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第五章 南への追放
5.11 襲撃から、逃れるためには
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何事も起こらず、時間が過ぎる。
時折頭上に響く音は、風なのか、それとも、修道院を襲った盗賊が何かを探している音なのか。
「ここにも、来るかもしれない」
何も見えない天井を見上げたグイドが、小さな舌打ちを漏らす。
この、行き止まりの場所では、襲撃者が現れても逃げる術は無い。どう、すれば。焦りを覚え、トールは落ち着かない視線で暗がりを見回した。おそらく学童保育の部屋なのだろう、誰も居ない、夕刻の光の中にある広めの空間の真ん中にあるクリスマスツリーに飾り付けをする小野寺と伊藤の姿が見えたのは、トールの気の迷い。
[サシャ!]
クリスマスツリーの向こうに見えた、小さな亀裂を、サシャに指し示す。少し小さいが、リエトとサシャなら、身を隠すことが可能だろう。
「リエト」
トールの意図が分かったのだろう、トールを抱き締めていないサシャの左手が、リエトの腕を引く。
「隙間、見える?」
「……これ?」
一人と一冊が見つけたものにリエトとグイドも気が付いたらしい。グイドの体温が、サシャの方へと近づく。
「隠れられるか?」
「多分」
暗闇を探ったリエトが小さな隙間に身を寄せたのを確かめると、サシャも、リエトに続いて隙間に身を隠した。
放棄された聖堂の床は、それなりに滑らかだったが、隙間の床と壁はかなり荒い。その荒さの中に違和感を覚え、トールは縞模様のように見える箇所に目をこらした。……これは、まさか!
[サシャ、これ]
小さな文字を、背表紙に並べる。
小さく頷いたサシャが手を伸ばした先にあったのは、小さく細い祭壇にぴったりと収められた、人型の像。
「……」
夏炉で狂信者に弓を向けた、黒竜騎士団のルジェクと同じ構えを見せるその像の埃を、サシャの指が器用に払う。他に、変な隙間は無いだろうか? 暗がりを見回したトールは、すぐに、リエトの側にグイドも通ることができそうな大きさの切れ込みを見つけた。
[サシャ!]
発見を、大文字で伝える。
「グイド!」
すぐにサシャは、リエトとサシャが隠れている隙間を塞ぐように立っているグイドの服の裾を強く引いた。
「ここ、見て!」
サシャの言葉に、グイドの顔が歪む。
「この、隙間。……向こうは広くなってるな」
サシャが見つけた切れ込みのような隙間に窮屈そうに身体を押し込んだグイドは、しかしすぐにサシャとリエトの方に笑顔を向けた。
「行ってみよう」
ここにいても、どうにかなるわけじゃない。独り言のようなグイドの言葉に頷く。
「歩けるか、サシャ」
「はい」
先頭に立ったグイドが、細い隙間に身体を突っ込む。
続くリエトの次に隙間に入ったサシャの腕の中で、トールは、目に映る楽しげな小野寺と伊藤の幻影を追い払った。
時折頭上に響く音は、風なのか、それとも、修道院を襲った盗賊が何かを探している音なのか。
「ここにも、来るかもしれない」
何も見えない天井を見上げたグイドが、小さな舌打ちを漏らす。
この、行き止まりの場所では、襲撃者が現れても逃げる術は無い。どう、すれば。焦りを覚え、トールは落ち着かない視線で暗がりを見回した。おそらく学童保育の部屋なのだろう、誰も居ない、夕刻の光の中にある広めの空間の真ん中にあるクリスマスツリーに飾り付けをする小野寺と伊藤の姿が見えたのは、トールの気の迷い。
[サシャ!]
クリスマスツリーの向こうに見えた、小さな亀裂を、サシャに指し示す。少し小さいが、リエトとサシャなら、身を隠すことが可能だろう。
「リエト」
トールの意図が分かったのだろう、トールを抱き締めていないサシャの左手が、リエトの腕を引く。
「隙間、見える?」
「……これ?」
一人と一冊が見つけたものにリエトとグイドも気が付いたらしい。グイドの体温が、サシャの方へと近づく。
「隠れられるか?」
「多分」
暗闇を探ったリエトが小さな隙間に身を寄せたのを確かめると、サシャも、リエトに続いて隙間に身を隠した。
放棄された聖堂の床は、それなりに滑らかだったが、隙間の床と壁はかなり荒い。その荒さの中に違和感を覚え、トールは縞模様のように見える箇所に目をこらした。……これは、まさか!
[サシャ、これ]
小さな文字を、背表紙に並べる。
小さく頷いたサシャが手を伸ばした先にあったのは、小さく細い祭壇にぴったりと収められた、人型の像。
「……」
夏炉で狂信者に弓を向けた、黒竜騎士団のルジェクと同じ構えを見せるその像の埃を、サシャの指が器用に払う。他に、変な隙間は無いだろうか? 暗がりを見回したトールは、すぐに、リエトの側にグイドも通ることができそうな大きさの切れ込みを見つけた。
[サシャ!]
発見を、大文字で伝える。
「グイド!」
すぐにサシャは、リエトとサシャが隠れている隙間を塞ぐように立っているグイドの服の裾を強く引いた。
「ここ、見て!」
サシャの言葉に、グイドの顔が歪む。
「この、隙間。……向こうは広くなってるな」
サシャが見つけた切れ込みのような隙間に窮屈そうに身体を押し込んだグイドは、しかしすぐにサシャとリエトの方に笑顔を向けた。
「行ってみよう」
ここにいても、どうにかなるわけじゃない。独り言のようなグイドの言葉に頷く。
「歩けるか、サシャ」
「はい」
先頭に立ったグイドが、細い隙間に身体を突っ込む。
続くリエトの次に隙間に入ったサシャの腕の中で、トールは、目に映る楽しげな小野寺と伊藤の幻影を追い払った。
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