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『妹』と俺と、友人達のごたごたについて 3

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 文化祭当日。

 大学で二人と待ち合わせた上で、おさむあきらが通っているお嬢様学校へと向かった。

「でっかいな」

 校門でチケットを見せながら、思わず感嘆の声を漏らしてしまう。戦前の遺物だという古い、邸宅のような校舎の向こうに、改修されたばかりの新しい現代的な建物が見える。校門の横にある小庭園も、邸宅のような校舎の向こうに見えるグラウンドもしっかりと整備されており、理が通う、男が多い大学には無い清潔感が辺り一面に漂っていた。

「初めて来たけど、良い学校だね」

 自分の学び舎との違いに半ば諦めの息を吐いた理の耳に、やはり環境の違いに驚いている高村たかむら先輩の声が響く。

「じゃ、さっさと行ってしまおうぜ」

 一方、勇介ゆうすけの方は、用事だけを済ませて帰りたそうな声を発すると、入り口でもらったパンフレットに顔を埋めた。

「先に、家政クラブに行った方が良いかな」

 その勇介が、理の袖を軽く引く。

「晶ちゃん、いるかもしれないし」

 そう言えば。『妹』、晶が所属している部活をようやく思い出す。勇介に袖を引かれるままに、理は、高村先輩と一緒に、新しい校舎の中にある家庭科室へと向かっていた。

「あ、高村さん」

 丁度店番をしていた晶の、簡素な白のエプロン姿に、理の思考が止まる。

松岡まつおかさんも。クッキー、焼きたてですよ」

 その理をまるっと無視し、晶は高村先輩と勇介に笑顔を見せた。

「あ、じゃあ、ひとつもらおうかな」

 その笑顔に釣られるように、高村先輩が財布を出す。

恵美えみは、あ、日上ひがみさんは、香澄かすみ、じゃなくって砂原すなはらさんと一緒に理数科のポスター発表の教室にいるはずですよ、松岡さん」

 その高村先輩に大きな笑顔で、蒸気を飛ばすために少しだけ開いているビニール包装入りのクッキーを手渡してから、晶は勇介の許嫁の名前と、密かに高村先輩に好意を持っている友人の名を上げた。

「上の階ですから、行ってみてください。私も、もうすぐここの店番が終わるので後で行きますから」

「そうするよ」

「えっ! いやまだ心の準備が」

 やはり、婚約者に会いに行くことに複雑な思いを抱いているのだろう、絶句した勇介の袖を、理が説明したので事情を知っている高村先輩が軽く引く。

「行こうか」

「ううっ……」

 高村先輩の笑顔に諦めたのか、勇介は項垂れたまま、高村先輩と理に挟まれた格好で歩き始めた。
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