そう、ですか、ふふ、ふふふ……。
まぁ、いいです。

摘み取られていることに気づかない方が幸せですものね。

あ、そうだ……」

すきって感情は多少狂わせた方がうまくいきますよ。

そんなことを囁いて帰る準備ができた縞さんを連れて帰って行った。


それからしばらくして縞さんが職場に来なくなって僕はやっとすべて悟った。

“憧れ“から“すき“に変わる前にあの悪魔にその者を取り上げられていたこと。

その事実に気づいたときお守りだったものがむしろそのすきな人を想い浮かべてしまう苦い思い出の品になってしまうこと。


どうにかしたい思いとどうにも出来ない現実に僕はそれからしばらく苦しむこととなる。












「あーあ、あの子も大人しく縞さんの身につけていたものを渡せばよかったのに～。」

「なんの話？」

「なんでもないですよ！ふふっ赤ちゃん、順調に育っててよかったです。」

「このまま元気に生まれてくれればそれだけでいいな。」

「ですねー！名前とかも考えなきゃ
縞さんは何か候補とかありますか？」

「まだ性別もわからないからね？
あ、そうだ近くの公園行きたい。

白と黒の猫がいるんだよ。
しばらく会えてなかったから……。

それにあの猫たちに会いにいったから京弥くんとあそこで出逢ったから感謝しないと。」

「猫缶買って行きましょうか！
たくさん！」

「ふふ、たくさん買うの？」

「献上しなければいけないかなと。」





宝物は少し周りに見せちゃったとしても必ず宝箱に仕舞わなきゃいけない、よね？



END.