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第九章 知識と勇気で
9.28 再会する人々
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「全く」
ベッドの上で口をへの字に曲げるルーファスの頭に巻かれた包帯に、椅子に腰掛けたサシャが首を横に振る。
意外に険しい山から安全に下りるための道を探すのには手間取ってしまったが、何とか日が落ちる前に秋都の城壁に辿り着くことができた。幸運なことに、辿り着いた都門を守っていた門番の一人が、ヴィリバルトが亡くなるまで黒竜騎士団の侍医を務めていたチュイだったから、秋都で医術を教えるユドークス教授と、ユドークス教授の許で療養しているルーファスに再会するのに時間は掛からなかった。そして今、サシャとウォルターは、安全な場所、秋都の学生長兼太守であるホセの屋敷の中にいる。
「とにかく、無事で良かった」
解けかけた頭の包帯に手を当てたルーファスが、隣のベッドで眠るウォルターの丸まった背中に目を落とす。過去に殴られたことによる頭痛を取るために開頭手術を施したと、ユドークス教授は言っていた。命に関わるような手術の後にしては、ルーファスさんは元気に見える。大丈夫、なのだろう。サシャの恩人の無事に、トールはほっと胸を撫で下ろした。
「今度レイフに会ったら、三発くらい殴らないといけないな」
サシャの白い髪に手を当てたルーファスが、声に悔しさを滲ませる。ルーファスの弟、西海の文官長レイフが漁師の子ウォルターを神帝候補に仕立て上げたのは、西海を守りルーファスを救うため。それが分かっていたから何も言えなかったが、やはり、頑是無い者を危険な場所に派遣した弟に対する怒りはあるようだ。
「イアンも」
「まあまあ」
ルーファスの声に、部屋に入ってきた秋都の太守ホセの声が被る。
「久し振りだな、サシャ」
顔を上げると、ホセの後ろに護衛ベニグノの細い影と、ユドークス教授の老体ながらもしっかりとした影が見えた。
「元気そうで何より」
津都の太守ロレンシオが暗殺された後、ホセは秋津の王太子として津都の政務の取りまとめも行っている。力を持つ大商人が多い場所だから、ある程度は放置で良いが、対立が起こった時の意見の擦り合わせには神経を使う。ざっくりと愚痴ったホセが、優しい瞳でサシャを見下ろす。
「まあ、秋都の方はまだ静かだから、サシャも、そっちの小さいのもここに居れば良いさ」
「僕は、帝都に帰らないと」
続くホセの言葉に、サシャは大きく頭を振った。
「危険すぎる」
「暗殺、されそうになったんだろ?」
語勢を強めたホセの背後から、おそらくサシャがユドークス教授に話した、帝都から逃げてきた理由(現神帝ティツィアーノに息子がいたことについては誰にも話していない)を聞いたのであろうベニグノの、サシャを気遣う声が響く。
「ここにいた方がいい」
はっきりと言い切ったホセの言葉に、一人と一冊は頷くよりほかなかった。
だが。
ベッドの上で口をへの字に曲げるルーファスの頭に巻かれた包帯に、椅子に腰掛けたサシャが首を横に振る。
意外に険しい山から安全に下りるための道を探すのには手間取ってしまったが、何とか日が落ちる前に秋都の城壁に辿り着くことができた。幸運なことに、辿り着いた都門を守っていた門番の一人が、ヴィリバルトが亡くなるまで黒竜騎士団の侍医を務めていたチュイだったから、秋都で医術を教えるユドークス教授と、ユドークス教授の許で療養しているルーファスに再会するのに時間は掛からなかった。そして今、サシャとウォルターは、安全な場所、秋都の学生長兼太守であるホセの屋敷の中にいる。
「とにかく、無事で良かった」
解けかけた頭の包帯に手を当てたルーファスが、隣のベッドで眠るウォルターの丸まった背中に目を落とす。過去に殴られたことによる頭痛を取るために開頭手術を施したと、ユドークス教授は言っていた。命に関わるような手術の後にしては、ルーファスさんは元気に見える。大丈夫、なのだろう。サシャの恩人の無事に、トールはほっと胸を撫で下ろした。
「今度レイフに会ったら、三発くらい殴らないといけないな」
サシャの白い髪に手を当てたルーファスが、声に悔しさを滲ませる。ルーファスの弟、西海の文官長レイフが漁師の子ウォルターを神帝候補に仕立て上げたのは、西海を守りルーファスを救うため。それが分かっていたから何も言えなかったが、やはり、頑是無い者を危険な場所に派遣した弟に対する怒りはあるようだ。
「イアンも」
「まあまあ」
ルーファスの声に、部屋に入ってきた秋都の太守ホセの声が被る。
「久し振りだな、サシャ」
顔を上げると、ホセの後ろに護衛ベニグノの細い影と、ユドークス教授の老体ながらもしっかりとした影が見えた。
「元気そうで何より」
津都の太守ロレンシオが暗殺された後、ホセは秋津の王太子として津都の政務の取りまとめも行っている。力を持つ大商人が多い場所だから、ある程度は放置で良いが、対立が起こった時の意見の擦り合わせには神経を使う。ざっくりと愚痴ったホセが、優しい瞳でサシャを見下ろす。
「まあ、秋都の方はまだ静かだから、サシャも、そっちの小さいのもここに居れば良いさ」
「僕は、帝都に帰らないと」
続くホセの言葉に、サシャは大きく頭を振った。
「危険すぎる」
「暗殺、されそうになったんだろ?」
語勢を強めたホセの背後から、おそらくサシャがユドークス教授に話した、帝都から逃げてきた理由(現神帝ティツィアーノに息子がいたことについては誰にも話していない)を聞いたのであろうベニグノの、サシャを気遣う声が響く。
「ここにいた方がいい」
はっきりと言い切ったホセの言葉に、一人と一冊は頷くよりほかなかった。
だが。
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