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第七章 東の理

7.12 目の前に現れた人物は

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「これですか?」

 不意に横に現れた長い影に、心臓が飛び上がる。

「はい」

 トールと同じように驚いたらしいサシャの胸の鼓動が、トールの耳に響く。天井近くの棚からするりと取り出した本をサシャに渡した影は、間違いなく、一人と一冊を『象牙の塔』まで送り届けてくれた、東雲しののめを守る騎士団『黒剣団』の団長。

「……団、長」

 差し出された本を受け取ったサシャの、躊躇いを含んだ小さな声が、トールの耳を揺らす。確かに、外見は団長だが、団長からは生じていたヴィリバルト神帝猊下と同じ雰囲気は感じない。別人、だろうか? いや、ここは図書館だから、ヴィリバルトと同じ全てを見透かすような雰囲気を感じないのかもしれない。

「法学の本、ですね」

 団長に似た影に頭を深く下げたサシャに、団長に似た影が微笑む。

「グスタフの、学生ですか?」

 言葉遣いが、違う? 幻の背中に汗を覚える。

「はい」

「古代の法を学ぶのなら、古代の人々が何を考えていたかについて知っておいた方が良いでしょうね」

 何故か焦りを覚えてしまったトールの横で、素直に頷いたサシャに満足した団長に似た影は、近くの本棚から埃っぽい本を取り出し、サシャに渡した。

「私の探している本は、ここにはありませんね」

 そして現れた時と同じように、一瞬で姿を消す。

「誰か、ここの教授が持っていると良いのですが」

 声だけを、確かに残して。

「……団、長?」

 重い本二冊を抱え、呆然としたサシャの唇から言葉が漏れたのは、それからしばらく経ってから。

「リーンハルトさん、だった?」

[分からない]

 首を傾げたサシャの問いに、トールは力無く首を横に振った。

 渡された本を読めば、分かるかもしれない。トールの提案に頷いたサシャが、書見台をもう一つ持ってくる。最初に持って来た書見台にグスタフ教授が指定した二冊の本を置くと、サシャは次に持って来た書見台の上にエプロンの胸ポケットから取り出したトールを置き、その横に、団長(?)から渡された埃だらけの本をトールに接するように置いた。

 法学の本の目次に指を這わせるサシャの横で、トールに接している本の中身を確かめる。

[サシャ!]

 すぐに、トールはサシャを呼ぶ言葉を表紙に並べた。

[これ、古代の『魔法』の本!]
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