16 / 63
5-1
しおりを挟む
「結局、アルトティス行きの船は出ない、か」
呟くジェイの声は、いくらかの苛立ちを帯びていた。
「おかしいわね」
その声に応えたのは、セティ。
「急に巡礼も交易も止めるなんて」
「おかしくはないさ」
そのセティの声に混じったのは、ハルの声。
「街で見ただろ。白服の奴ら」
ハルの言葉に、その場にいた全員が頷いた。
ヴァリス達は現在、アルトティス行きの定期船が出ている海沿いの商業都市ソーヴェの、城壁の外にいる。時刻は、まもなく夕方。本当ならば街中の宿屋で落ち着いている時間だ。だが。
「ごめんなさい」
「いいって」
申し訳なさそうなセティに向かって、ジェイが手を振る。
「あんな奴らばっかりの街にいるくらいなら、野宿した方がマシだ」
街中で船のことを尋ねたヴァリス達が出会ったのは、北の出身であることを示す白い修道服を身につけたスーヴァルドの神官達による理不尽な暴力。その所為で、セティを庇ったティアが大怪我をした上に、ヴァリス達は街から追い出された。そのティアは、ハルの回復魔法での治療を受けてからヴァリスの背中で安らかな寝息を立てている。
「でも結局、一番暴れてたのティアじゃないか? 短剣も抜いてたし」
「許せなかったんだろ」
ジェイの言葉に、ヴァリスは素っ気なく言葉を返した。
「セティに、あんな侮辱の言葉を吐かれては」
ヴァリス自身も、セティのことを「魔女だ」と罵ったことがある。その時はティアの諫言でやっと自分に非のあることが分かったが、同じ言葉を他の人が言うとその侮辱具合がよく分かる。
「しかし、どうする?」
ハルの声に、はっと我に返る。
白服の神官は、青色の袖無し上着の自分達ヴェクハールの神官とは違う、存在。同じ神を崇めてはいるが、北方の王国ノイトトースの厳しい自然よりも峻厳で狭い考えの持ち主達であるという噂だ。そんな彼らが大手を振って歩いている場所では、ヴァリス達に協力してくれる人を見つけることは不可能だろう。それよりは。
「ヴェクハールに戻るか?」
ヴァリスは一番良いであろう案を、静かに呟いた。
ソーヴェは、大河コトハの河口にある。コトハを遡るとヴェクハールだ。ヴェクハールには、聖堂に恩のある商人がたくさんいる。彼らの中から海上交易にも力を持っている者を探し出し、その船でコトハ又は大回りになるがリーニ河を下ってアルトティス島へ向かう。それが、ヴァリスが考えることができる最良の策。問題は、海上交易で力を持っている者が、いるかどうか、だろう。
だが。ヴァリスのその言葉で、セティの顔が青ざめる。「夏が始まる日までに、戻れ」。それが、セティが受けたアルリネットの予言。今からヴェクハールまで戻っていたら、とうてい間に合わない。
「転移の魔法は、使えないぞ」
ヴァリスの次の言葉を見抜いたように、ハルが大声を出す。
「一度行ったことのある所しか、行けないからな」
「……仕方無い、か」
諦めたような声が、ヴァリスの横で響く。
「少し遠いが、知っているところがある。そこなら、泊めてくれるかもしれない」
渋々といった感じで呟くと、ジェイはヴァリス達に海沿いの道を指し示した。
呟くジェイの声は、いくらかの苛立ちを帯びていた。
「おかしいわね」
その声に応えたのは、セティ。
「急に巡礼も交易も止めるなんて」
「おかしくはないさ」
そのセティの声に混じったのは、ハルの声。
「街で見ただろ。白服の奴ら」
ハルの言葉に、その場にいた全員が頷いた。
ヴァリス達は現在、アルトティス行きの定期船が出ている海沿いの商業都市ソーヴェの、城壁の外にいる。時刻は、まもなく夕方。本当ならば街中の宿屋で落ち着いている時間だ。だが。
「ごめんなさい」
「いいって」
申し訳なさそうなセティに向かって、ジェイが手を振る。
「あんな奴らばっかりの街にいるくらいなら、野宿した方がマシだ」
街中で船のことを尋ねたヴァリス達が出会ったのは、北の出身であることを示す白い修道服を身につけたスーヴァルドの神官達による理不尽な暴力。その所為で、セティを庇ったティアが大怪我をした上に、ヴァリス達は街から追い出された。そのティアは、ハルの回復魔法での治療を受けてからヴァリスの背中で安らかな寝息を立てている。
「でも結局、一番暴れてたのティアじゃないか? 短剣も抜いてたし」
「許せなかったんだろ」
ジェイの言葉に、ヴァリスは素っ気なく言葉を返した。
「セティに、あんな侮辱の言葉を吐かれては」
ヴァリス自身も、セティのことを「魔女だ」と罵ったことがある。その時はティアの諫言でやっと自分に非のあることが分かったが、同じ言葉を他の人が言うとその侮辱具合がよく分かる。
「しかし、どうする?」
ハルの声に、はっと我に返る。
白服の神官は、青色の袖無し上着の自分達ヴェクハールの神官とは違う、存在。同じ神を崇めてはいるが、北方の王国ノイトトースの厳しい自然よりも峻厳で狭い考えの持ち主達であるという噂だ。そんな彼らが大手を振って歩いている場所では、ヴァリス達に協力してくれる人を見つけることは不可能だろう。それよりは。
「ヴェクハールに戻るか?」
ヴァリスは一番良いであろう案を、静かに呟いた。
ソーヴェは、大河コトハの河口にある。コトハを遡るとヴェクハールだ。ヴェクハールには、聖堂に恩のある商人がたくさんいる。彼らの中から海上交易にも力を持っている者を探し出し、その船でコトハ又は大回りになるがリーニ河を下ってアルトティス島へ向かう。それが、ヴァリスが考えることができる最良の策。問題は、海上交易で力を持っている者が、いるかどうか、だろう。
だが。ヴァリスのその言葉で、セティの顔が青ざめる。「夏が始まる日までに、戻れ」。それが、セティが受けたアルリネットの予言。今からヴェクハールまで戻っていたら、とうてい間に合わない。
「転移の魔法は、使えないぞ」
ヴァリスの次の言葉を見抜いたように、ハルが大声を出す。
「一度行ったことのある所しか、行けないからな」
「……仕方無い、か」
諦めたような声が、ヴァリスの横で響く。
「少し遠いが、知っているところがある。そこなら、泊めてくれるかもしれない」
渋々といった感じで呟くと、ジェイはヴァリス達に海沿いの道を指し示した。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
いい子ちゃんなんて嫌いだわ
F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが
聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。
おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。
どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。
それが優しさだと思ったの?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
誰の代わりに愛されているのか知った私は優しい嘘に溺れていく
矢野りと
恋愛
彼がかつて愛した人は私の知っている人だった。
髪色、瞳の色、そして後ろ姿は私にとても似ている。
いいえ違う…、似ているのは彼女ではなく私だ。望まれて嫁いだから愛されているのかと思っていたけれども、それは間違いだと知ってしまった。
『私はただの身代わりだったのね…』
彼は変わらない。
いつも優しい言葉を紡いでくれる。
でも真実を知ってしまった私にはそれが嘘だと分かっているから…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる