Amethyst

風城国子智

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Amethyst 3

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 その、次の日。
 その朝は久しぶりに馬で領地を回ろうと思い立ち、ヴィクターは屋敷の裏手にある馬小屋へと向かった。
 だが。馬小屋周辺で響く声に、立ち止まる。下男夫妻が亡くなってのち、馬の世話は執事ヘンリーが雇った通いの村人に任せている。通いだから、彼が来る時間ではない。では、誰が居る? 好奇心に半ば負けたヴィクターは、厩の影からそっと、声が聞こえる方向を見やった。
 そこに、居たのは。
「だーかーらー、この瓶の中の毒をちょっとだけ、あいつが飲むあの気持ち悪い紫色の酒の中に入れてくれれば良いだけだって」
 調子良さげに話すのは、従弟のトレヴァー。そして、トレヴァーの前で俯いて首を横に振っているのは。
〈マリー!〉
 危うく叫びそうになる。
 ヴィクターが見ている前で、トレヴァーはマリーの腕を掴み、その手に細口の瓶を握らせた。
「あいつが死んだら、財産は全て俺の物。お前にも少し分けてやっても良いぜ」
 渡された瓶を握ったまま、それでも首を横に振り続けるマリー。そのマリーに業を煮やしたのか、トレヴァーはいきなりマリーの横腹に蹴りを入れると、声も無く倒れるマリーを一瞥すらせずその場を去って行った。
「マリー」
 トレヴァーの姿が見えなくなってから、マリーを助け起こそうと、倒れているマリーに近付く。だが、気を失って倒れているマリーの、それでもその手にしっかりと握られた細口の瓶を見て、ヴィクターはマリーに背を向けた。

 その夜。
「マリー」
 いつものように『アメシスト』をデカンタに入れて持って来たマリーに、静かに声を掛ける。
「その酒を、飲み干しなさい」
 毒を入れるなら、おそらく早いうち。毒が入っていなくても、ヴィクターを裏切ったマリーは『アメシスト』の毒で死ぬ。自分を裏切る女など、必要無い。それが、ヴィクターの偽らざる心。
 マリーから奪うように手にしたデカンタからテーブルの上のグラスに『アメシスト』を注ぎ、マリーに渡す。グラスを受け取ったマリーは一瞬、ヴィクターを見たが、すぐに目を瞑り、グラスを自身の唇に這わせた。
 緊迫した時間が、流れる。一分経っても、二分経っても、目を瞑ったマリーの強ばった身体は、倒れる気配すらしなかった。これは、もしかすると。
「マリー」
 そっと、細い身体に手を伸ばす。
 次の瞬間、グラスが床で砕ける音と共に、マリーの身体はヴィクターの両腕の中に、あった。
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