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第五章 南への追放
5.12 隙間を抜けた先に
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しばらくの間、暗闇の中を這うように進む。
幸いなことに、進んでいくうちに、始めは狭かった通路はグイドの身長でも立ち上がって進むことができる広さに変わっていった。
「この通路、どこに続いているんだろう?」
滑らかには見えない岩肌に手を当て、サシャの前を慎重に進むリエトの言葉に、サシャと同時に首を横に振る。戻れば、修道院を襲撃した奴らと鉢合わせする可能性大。前に進んだ方が、助かる可能性は高くなる。
「あれ、は……!」
手探りで先頭を進んでいたグイドが、不意に、声を上げる。
「光、だっ!」
確かに。三人と一冊の遙か先に見えた、一筋の光に頷く。これで、助かるかも。楽観的になったグイドの言葉に唇を横に引き結ぶ。出口の先がどうなっているか、まだ、分からない。前に夏炉の洞窟で散々な目に遭ったことを、トールは昨日のことのように思い出していた。
トールの思惑をよそに、進むにつれて、グイドが見つけた光はゆっくりと大きくなる。
「出口、か」
通路から光の方へと出ることを一瞬だけ躊躇ったグイドは、しかしすぐに、辺りを見回すようにして光の方へと足を踏み出した。
「ここ、は?」
光に目を慣らそうと瞼をパチパチとさせるサシャの上から、グイドの身構えた声が降ってくる。三人と一冊の周りに見えるのは、森の木々。斜めの光と、ふんわりと漂う靄が、朝であることを告げていた。
「とにかく、ここがどこなのか、調べないと」
腕を組むグイドの声の向こうで、小さく、枝が折れる音が響く。
「……!」
隠れた方が良い。手を上げただけのグイドの指示で、リエトとサシャはくるりと、先刻這い出してきた隙間の方を向いた。だが。
「あっ!」
驚きの声を、リエトが飲み込む。崖は、確かにある。だが、三人と一冊が抜けてきた細い隙間は、どこにもない。
他に、三人が隠れることができる場所は。辺りを見回すトールの視界に、森を歩く人影が映る。弓を持ち、しかし用心するでもなく歩く細い影は、……見たことがある。
[サシャ]
「うん」
トールと同じ影を見たサシャが、リエトとグイドを庇うように立つ。一呼吸置いて、サシャはできる限りの大声を出した。
「ラドヴァンさんっ!」
次の瞬間。
「サシャっ!」
遠くにいたはずの影が、飛びかかるようにサシャの前に現れる。
「無事だったかっ!」
サシャを抱き締めるラドヴァンの腕の強さに、思わず呻く。
「良かったぁ」
西街道横の森の中で行方が分からなくなった時から、ずっと探していた。明らかに安堵した声が、耳を打つ。行方不明のままだったら、ヴィリバルトにどやしつけられるどころか斬首にもなりかねなかった。冗談に聞こえないラドヴァンの言葉に、トールは思わず腹を揺らした。
「あの」
ラドヴァンの腕が緩んだのを機に、サシャが背後のリエトとグイドをラドヴァンに示す。
「リエトとグイド、を……」
サシャからリエトに視線を移したラドヴァンは、不意に地面に膝をついた。
「覚えていらっしゃいますか、リエト殿下、あ、間違えた、……リエト陛下」
頭を掻きながら、それでも丁寧語でリエトに接するラドヴァンに、思考が止まる。『陛下』と言うことは、まさか、リエトは。
「夏炉の王宮で、お会いしたことがあると思います。春陽王チェスラフの騎士、ラドヴァンと申します」
トールの予想に違わぬ言葉を、地面に膝をついたままのラドヴァンが紡ぐ。
リエトは、行方不明だと言われていた夏炉の王。そのことを理解した一人と一冊は、言葉も無く、リエトとラドヴァンを交互に見つめていた。
幸いなことに、進んでいくうちに、始めは狭かった通路はグイドの身長でも立ち上がって進むことができる広さに変わっていった。
「この通路、どこに続いているんだろう?」
滑らかには見えない岩肌に手を当て、サシャの前を慎重に進むリエトの言葉に、サシャと同時に首を横に振る。戻れば、修道院を襲撃した奴らと鉢合わせする可能性大。前に進んだ方が、助かる可能性は高くなる。
「あれ、は……!」
手探りで先頭を進んでいたグイドが、不意に、声を上げる。
「光、だっ!」
確かに。三人と一冊の遙か先に見えた、一筋の光に頷く。これで、助かるかも。楽観的になったグイドの言葉に唇を横に引き結ぶ。出口の先がどうなっているか、まだ、分からない。前に夏炉の洞窟で散々な目に遭ったことを、トールは昨日のことのように思い出していた。
トールの思惑をよそに、進むにつれて、グイドが見つけた光はゆっくりと大きくなる。
「出口、か」
通路から光の方へと出ることを一瞬だけ躊躇ったグイドは、しかしすぐに、辺りを見回すようにして光の方へと足を踏み出した。
「ここ、は?」
光に目を慣らそうと瞼をパチパチとさせるサシャの上から、グイドの身構えた声が降ってくる。三人と一冊の周りに見えるのは、森の木々。斜めの光と、ふんわりと漂う靄が、朝であることを告げていた。
「とにかく、ここがどこなのか、調べないと」
腕を組むグイドの声の向こうで、小さく、枝が折れる音が響く。
「……!」
隠れた方が良い。手を上げただけのグイドの指示で、リエトとサシャはくるりと、先刻這い出してきた隙間の方を向いた。だが。
「あっ!」
驚きの声を、リエトが飲み込む。崖は、確かにある。だが、三人と一冊が抜けてきた細い隙間は、どこにもない。
他に、三人が隠れることができる場所は。辺りを見回すトールの視界に、森を歩く人影が映る。弓を持ち、しかし用心するでもなく歩く細い影は、……見たことがある。
[サシャ]
「うん」
トールと同じ影を見たサシャが、リエトとグイドを庇うように立つ。一呼吸置いて、サシャはできる限りの大声を出した。
「ラドヴァンさんっ!」
次の瞬間。
「サシャっ!」
遠くにいたはずの影が、飛びかかるようにサシャの前に現れる。
「無事だったかっ!」
サシャを抱き締めるラドヴァンの腕の強さに、思わず呻く。
「良かったぁ」
西街道横の森の中で行方が分からなくなった時から、ずっと探していた。明らかに安堵した声が、耳を打つ。行方不明のままだったら、ヴィリバルトにどやしつけられるどころか斬首にもなりかねなかった。冗談に聞こえないラドヴァンの言葉に、トールは思わず腹を揺らした。
「あの」
ラドヴァンの腕が緩んだのを機に、サシャが背後のリエトとグイドをラドヴァンに示す。
「リエトとグイド、を……」
サシャからリエトに視線を移したラドヴァンは、不意に地面に膝をついた。
「覚えていらっしゃいますか、リエト殿下、あ、間違えた、……リエト陛下」
頭を掻きながら、それでも丁寧語でリエトに接するラドヴァンに、思考が止まる。『陛下』と言うことは、まさか、リエトは。
「夏炉の王宮で、お会いしたことがあると思います。春陽王チェスラフの騎士、ラドヴァンと申します」
トールの予想に違わぬ言葉を、地面に膝をついたままのラドヴァンが紡ぐ。
リエトは、行方不明だと言われていた夏炉の王。そのことを理解した一人と一冊は、言葉も無く、リエトとラドヴァンを交互に見つめていた。
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