最期の伝言

壱婁

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prrrr
「もしもし、元気か」
「先々月ぶりだな」
「来週予定はあるか?」
「ない」
「来てくれるか?」
「いい子にしてちゃんとベッドで待ってろよ。ハニー」
まったくもって嬉しくない口説き文句と共に切電されたが、いつもの事なのでそこはスルーしておいてコイツに何と伝えるかシュミレーションするが中々難しい。当たって砕けたくはないがぶっつけ本番でも良いだろう。腹を括りきれてないがどうにでもなれ、やればできるはずだ。



コイツがやってくる前にピーチティーと甘さ控えめのクッキーを用意してもらう。大体の事は好物を目の前に置いておけば感情が高ぶれど声を荒げてこない。大きい声や音が苦手な俺からすれば是非とも対策しておきたいからな。
「いらっしゃい」
「よぉ、いい子にしてたか?」
「ぼちぼちかな」
「にしてもいつも通り細いな。お前」
「うっせ、ばーか」
食べてはいるのに太らない身体を指さして意地悪く笑う。そんなコイツに悪態をつくまでが一通りの流れになっている。だがいつも通り悪態をつくコイツにはいつも通りの覇気はなく弱弱しく感じる。ああ、これから話すことに関して既に察しついてるからこその態度なのだろうと鈍感な俺でも分かってしまうくらい気まずい雰囲気なのだ。
「あのな……」
「知ってる。逝くんだろ」
「まあ、な」
「だろうな。ユーと一緒に今までずっと居たんだからわかる」
「ごめん」
「謝る位なら帰ってこい」
「……それはできないかな」
「じゃあ謝んな」
昔から何かと連れ出そうとしてくれていたコイツには申し訳ないが、俺はユーしか選ばないからコイツ等を選ばなかった事に、罪悪感を抱いているのにも目を背けずるずると付き合ってきたことを今突きつけられる。選ばなかったという傲慢なで自己欲的な思考に恥ずかしさも覚え涙が溢れてきてしまう。
「泣くな、触れないんだからな。昔みたいに宥めてやれないぞ」
「っく、知ってる硝子の向こう側に来たのは自分の意志だからな」
「何でとはわかっているから言わないが不便だろ」
「無意識に人を傷つけるのは嫌だからこれくらい調度良い」
「言っている意味はわかるけどやっぱ寂しいわ」
皆自分で立ち上がり前を向いて進んでいるのに俺は立ち止まり動かない事を選んだことに後悔は無いが寂しいとは感じる。











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