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『妹』と俺と、友人達のごたごたについて 1
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「これ、もらってくれ」
その言葉と共に、腐れ縁友人である勇介が差し出したのは、上品な色使いの細長い紙切れ。
「おい、これ……!」
その紙切れに書かれていた、理の妹晶が通っている地元の名門お嬢様学校の名前を見つける間もなく、理の声は途中で止まった。
「どうしたんだ?」
「あ、いや、その……」
言葉を濁しながらチケットを引っ込める勇介に、いつものヘラヘラ感が無い。おかしい。覚えた違和感を何とか隠し、理はある人の顔を思い浮かべながら言った。
「高村先輩に渡せば良いじゃん」
あの『妹』、晶は、自分の学校の文化祭に理が行くことを絶対に拒絶する。それよりも、先の夏、高大連携事業の一環として先輩が手伝いをしている授業を受講した晶に一目惚れをしてしまった高村先輩が行った方が、友人が高村先輩に好意を寄せていることを知っている晶にとっても良いだろう。しかし理の思惑は、すぐに消し飛んだ。
「渡そうとしたんだけど、もう持ってるってさ」
晶だな。勇介の言葉に、腹の底が唸る。全く、こういう時だけ行動が素早い。昔から、前世から、あの『弟』は、周りを確認しつつ、好機は逃さない奴だった。
「困ったな」
いつにない勇介の声が、理を前世の思い出から引き戻す。
「望月もダメとなると、下手な奴に渡せないし……」
そう言えば、何故勇介は、お嬢様学校の文化祭の入場チケットを持っているのだろうか? 確か、チケットは学校の生徒からしか入手できないはず。転売防止のため、チケットは生徒の申告により発行され、申告した生徒の名前と固有番号が記入される。転売がばれたら、チケットに書かれている生徒が罰せられるので、お嬢様学校に通う生徒の方も、入場チケットを渡す相手は慎重に選ぶ。そんな重大なチケットを、勇介に渡す相手とは? ふと見えた、勇介が持つチケットに書かれた名前に、理は記憶を探った。『日上恵美』。確か、お嬢様学校の理数科に通っている晶の友人の一人が、そんな名前だった気がする。
「いやぁ、親から『行け』って渡されたんだけど」
勇介に疑問をぶつけると、答はあっさり返ってくる。
「俺みたいな勉強も性格もダメダメな婚約者が行ったところで、さぁ」
そう言えば、勇介は、この地方では大きめの会社の御曹司だった。普段は素振りも見せない勇介の家庭環境をようやく思い出す。
「行けば良いだろ」
婚約者からのプレゼントなら、勇介が行った方が相手も喜ぶ。その考えをそのまま、理はぶっきらぼうに言葉にした。
「でもさぁ」
なおも逡巡を続ける勇介の、背中を強く叩く。
「じゃ、高村先輩も誘って行くか?」
「え?」
理を見上げた、勇介のぽかんとした表情に、理はにやりと笑った。高村先輩なら、勇介の事情を理解して一緒に、晶もいるお嬢様学校の文化祭に付き合ってくれるだろう。
「い、いや、……それなら」
その理に、勇介が何とか頷く。
「でも、望月、チケット持ってるのか?」
「それは」
妹に頼むしかないだろう。嫌そうな顔で理を睨む晶の顔が脳裏を横切る。それでも、一肌脱ぐのが、友人というもの。らしくなく心配顔を見せた勇介に、理は再びにやりと、口の端を上げた。
その言葉と共に、腐れ縁友人である勇介が差し出したのは、上品な色使いの細長い紙切れ。
「おい、これ……!」
その紙切れに書かれていた、理の妹晶が通っている地元の名門お嬢様学校の名前を見つける間もなく、理の声は途中で止まった。
「どうしたんだ?」
「あ、いや、その……」
言葉を濁しながらチケットを引っ込める勇介に、いつものヘラヘラ感が無い。おかしい。覚えた違和感を何とか隠し、理はある人の顔を思い浮かべながら言った。
「高村先輩に渡せば良いじゃん」
あの『妹』、晶は、自分の学校の文化祭に理が行くことを絶対に拒絶する。それよりも、先の夏、高大連携事業の一環として先輩が手伝いをしている授業を受講した晶に一目惚れをしてしまった高村先輩が行った方が、友人が高村先輩に好意を寄せていることを知っている晶にとっても良いだろう。しかし理の思惑は、すぐに消し飛んだ。
「渡そうとしたんだけど、もう持ってるってさ」
晶だな。勇介の言葉に、腹の底が唸る。全く、こういう時だけ行動が素早い。昔から、前世から、あの『弟』は、周りを確認しつつ、好機は逃さない奴だった。
「困ったな」
いつにない勇介の声が、理を前世の思い出から引き戻す。
「望月もダメとなると、下手な奴に渡せないし……」
そう言えば、何故勇介は、お嬢様学校の文化祭の入場チケットを持っているのだろうか? 確か、チケットは学校の生徒からしか入手できないはず。転売防止のため、チケットは生徒の申告により発行され、申告した生徒の名前と固有番号が記入される。転売がばれたら、チケットに書かれている生徒が罰せられるので、お嬢様学校に通う生徒の方も、入場チケットを渡す相手は慎重に選ぶ。そんな重大なチケットを、勇介に渡す相手とは? ふと見えた、勇介が持つチケットに書かれた名前に、理は記憶を探った。『日上恵美』。確か、お嬢様学校の理数科に通っている晶の友人の一人が、そんな名前だった気がする。
「いやぁ、親から『行け』って渡されたんだけど」
勇介に疑問をぶつけると、答はあっさり返ってくる。
「俺みたいな勉強も性格もダメダメな婚約者が行ったところで、さぁ」
そう言えば、勇介は、この地方では大きめの会社の御曹司だった。普段は素振りも見せない勇介の家庭環境をようやく思い出す。
「行けば良いだろ」
婚約者からのプレゼントなら、勇介が行った方が相手も喜ぶ。その考えをそのまま、理はぶっきらぼうに言葉にした。
「でもさぁ」
なおも逡巡を続ける勇介の、背中を強く叩く。
「じゃ、高村先輩も誘って行くか?」
「え?」
理を見上げた、勇介のぽかんとした表情に、理はにやりと笑った。高村先輩なら、勇介の事情を理解して一緒に、晶もいるお嬢様学校の文化祭に付き合ってくれるだろう。
「い、いや、……それなら」
その理に、勇介が何とか頷く。
「でも、望月、チケット持ってるのか?」
「それは」
妹に頼むしかないだろう。嫌そうな顔で理を睨む晶の顔が脳裏を横切る。それでも、一肌脱ぐのが、友人というもの。らしくなく心配顔を見せた勇介に、理は再びにやりと、口の端を上げた。
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