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第九章 知識と勇気で
9.17 西海からの神帝候補②
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太陽を遮断して涼しい謁見の間を、大きく見回す。サシャが初めてティツィアーノに謁見したときよりも、この場所にいる人々の数は少ない。あのときは黒竜騎士団の人々がいたから、多く感じただけなのだろう。ティツィアーノの真横にいるグイドを確かめ、トールは再び小さく頷いた。ジルドが見当たらないのは、おそらく他の用事をティツィアーノから命じられているのだろう。
神帝の即位順は「夏炉→北向→春陽→南苑→西海」だったはず。と、すると、春陽の神帝候補も、日を措かず来ることになるのだろうか? 南苑の神帝候補ディーデから目を背けながら、春陽の騎士ラドヴァンが守る国境沿いの砦で暮らしていた春陽王チェスラフの幼い双子の弟達、王太子と神帝候補であるマティアーシュとエリアーシュのことを思い出す。北向ですら、まだ頑是無いリュカではなくサシャが身代わりの神帝候補になっているのだから、子供さらいのことを考えると、チェスラフ王が溺愛している弟を帝都に送ることはおそらく無いだろう。だが、マティアーシュもエリアーシュもノエルと同じくらいの年齢だったように記憶している。春陽の神帝候補が帝都に来たらきっと、ノエルの良い友人となるだろう。
「西海の神帝候補が到着しました」
文官の声に、神帝が座る一段高い場所の向こうにある壮麗な出入り口の方を見る。その場所に現れた、見知った影に、トールは数瞬、言葉を忘れた。
「……!」
言葉を飲み込んだサシャに、頷きを返すのがやっと。
確かに、あの影は、……イアンとウォルター。跪くイアンの文官服と、その横でイアンのまねをするウォルターの短くなった赤い髪を見つめる。神帝候補は、王族から選ばれるはず。なのになぜ、西海で酒場を開いているルーファスさんの息子イアンと、西海の漁師の息子であるウォルターがここに? ウォルターを神帝候補であると紹介する西海の文官らしき人物の声を聞くトールの頭は疑問符で一杯になった。
そのトールの視界が、不意に開ける。
「サシャ」
サシャが跪いて初めて、トールは、神帝ティツィアーノがサシャを指名したこととそれを受けたバジャルドがサシャを自分の背後から押し出したことを理解した。
「ウォルター殿はまだ幼い」
戸惑いが続くトールの耳に、ティツィアーノの声が響く。
「当面の間、白竜騎士団の館でそなたが面倒をみなさい」
「は、はい、猊下」
上ずった声で承諾するサシャと、サシャを見て唇を綻ばせたウォルターを確かめ、トールは唇を横に引き結んだ。イアンとウォルターが帝都に来た理由を、ウォルターが西海の神帝候補になっている理由を、聞き出さなければ。
神帝の即位順は「夏炉→北向→春陽→南苑→西海」だったはず。と、すると、春陽の神帝候補も、日を措かず来ることになるのだろうか? 南苑の神帝候補ディーデから目を背けながら、春陽の騎士ラドヴァンが守る国境沿いの砦で暮らしていた春陽王チェスラフの幼い双子の弟達、王太子と神帝候補であるマティアーシュとエリアーシュのことを思い出す。北向ですら、まだ頑是無いリュカではなくサシャが身代わりの神帝候補になっているのだから、子供さらいのことを考えると、チェスラフ王が溺愛している弟を帝都に送ることはおそらく無いだろう。だが、マティアーシュもエリアーシュもノエルと同じくらいの年齢だったように記憶している。春陽の神帝候補が帝都に来たらきっと、ノエルの良い友人となるだろう。
「西海の神帝候補が到着しました」
文官の声に、神帝が座る一段高い場所の向こうにある壮麗な出入り口の方を見る。その場所に現れた、見知った影に、トールは数瞬、言葉を忘れた。
「……!」
言葉を飲み込んだサシャに、頷きを返すのがやっと。
確かに、あの影は、……イアンとウォルター。跪くイアンの文官服と、その横でイアンのまねをするウォルターの短くなった赤い髪を見つめる。神帝候補は、王族から選ばれるはず。なのになぜ、西海で酒場を開いているルーファスさんの息子イアンと、西海の漁師の息子であるウォルターがここに? ウォルターを神帝候補であると紹介する西海の文官らしき人物の声を聞くトールの頭は疑問符で一杯になった。
そのトールの視界が、不意に開ける。
「サシャ」
サシャが跪いて初めて、トールは、神帝ティツィアーノがサシャを指名したこととそれを受けたバジャルドがサシャを自分の背後から押し出したことを理解した。
「ウォルター殿はまだ幼い」
戸惑いが続くトールの耳に、ティツィアーノの声が響く。
「当面の間、白竜騎士団の館でそなたが面倒をみなさい」
「は、はい、猊下」
上ずった声で承諾するサシャと、サシャを見て唇を綻ばせたウォルターを確かめ、トールは唇を横に引き結んだ。イアンとウォルターが帝都に来た理由を、ウォルターが西海の神帝候補になっている理由を、聞き出さなければ。
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