瞳の奥の漁火~女をいたぶる狂気の女~

黒野拓海

文字の大きさ
上 下
280 / 424
悪魔もひれ伏す女

1

しおりを挟む
理絵がボタンを押すと、すぐに針はその動きを停止した。
理絵は、すぐに右腕の衝撃に備えて歯を食いしばったが、右腕の部分はすぐには動き出さなかった。
この一瞬の間、太股の激痛から解放された事で、理絵の緊張感はほんのわずかながら緩んでしまった。
無理もなかった。苦痛に耐える事に対して何の訓練も受けていないのだ。
誰でもそうなる。

そして、この一瞬の間は、そうした人間の心理に巧みにつけ込む為にプログラムされていたのだ。

゛ボキッ゛

正常な精神状態の人間ならば、思わず耳を塞ぎたくなる様な、醜悪な音が場内に響き、理絵の右腕は肘の部分から大きく後ろに折れ曲がった。

同時に、凄まじい絶叫が轟いた。

ほんの一瞬、気を抜いたタイミングで腕を折られた理絵は、その痛みをまともに受けてしまった。身構えてさえいれば、例えほんの数パーセントでも苦痛を和らげる事が出来たかもしれなかった。
しかし、今の理絵にはそれを悔いる余裕さえなかった。

理絵は美しい顔を激しく歪めて、泣き叫んだ。90度近く折れ曲がった彼女の肘からは、折れた骨が飛び出している。

この凄まじい光景に、場内が息を呑んだ。
ゲストも、泣き叫ぶ理絵を見つめながら沈黙していたが、やがて摩耶を見つめると感嘆の吐息を漏らした。そして、彼が摩耶に何か話しかけようとした途端、理絵が一際激しい悲鳴を上げた。

「いやあああぁぁぁぁ~っ!痛いいぃぃ~っ!何でよっ!止めるって言ったでしょ?早く止めて~っ!」

半ば半狂乱になってパニック状態で叫ぶ理絵に、場内が騒然となった。

そう。止まった筈の右足の針が、再び動き出したからだった。

摩耶が

「あら、ごめんなさい。機械の故障かしら。嘘をついたつもりはないんだけど、ま、運が悪かったと諦めてね。」

と言うと、予想外の展開に場内から大きな歓声が上がった。


「だ、騙したのね!この悪魔!汚いわ、許さな。。
きゃああああああああぁぁぁぁぁぁ~っ!痛いいいいぃぃぃぃ~っ!」

理絵は激しい苦痛に襲われながらも、摩耶に向かって叫ぼうとした。しかし、針が速度を早めて彼女の太股に深く突き刺さり始めた為、もはや話す事は出来なかった。


場内の皆がこの残酷な光景に釘付けになっている中、香奈恵だけが摩耶を見つめていた。

「なかなかやるじゃない。」

彼女は摩耶に一言だけ話しかけると、黙って見つめていた。

摩耶は、深々と頭を下げた。

冷ややかに摩耶にそそがれた香奈恵の視線は、摩耶に゛次はお前だ゛と忠告していた。

摩耶と香奈恵がにらみ合うすぐそばで、理絵は悲痛な叫びを上げ続けていた。
彼女の地獄は、これからが本番だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

パラサイト/ブランク

羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

熾ーおこりー

ようさん
ホラー
【第8回ホラー・ミステリー小説大賞参加予定作品(リライト)】  幕末一の剣客集団、新撰組。  疾風怒濤の時代、徳川幕府への忠誠を頑なに貫き時に鉄の掟の下同志の粛清も辞さない戦闘派治安組織として、倒幕派から庶民にまで恐れられた。  組織の転機となった初代局長・芹澤鴨暗殺事件を、原田左之助の視点で描く。  志と名誉のためなら死をも厭わず、やがて新政府軍との絶望的な戦争に飲み込まれていった彼らを蝕む闇とはーー ※史実をヒントにしたフィクション(心理ホラー)です 【登場人物】(ネタバレを含みます) 原田左之助(二三歳) 伊代松山藩出身で槍の名手。新撰組隊士(試衛館派) 芹澤鴨(三七歳) 新撰組筆頭局長。文武両道の北辰一刀流師範。刀を抜くまでもない戦闘の際には鉄製の軍扇を武器とする。水戸派のリーダー。 沖田総司(二一歳) 江戸出身。新撰組隊士の中では最年少だが剣の腕前は五本の指に入る(試衛館派) 山南敬助(二七歳) 仙台藩出身。土方と共に新撰組副長を務める。温厚な調整役(試衛館派) 土方歳三(二八歳)武州出身。新撰組副長。冷静沈着で自分にも他人にも厳しい。試衛館の弟子筆頭で一本気な男だが、策士の一面も(試衛館派) 近藤勇(二九歳) 新撰組局長。土方とは同郷。江戸に上り天然理心流の名門道場・試衛館を継ぐ。 井上源三郎(三四歳) 新撰組では一番年長の隊士。近藤とは先代の兄弟弟子にあたり、唯一の相談役でもある。 新見錦 芹沢の腹心。頭脳派で水戸派のブレインでもある 平山五郎 芹澤の腹心。直情的な男(水戸派) 平間(水戸派) 野口(水戸派) (画像・速水御舟「炎舞」部分)

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

処理中です...