瞳の奥の漁火~女をいたぶる狂気の女~

黒野拓海

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2発、3発、4発・・

男の連打が続き、定子の顔はみるみる腫れ上がっていった。
そして、男はその後十数発も彼女を殴りつけ、ようやく手を下ろした。

定子の顔は無惨に腫れ上がり、白くて美しかった頬は、紫色に変色していた。

男は息を弾ませながら、グッタリと動かなくなった定子を見下ろした。

「へっ、ざ、ざまあみろってんだ。少しは思い知ったか、この野郎。」

だが、その直後の定子の反応は、男を驚愕させるに十分なものだった。

何と、定子がそのボロボロの顔で二ヤッて笑ったのだ。

「お・・思い知ったかですって?こ、この程度で私を屈服させられると思ってるの。。バカにしないでよ。。」

「な、何言ってんだよお前、気でも狂ったか?平気な訳がねえだろ!」

この女、殴りすぎておかしくなっちまったか。。

いくら何でもやりすぎたか・・

だが、男は後悔などしなかった。生意気な態度をとったこの女が悪いのだ。
こういう奴には相応の罰を与えねば。そして、男の強さというものをきっちりと教え込まねばならない。

男は、ゆっくりと定子のスカートを捲り上げた。

バカ女め、覚悟しろよ。。

定子はパンストを下げられても無抵抗だった。

男は定子の顔を一別すると、露わになった定子の美しい足に視線を移した。

そして、抜けるように白い太股を荒々しく鷲掴みにしようとした瞬間、男はギョッとして、息を呑んだ。

「なっ、何だこれは!?」

定子の右太股には、最近つけられたと思われる、生々しい焼き印の様な傷があった。

「こ、これは、まさか。あの、ジャッジの!?」

予想していなかった事態に、男は狼狽した。定子から身を離した。

「そうよっ!ジャッジに押された焼き印よ!どう?凄いでしょ?わ、私はね、選ばれた女なのよ。」

定子は上半身を起こし、男を睨みつけた。


定子の迫力に、男はすっかり押され気味になっていた。何より、自分が狙っていたこの女が、テレビや雑誌で話題の、あのジャッジの犠牲者だった事がショックだった。

「どうしたのよ!さっさとやんなさいよ。私は何をされても平気なんだから。私は、私は。。」。

定子は再び泣きじゃくり始めた。
悲しみと恐怖、そして怒りが交錯し、ヒステリー状態なのは明らかだった。

「あ、あなたに分かる?夜、暗い道を歩いてていきなり襲われて・・誰もいない工場みたいな所に連れ込まれて・・ワ、ワイヤーみたいな、ハリガネみたいな物で手足をちぎれそうな位強く縛られて・・タイツを引き裂かれて・・真っ赤に焼けた棒を押しつけられる恐怖が。」

男はその光景が、定子が味わった恐怖が目の前にリアルに浮かび上がり、思わず息を呑んだ。

「どんなに熱かったと思う?どんなに痛かったと思う?それに比べたらね、あんたにヤられる位、どうって事ないのよ。さあ、早くやってよ!」

だが、男はもはや完全に戦意を消失していた。
男はすぐに立ち上がると、定子を放置したまま逃げ出した。

後には、首をうなだれて泣き続ける定子が残された。

彼女がジャッジに焼き印を刻まれたのは、右足ではなく、心の奥底だった。
それはもはや、時間でさえ解決出来ない、決して癒えることのない深い傷となって定子を苦しめ続けるのであった。
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