瞳の奥の漁火~女をいたぶる狂気の女~

黒野拓海

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私自身

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「1人足らないって。。な、なんの事かしら!?」

美菜は、摩耶の言葉の意味が分からなかった。
いや。。
分からないふりをしたと言った方が良いかもしれない。

摩耶は、そんな美菜を追い込んでいくのを、楽しんでいるかの様だった。

「ナミさんという人格が現れた理由、それは、美菜さん自身に気付かれない様に〝裏の性〝を表に出す為だった。そして、その結果、加虐の性癖は解放された。
だとすれば、もう一方の被虐の性癖にも、解放される為の人格が必要なハズです。そうですよね?
でも、美菜さんの中にそんな人格は存在していない。
実際、被虐の性癖は美菜さんを通じて解放されているのにですよ。これはどういう事でしょう。」

「理由は一つしかありません。簡単な話です。
それは。。」

「お、お願い!言わないで。。」

美菜は摩耶にそう叫びながら、両手で耳を塞いでその場にしゃがみ込んだ。
しかし、摩耶は黙ってはくれなかった。

「美菜さん、あなたは最初から被虐の性癖を自覚していたんでしょ?」


言ってしまった。。

美菜が誰にも言えなかった事を、摩耶が口にしてしまった。

「これは想像ですが、美菜さんの本能が2つの〝裏の性〝を解放しようとした時、本能はおそらく2つの人格を用意しようとしたに違いありません。でも、美菜さんは被虐の性癖を解放する役を、別の人格に譲りたくなかった。。」

「だから美菜さんは、自分の分身であるナミさんをも欺き、哀れなヒロインを演じながら、その一方で。。」

摩耶は小さな溜息をついてから、静かに言った。

「解放されたいなんて嘘。あなたは日々、ナミさんにいたぶられる快楽に密かに酔いしれていたんです。」

「ナミさんも、美菜さんが演技をしているとは夢にも思わなかったみたいです。

でも、今まで何人もの女性を虐待してきた私は、責めている時の美菜さんの〝反応〝
でそれに気付いてしまったんです。」

美菜は、ガックリとうなだれながら、ただ摩耶の話を聞いていた。

摩耶は、美菜の前に腰を落とすと、美菜の顎に手を当て、優しく顔を持ち上げた。

「美菜さん。。
私の責めに従順に反応しつつ、一方で悦びを必死で隠そうとするあなたは、
とても可愛かったわ。。」

摩耶は、暗闇の中で目を細め、美菜を愛しそうに見た。

「これからはナミとしてではなく、逸見麻耶として、あなたをいたぶってあげる。。
真実が明らかになった今、もう私が無理にナミを演じる必要はないものね。

もちろん。。
あなたがナミとして私に会いに来る時は、私をどんなに惨く虐待しても構わない。
それがあなたをより美しくする事になるのなら、そんなのちっとも苦にならないわ。

もっともっと、綺麗になってね。

そして。。

その上で私の為に泣いてね、叫んでね、苦しんでね。」


美菜は、麻耶に顔を委ねたまま、目を閉じた。

無理だ。。
美菜には、もう摩耶に逆らう事が出来ないのは分かっていた。
体に刻み込まれた激しい痛み、その悦びを、忘れられるハズがなかった。


麻耶は、そんな美菜の心理を巧みに読んでいた。


「美菜さん、あなたに必要なのは私なの。
あなたには、彼氏なんて必要ない。さっさと別れてしまいなさい。

会う回数を減らせですって?
体に傷が残らない様に責めろですって?

ウフフフッ!
そんな事できる訳ないでしょ?」


麻耶は子供でもあやすかの様に微笑みながら、
美菜に言った。

そう、そんな事ができる訳がないのは、最初から
分かり切っていたのだ。

なぜなら、美菜自身がそんな事を望んでもいないのだから。


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