玉響から久遠へ

朝比奈和花

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side 縞



待っているの、運命を
探しているの、運命を

待っているの、愛する人を
探しているの、愛する人を



こんなドラマの告知CMが流れている。

「オメガバースのドラマだー!
この俳優アルファだしリアル~!」

「ほんとだよね!絶対観る!」


心底、くだらない。
オメガバースなんて当事者以外は娯楽だろうな。


Ω、俺の全てを縛りつけるもの。

穏やかなβ一家に俺は生を受けた。
近所でも評判の美男美女の夫婦の間に生まれた子どもだった。

でもその子どもは親に似ず、平凡な容姿だった。
可もなく、不可もなく、なんとも形容し難い容姿。

父も母もそんな俺を腫れ物のように扱った。
そして小学生のとき俺がΩだとわかると軽蔑の眼差しとともに寮のある学校へ押し込んだ。

俺は両親から捨てられたのだ。
実際それから今まで両親には会っていない。





ピシリ。





俺の心に、初めてひびの入る音がした。





そのときは平凡な容姿を恨んだ。
Ωというバースを恨んだ。

でも授業でαというバースとΩのバースだけに運命の番という切れない縁が芽生えるのだと教わり、愛が欲しかった俺はそれに憧れた。
Ωというバースも恨むべきものでもないと思えた。

運命を探す俺だけれど閉鎖された全寮制の学校に高校まで通っていたため、周りはβばかりで、αはおろか、Ωも俺ひとりだけだった。
今となってはそのおかげで普通にみんなと過ごすことができていたとわかったけれど。

そんな高校で一度だけ、俺は恋をした。

高校に編入という珍しい形で入ってきたβのひと。
ひとりしかいないΩで奇異の目に晒されていた俺に、いつも優しく、気さくに話しかけてくれる人だった。

誰にでも隔てなく接する人でもあったからいつも誰かかしら彼を囲んでいた。


高校卒業を間近に控えた3年生の冬、意を決してすきだと、付き合ってほしいと告白した。
玉砕覚悟だったけれど、どうしても伝えたかった。

返ってきたのはいい奴だと思うけれど、恋愛対象として見ることはできないというお断りを意味する言葉。
βの大半はβと付き合うのだからΩの俺を恋愛対象として見れないというのはなんだか納得できた。

仕方ないことで、気持ちを伝えることができただけでよかったんだと、そう言い聞かせて荷物を取りに教室に戻ったとき彼といつも彼を取り囲んでいる友人たちが集まってなにかを話しているのを見た。


おかしそうに、楽しそうに話す声のなか、俺は教室に入る勇気はなくてその集団から見えないように物陰に身を潜めてしまった。

「んでどーよ、告白だった?」

「あぁ、顔を真っ赤にさせてすきなんですって告ってきたよ。

断ったけれど。」

「あははっ、好意寄せられているのわかってて優しくしてたんだろ?
ひでーやつー!」

「Ωって綺麗な顔の奴が多いんだろ?
でもあいつ平凡じゃん、別によくね?

優しくしてたのはΩってバースがどんなんか知りたかっただけだし。

そもそも鏡見てから告白しろって話だろ。

一時の甘い夢を見させてやったんだしむしろ感謝してほしいくらいだよ。

まぁ、Ωはめんどくさそうだなってことが今回の収穫かな。」

「お前かわいい彼女いるしな。
いやぁ、イケメンは羨ましいぜ、ちくしょう!」

「うっせー!」

ぎゃはははっと笑い声が聞こえるなか溢れそうになる涙を血が出るほど唇を噛んで耐えた。
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