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3話「セルベインの街」

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洞窟の奥底、暗い暗い闇の中。

そこには、血...人、血、人、血、人

どこを見ても、血と人で溢れている。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

これが宿命、運命の呪いとやつなんだろうか?
決して逃れられない運命が悪戯に何度も何度も俺に降りかかる。

「なんで、なんでなんでなんでなんでなんで!!くそっ!!くそっ!!!!」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「ここはね、シルヘイグの神樹の序層...セルベインの街っていうの。」

「シルヘイグって、あの童話の?」

「そうそう。あのシルヘイグ。」

神樹シルヘイグの童話...昔、どこかで読んだ記憶がある。
確か...神が作った神聖なる樹の中に禁制を犯した者、世界の理を反した者達を収容する場所...シルヘイグ。

神はそのシルヘイグに集めた人間たちに一つの救いを見出した。
シルヘイグの頂上へと辿り着いた人間に一つだけ願いを叶える奇跡を与える、という救いを。

シルヘイグへ送られた人間達は、願いを叶えるため樹の頂上を目指して、「神造ダンジョン」と呼ばれる塔を登っていく。
という物語だったはずだ...。

「えーと。じゃあ、あの童話は本当に存在した、ってこと?」

「そうなるね。」

「...あー、これって現実?」

「うん。現実。」

確かに、俺の身には超人外的な事が起きた...だからといって、この場所が童話で出て来た場所と言われても俄かに信じられる事ではない。

「んー、やっぱり...外に行こっか。多分その方が私の言葉よりも説得力があると思う。」

「...?あぁ。」

彼女に連れられるがまま、外へ向かう。
部屋を出て、周りを見渡すが俺の住んでいたサイツ村とはあまり文化の違いは感じない。

唯一、違ったところを挙げるとするのなら、この天井...やはり何で作られているのかは分からない。

「なぁ、エリナ?この天井って何の素材でできてるんだ?」

「あ~、これね?これはね、さっき神造ダンジョンの話をしたじゃない?」

「あぁ。」

「そこで、モンスター...いや魔物って言った方が分かりやすいかな?マッドフロッグっていう蛙に似た魔物がいるんだけど、その魔物の粘液を加工して作った物なの。」

「...そ、そうなのか?」

えぇ...これ粘液で作られてたの?!

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「じゃ、開けるよ。」

彼女が木造の大扉、その取手に手を掛けて俺に言う。

「あぁ。」

ここへ来るまで、あまり文化の違いというものを感じはしなかったため、サイツ村とあまり変わらない規模の場所だと思っていた...が、これは、この場所は、そんな俺の想像をなんか遥かに超越する景色を、情報を俺の脳へと刻み込んできた...。

「おいおい。なんだよ、これ...。」

建築物が街の奥底にまで及んで並んでいた...。

それだけならば、驚きはするが、腰を抜かすほどではないだろう。
それだけならば...だ。

たった1列、2列だけではないのだ。
この場所には、今俺のいる場所を中心として、全方向に建築物の列が並ぶ様に建っていた。
それに、あの塔、俺たちのいる真正面にある塔は何かあの湖と同じような異質な雰囲気を纏っている。

うん。絶対に近づかない。

しかし、建築物の列と列の間には、信じられない人間の数が行き交っている。中には冒険者の様な身なりをした者や、綺麗な髪色に少し耳が長い綺麗な女性...まるで童話に出てくるエルフの様だ、、、てかエルフなのではないでしょうか?

「フフッ。驚いたでしょ?」

「あ、あぁ。」

「ここがシルヘイグの神樹だって、信じてくれた?」

「さすがに、ここまでレベルの違いを見せられるとね?」

信じるほかない。この規模と住人の数。
サイツ村や、王国なんて比べ物にならないだろう。

「だよねー」

ここが、シルヘイグの樹だという事はもうほぼ確定ということで良いだろう。
良いんだが、サイツ村には...もう戻れないんだろうか?

いや、もうこの規模の人数が俺と一緒の状況に遭い、ここに連れられて来て、ここで暮らしているっていうのなら、ここから抜け出せる可能性は、ほぼゼロだろう。

だが、そうじゃないのなら。

「えっと、エリナ...」

「ん?」

「ここに住んでる人たちはみんな、外の世界から来たのか?」

「そうだね...?」

やはりそうか...。

「じゃあ、エリナもあの湖に...?」

「湖...?ううん?私は目覚めたらもう、この場所に居たの」

湖の事を知らない?
なら、俺が異質なパターンだっただけなのか?

「そうだったのか...。この樹の外には出られない、んだよな?」

「うん。この樹のどこにも外に出れるような所は無かったらしいよ?」

「そっか。」

彼女が嘘は言っている様には見えない。だが俺は、彼女が超絶美人でとい気さくで助けてくれたからって、そう簡単に人の話を信れるような純粋な心は持ち合わせていない...と思いたい。

「んん?その顔、信じてないね~?」

「ふぇ?」

そんなに顔に出ていたのだろうか?

「フフッ。冗談だよ~でもその反応、図星だね?」

「クッ...!」

この子、思っていたよりもやり手だ。
まさか、この俺が騙されるとは...ん?いやそんなこともないか。

「じゃあ、一つだけ...この神樹には神造ダンジョンっていうのがあるのはさっき言ったよね?で、それはね?あの塔、見える?」

「ああ。」

「あそこの塔の事を言ってるの。でね?あそこには近づいちゃだめだよ?危ないから!」

「あ、ああ。」

言われなくても、俺はあの塔には近づきはしないだろう。絶対に...。

まあ、でも話を聞いている感じ、出口を探す事は別に禁止はされていないのだろう。
後で出口を探してみるか。

いや、別に彼女の話を信じていない訳ではない。
決して。

そんな事を考えながら、ふと周りを見てみると景色はきつね色に染められていた。

「あれ。なんかここの夕暮れ...少し違和感がないか?」

「おっ。気づいた?そうなの。ここの夕暮れって少し明るいんだよね。」

やっぱり、神樹という事だけはあるんだろう。こんな夕暮れすらも少し神々しさを感じてしまう。

「へぇ~。あっ、ていうかこんな時間まで付き合わせてごめんな?」

「ぜーんぜん!お安い御用だよ!!フフッ。じゃっ、帰ろっ...あっ!」

「おぉ?!どうしたんだ?」

「ごめん。一つだけ、言わないといけない事があったんだった。」

「言わないといけない事?」

「そうそう...。アイクはね...?そのー、冒険者って知ってる?」

「あぁ。知ってるよ?」

「突然なんだけどさ?なる気はない...よね?冒険者。」

いやほんとに突然すぎるでしょ?!
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