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孤独な心4

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「おい、佐久間。今日さ俺遅くなるから先帰っといてくれ。これ鍵な。」
「ん、分かった。」



学校やバイトへ行ったら霧崎の家に帰るようになった。
霧崎の仕事が終わる時間まで学校やバイト先で時間を潰して、俺が飯を作る。そんな感じ。
ただいまって言ったり、おかえりって言ったり、言われたり。そんな事が堪らなく嬉しかった。

チャラララーン♪チャララララーン♪チャラララーン♪

「ん、電話。誰だろ。先生?」
スマホがテーブルの上で震えていた。最近俺に電話を掛けてくるのなんて霧崎しかいなかった。
「はいはい。もしもし先生、どーしたの?」
『翔?』
「…っ!?…か、母さん…?」
『先生って何?』
「な、何でも…ない。」
『まぁ、いいわ。ねぇ、あなた昨日と今日学校休んだわね。』
「っ!!…なんで…」
『学校から連絡があったわ。まったく何を考えてるの?家を出て行くのは勝手だけどね、学校にはちゃんといきなさい。隼人だってろくに休んだ事ないのに、どれだけ間違えたら分かるの?』
「………………」
『聞いてるの?どこにいるか知らないけど、私や和己さん、隼人が恥をかくような事だけはしないでちょうだい。』

ブチッ   ツー…ツー…ツー…

力が入らなかった。手から落ちたスマホがガラガラと音を立てて転がっていく。

ほらな。先生言った通りだろ?
あの人達がしているのは自分達の心配だよ。
俺の心配なんて…しないよ。


〈暁之助side〉
「ふぅ…やっと終わった。………随分遅くなっちまったなぁ」
時計を見るともうすでに9時を回っていた。

あいつ、もう飯食ったかな…

佐久間と暮らし始めてからコンビニ弁当やカップラーメン以外にちゃんと栄養の良い飯を食うようになった。佐久間の料理は結構な腕前で、作ってくれるものはいつも美味かった。

「うし、帰るか。」

いつも汚れている部屋に帰るのは憂鬱で面倒だったが、最近は足取りも軽くて早く帰りたいと思う程だった。何よりあいつが待っていることが嬉しかった。

あの日、屋上へ行った理由は佐久間に話した通りだ。気になったから少し探した。屋上の扉を開けた時物騒なことを呟く佐久間の後ろ姿が見えた。

「………こっから飛び降りたら、どーなるかな。」

儚かった。消えてしまいそうな程に。
とても重い何かに潰されてしまいそうで、放っておけなかった。
独りで抱えるなと言った時、涙を流して、“違う”と“何でもない”という姿が苦しかった。


「つ・い・たー♪」
ガチャ
「ただいまー」
……あれ?電気、付いてねーな…
「佐久間ー?居ないのか?」
………いや、そんな筈ないよな。鍵、開いてたし…
リビングに入ると真っ暗で何も見えなかった。電気を付けるためにウロウロしていると部屋の隅に影があるのを見つけた。
「…佐久間?」
………寝てる、のか?
ゆっくりと近づく。

カシャ

「ん?」
足にあたった物を見ると佐久間のスマホだった。電源を入れると通話終了の画面で名前は《母さん》となっていた。
時間は俺が帰ってくる2時間前。

「佐久間。どうした?」

部屋の隅でうずくまっている佐久間に声をかける。言葉を発する事無くただ首を弱々しく横に振るだけだ。何でもない、大丈夫だとでも言うように。

「佐久間……こっち見ろ佐久間」

ゆっくりと顔を上げる。佐久間の顔を見て息を呑んだ。
『無』だった。目に光なんてなくて、俺が知ってる無邪気で明るい笑顔はそこにはなくて。人形のようだった。
胸が張り裂けそうだった。

何がお前をそんなに苦しめる?
感情を奪う程大きいものをなぜ独りでお前は背負っている?

「翔、良いんだよ。背負わなくていいんだ。俺には分からないから適当な事しか言えねーけど、お前は一人じゃない。俺がいるから。泣いていいんだ。」
優しく、でも強く翔を抱きしめた。翔はされるがままでどこを見ているかも分からなかった。

どれ位そうしていたのか、抱きしめていた翔の体が、くた、と力が抜けたように少し重みをました。
「翔?」
翔は規則的な呼吸をしながら寝ていた。頬には一筋だけ涙を流して。
それを見てまた胸が痛くなった。
翔を横抱きにすると寝室へ入り、同じベッドへ入った。自分より華奢な体をもう一度抱きしめ目を閉じた。

そうしないと翔が消えてしまいそうで怖かったから。
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