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2章 軌跡
10話【パーティ】
しおりを挟むガタンッ ガタンッ
と無言の空気の中、荷馬車の車輪音が雑音となって、気まづさを緩めてくれる。
酔い止めの魔法をシェリアから付与して貰ったお陰であの地獄を味わわなくて済んではいるのだが、やはり馬車も荷馬車も座席を改良すべきなんじゃないだろうか?
俺のお山さん達は悲鳴を上げている。
てか、冒険者達は慣れているから大丈夫だとしても、シェリアは乗り慣れていないはずだ。
だが、腕を組みながらスマした顔で座るその様は謎の風格が出ていた。
「じゃ、いきなりだが、自己紹介でもしていくか。」
この荷馬車が動き出して、数分、5人の空間の中に無言の空気が流れていた。
その気まづい空気を壊したのはロイだ。
流石に場慣れしているのだろう。
ロイの言葉に続いて、ロイの一番近くに座っていたゴツい盾を持った大男が口を開いた。
「アルだ。盾役としてこのパーティに参加させてもらった。よろしく。」
おいRPGみたいだな。
と思いっきりツッコんでやりたかったが、頭を下げて笑顔を大男に向ける。
別に怖かったから機嫌をとった、なんて理由で頭を下げたのではない。
ただ、あの腕で殴られたらどこかしら折れてしまいそうだから、いかにも敵対意識がありません風の雰囲気を醸し出しただけだ。
「じゃあ、次は私ね?私はフィア。役職っていうと、んー。雑用って所かしら?フフッ。よろしくね。」
え?何この人可愛い。
セシリアや、シェリアとは違った大人の女性の可愛さが、、、。
いや待て、どうしてしまったんだ、俺は。
緊張しているせいか、先程から思考がおかしくなっている。
そのせいで、隣にいるシェリアの眼圧が凄いことになっているのにも、今になるまで気づけなかった。
顔に出ていましたかね?
「あー、えーっと。ロベルトっていいます。役職は魔法使い。ですかね?よろしくお願いします。」
俺にしては良くやった方だろう。
うん。
とりあえず、次はお前の番だ、と言わんばかりにシェリアの方を向いておく。
決して、恥ずかしいからなんて事はない。
「私は、シェリア・ルー...シェリア。援護魔法を使えるわ。よろしきゅッ!」
何でだ。
何でそこで噛むんだ。
意外と緊張しているのだろうか?
というか、それよりも。
ドヤ顔で自己紹介をしておいて、噛むのは...。
「ブッ。フハッ...。」
俺だって、我慢しようと思った。
だが、無理だ。
人の自制というものは如何に脆いのか、改めて気付かされた。
「何笑ってんのよ!!」
バチンッと俺の後頭部をシェリアの平手がヒットする。
「イッテ...。」
「もう、何よ...私だって...」
ブツブツと一人で呟き出すシェリアに、かけるべき言葉が見当たらない。
一応、謝っておくか?
いや、俺は頭を殴られたのだ。
お互い様ではないか。
うん。
そうだろう。
ふと、視線を感じて周りを見た。
ニヤニヤしながら、俺たち二人を見つめる大人達に少し殺気を抱きながらも、荷馬車は北へと進んでいく。
「ごめん。シェリア。」
「ふんっ。」
この調子で大丈夫なんだろうか?
不安と希望を抱きながら、俺のお尻が割れていく。
もう物理的にも精神的にも、この旅を辞めたくなってきた。
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ありがとうございました!
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