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微笑みながら剣を振り上げたティアの身体が、不意に固まる。
次にティアが取った行動は、ヴァリスの予測を超えていた。
〈……えっ?〉
剣を手放したティアが、くるりと向きを変えて窓へ近づく。ヴァリスがあんぐりと口を開けるより早く、ティアの身体は虚空に踊った。次の瞬間、ヴァリスの耳を強く打ったのは、水音。
「ティア?」
抱えていたハルの身体を床に投げ出し、窓へと向かう。
その僅かな間に、ヴァリスはティアの行動の理由をある程度推測することができた。おそらく賢いティアは、スーヴァルドが自分の身体を乗っ取ったことに気付いた。そして、これ以上の惨劇を止める為に、塔から飛び降りた。
〈ダメだ、ティア!〉
卑劣な神の所為で、ティアが死ぬことが、許せない。
次の瞬間、ヴァリスも窓から身を躍らせた。
まとわりつく冷たい水を必死に掻き分ける。
しばらく流されたが、それでも何とかヴァリスの指先はティアの細い身体に触れた。
ぐったりした身体を、夢中で抱きかかえる。必死の思いで、ヴァリスはティアの身体を岸まで運んだ。
だが。
「ありがとう、ヴァリス」
ヴァリスの腕の中で目覚めたティアが発したのは、残酷な笑み。ティアの身体を乗っ取ったままのスーヴァルドは、有り得ない力でヴァリスの身体を地面へ突き飛ばした。
「しかし、甘いな」
倒れたヴァリスの上に乗る、侮蔑の笑みに、歯噛みする。だが、武器は全てあの塔の床の上だ。いや、例えこの手に鋭利な武器があっても、ティアを傷つけることは、……やはりできない。ヴァリスはぐっと唇を歪ませた。……いや、やらなければならない。自ら塔から飛び降りたティアの気持ちを、無駄にしては、いけない。……できなければ、騎士ではない。
神殿で習った武術を使い、ヴァリスの上に乗ったスーヴァルドを突き飛ばす。思わぬ攻撃に地面に転がったスーヴァルドの上に乗り、暴れる身体を足だけで押さえると、ヴァリスは躊躇いなく、その細い首に両手を、かけた。
目を瞑り、両手に力を込める。足の間で暴れていた身体が静かになるまで、ヴァリスは両手から力を抜かなかった。
〈ありがとう、ヴァリス〉
本物のティアの声が、聞こえたのは、気のせいだろうか?
次にティアが取った行動は、ヴァリスの予測を超えていた。
〈……えっ?〉
剣を手放したティアが、くるりと向きを変えて窓へ近づく。ヴァリスがあんぐりと口を開けるより早く、ティアの身体は虚空に踊った。次の瞬間、ヴァリスの耳を強く打ったのは、水音。
「ティア?」
抱えていたハルの身体を床に投げ出し、窓へと向かう。
その僅かな間に、ヴァリスはティアの行動の理由をある程度推測することができた。おそらく賢いティアは、スーヴァルドが自分の身体を乗っ取ったことに気付いた。そして、これ以上の惨劇を止める為に、塔から飛び降りた。
〈ダメだ、ティア!〉
卑劣な神の所為で、ティアが死ぬことが、許せない。
次の瞬間、ヴァリスも窓から身を躍らせた。
まとわりつく冷たい水を必死に掻き分ける。
しばらく流されたが、それでも何とかヴァリスの指先はティアの細い身体に触れた。
ぐったりした身体を、夢中で抱きかかえる。必死の思いで、ヴァリスはティアの身体を岸まで運んだ。
だが。
「ありがとう、ヴァリス」
ヴァリスの腕の中で目覚めたティアが発したのは、残酷な笑み。ティアの身体を乗っ取ったままのスーヴァルドは、有り得ない力でヴァリスの身体を地面へ突き飛ばした。
「しかし、甘いな」
倒れたヴァリスの上に乗る、侮蔑の笑みに、歯噛みする。だが、武器は全てあの塔の床の上だ。いや、例えこの手に鋭利な武器があっても、ティアを傷つけることは、……やはりできない。ヴァリスはぐっと唇を歪ませた。……いや、やらなければならない。自ら塔から飛び降りたティアの気持ちを、無駄にしては、いけない。……できなければ、騎士ではない。
神殿で習った武術を使い、ヴァリスの上に乗ったスーヴァルドを突き飛ばす。思わぬ攻撃に地面に転がったスーヴァルドの上に乗り、暴れる身体を足だけで押さえると、ヴァリスは躊躇いなく、その細い首に両手を、かけた。
目を瞑り、両手に力を込める。足の間で暴れていた身体が静かになるまで、ヴァリスは両手から力を抜かなかった。
〈ありがとう、ヴァリス〉
本物のティアの声が、聞こえたのは、気のせいだろうか?
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