瞳の奥の漁火～女をいたぶる狂気の女～

ラストイリュージョン

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ついにその日は来た。

和葉は、米国屈指の絶叫マシーンの宝庫として有名な゛マジックマウンテン゛のショーベースにいた。
幕の下ろされた舞台の上で、和葉は中央に設置された例のマシーンをじっと見つめていた。

見た目は、なんの変哲もない黒い筒だが、内部には大小無数の歯車が取り付けられており、中にいる者の肉を切り裂き、骨を砕くというまさに醜悪なモンスターそのものだった。

そして和葉は、今夜その獲物となるのだ。

和葉はゆっくりと近づいていくと、筒の表面をそっと撫でた。

怖かった、緊張も普段の比ではなかった。だが、場合によっては死ぬかもしれない、少なくとも深刻な怪我は免れないという状況を考えれば、不思議な位落ち着いていた。

脱出劇のパイオニアであった父への憧れもあり、和葉はイリュージョンに積極的に脱出物を取り入れてきた。彼女自身、最も得意であり、１番好きな分野であった。

理由を聞かれれば、スリルを味わい冒険心を満たしてくれるから、と対外的には答えていたが、それ以外の゛何か゛が、和葉を危険へと誘っていった。

その゛何か゛の正体は、和葉にとってもはっきりとしていなかったが、長年の先日の事故でついに明らかになったのだった。

和葉の深層心理には、危険なまでの被虐願望が眠っていたのだ。

和葉は、なぜ今まで自分がここまで脱出劇に魅せられてきたのか、ようやくその本当の理由を理解した。

和葉は、極限の恐怖を、痛みを味わった時、自分がどうなるのか確かめたかった。その悪魔的な好奇心は、死への恐怖を遙かに凌駕していた。

和葉はスタッフに気づかれずに、脱出用の床蓋が開かない様、鍵を破壊していた。更に、非常用の緊急停止装置も破壊していた。まさに自殺行為だったが、和葉にはもう躊躇いはなかった。

これこそ、今夜こそ、和葉が追い求めてきた最高の舞台だった。