瞳の奥の漁火～女をいたぶる狂気の女～

待ち合わせ

3

奈緒美は歩きながら、最近人気のドーナッツ屋に出来ている行列を見た。客達は、試食用のドーナッツを美味しそうに頬張っている。

待ち合わせ場所に戻ってきた奈緒美は、時計を見た。６時２５分。もうすぐ約束の時間だ。再びさっきの女の事を考える。

綺麗な女だった。少しきつめの顔をしていたが、あれ程の美形は一般人レベルではなかなかお目にかかれないだろう。歳は奈緒美よりかなり若そうだった。

彼女は本当に自分とは無関係なのだろうか。もしかすると、今夜加虐の天使と会う約束をしているのは自分だけではないのではないか。

奈緒美は周囲を見渡した。
そして、先程自分が通ってきたドーナッツ屋の前を赤いＴシャツを着て、ジーンズを履いた女が歩いているのを視界に捕らえた。さっきの女だった。
彼女はまっすぐにこちらに向かってくる。

緊張に体を震わせる奈緒美。
やがて、その女は奈緒美の前まで来ると、ニッコリと笑った。

「さっきはどうも。どうせ待ち合わせ場所が同じなら、一緒にくればよかったですね。」

少し低めのハスキーな声で女は言った。

「貴女は一体。。」

奈緒美は呟く様に尋ねた。状況は自分の予想に近い展開を見せてはいるものの、やはり突然の事で思考が追いつかない。

「私の名前はナオ。貴女も加虐の天使と会う約束をしてるんでしょ？名前はNaomiさん、フフ、格好だけでなく名前も似てますね。」

ナオはいたずらっぽい笑みを浮かべた。改めて見ると、某有名雑誌のカリスマモデルにとても雰囲気が似ていた。最近ファーストフードのハンバーガーのＣＭにも出ていた。

奈緒美は自分の予想が当たった事を恨めしく思った。やはり今夜加虐の天使と会うのは奈緒美だけではなかった。
自分と加虐の天使が特別な関係であると、どこかで信じていた奈緒美にとっては悲しい現実だった。

自分は加虐の天使の単なる玩具の１つでしかないのだ。他に同じ様な関係の子は何人いるのだろうか。きっとみんなナオの様な若くて美しい子ばかりなのだろう。

と、すれば自分など加虐の天使からしてみれば、２軍、いや３軍クラスかもしれない。
奈緒美はだんだん惨めな気分になっていった。今夜はナオと２人で一緒に責めをうけるのだろうか。とすれば、より可愛がってもらえるのは、美しいナオの方だろう。最悪責めてももらえず、放って置かれてしまうかもしれない。

更に辛いのは、この様な状況になっても、加虐の天使を否定出来ない自分の気持ちだった。

もう、彼に責められなければ体がおかしくなってしまいそうなのだ。例え粗末に扱われようとも、遊ばれて一夜限りで捨てられようとも、今の奈緒美は、もう加虐の天使にすがるしかなかった。