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最終章
最終話 新たな始まり
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――――十八年後。
秋も深まり、朝はすっかり冷たい空気が肌を刺すようになった。そんな中、アトラス城内にある騎士団の訓練場から威勢のよい声が飛び交う。
「ライル様! 今は魔法は使ってはいけません!」
「はい!」
魔法を使ってしまったライル王子に対し、ビルボートが注意する。ライル王子は使ってはいけないことは分かってはいたが相手は二歳年上のノア。どうしても剣では敵わなかったため、つい使ってしまった。
「剣でも強くなれとセイン様が仰っていましたよ」
「うるさい! 分かっているよ!」
ライル王子は力強く地を蹴り、距離を縮め、持っている木刀を大きく振る。ノアはそれを受け止め、今度はノアが攻撃を仕掛ける。流れるような動きにライル王子は受け止めるのがやっとだ。ノアが飛び上がり蹴りを加える。打たれた衝撃と勢いを抑えることができず、そのまま地面を転がる。仰向けで止まるとそのまま動かなかった。……また負けた。悔しさから動けず、じっと天井を睨みつけた。
ゆっくりとノアが近づいてきて、手を差し述べる。その手を嫌そうに顔を歪めたライル王子だったが、しぶしぶとノアの手を取り立った。
「まあまあですね」
「……そのうち絶対勝って見せるから!」
ノアが無表情でそう言うとライル王子はいつもの台詞を吐く。
「よしよし、今日はそんくらいにしておいて下さいよ。今日はセイン様の戴冠式がありますから、そろそろ準備をしないとアランに怒られますよ」
「忘れてた! ライル様! お父様に怒られる前に戻りますよ!」
「うわーそれはマズイ! それじゃ、ビルボート! また教えてね~!」
ノアに引っ張られながら後ろ向きでビルボートに手を振るライル王子。笑顔はセイン王太子にそっくりだ。二人を見ていると、まるでアランとレイを見ているようで時々錯覚を起こすくらいだった。ビルボートは二人の仲の良さを微笑ましく見つめながら手を大きく振り返した。
二人が庭園を走り抜けていると、前から赤髪の少年が大声を張り上げる。
「あっ、こんなところにいらした! エリー様が探していらっしゃいましたよ! あっ、こんな日に訓練なんてしていたんですか? ノアさんもどうして付き合うんですか! 俺まで母さんに怒られるんですからね!」
「あー、まあまあ。ごめん、俺が悪いんだよ。ははは、よし! みんなで怒られよう」
「うう……覚悟するしかないですね」
わいわい三人で城に戻るとアリスが仁王立ちで待っていた。
「ライル様。こんな大事な日に何をしていたのですか? そんなに服を汚して。お部屋でお母様がお待ちです。ノアも一緒に行きなさい。ルーク、お前はお母さんについて来なさい」
「……はい」
三人は目配せをして苦笑いをする。案の定と言ったところか。それに気が付いたアリスは、ルークとノアの頭をこづく。
ライル王子とノアがエリー王女の私室に入ると、そこには沢山の侍女とマーサがいた。
「ノア、どこへ行っていたのですか? ライル様に迷惑をかけてはいけませんよ。貴方は年上なのですからしっかり見て差し上げなければ。いずれお父様のような側近となるのでしょう?」
「……はい、すみませんお母様」
「ああ! マーサ、違うんだ! 俺が無理やりノアを誘ったんだ! 少しならいいだろ? って」
ライル王子は慌ててマーサの視界に入るようにノアの前に立った。
「そう、ライルが無理やり誘ったのですね? お父様の大事な日に……。ライルがそういう振る舞いをすると、弟や妹が真似をするのよ」
今度はライル王子に対してエリー王女が静かに怒る。それが逆に怖い。
「えー、カーターは大丈夫だよ。あいつは本ばかり読んでいるし。あ、いや……ははは……はい、ごめんなさい」
「……わかったのなら良いのです。さあ、早くお風呂に入り着替えてきてください」
エリー王女が二人を部屋から追い出すとため息をつく。
「ライルは王子という自覚が少し足りない気がします……」
「いえ、ノアがもう少しライル様を正しい方へ導けると良いのですが……。エリー様、申し訳ございません」
「マーサ。ノアが悪いわけじゃないのよ。ライルのあの奔放な性格はセイン様譲りなのよ」
苦笑いしつつも、エリー王女はそんなセイン王太子もライル王子も愛おしく思っていた。この賑やかな日常がとても楽しく幸せで、あの辛かった過去があったからこそ、今がとても素晴らしいものなのだと思えた。
◇
アトラス城内にある聖堂で戴冠式が行われた。各国の国王やアトラス王国の王族、貴族など多くの人々が見守る中、中央に真っ直ぐ伸びた赤い絨毯の上を堂々と歩くその人物をエリー王女は見つめた。
セイン王太子――――。
エリー王女は階下の脇に立ち、セイン王太子がシトラル国王の元へと向かってくるところを正面近くから見守る。
ライル王子はエリー王女の隣に立っていた。エリー王女がチラリとライル王子を見ると誇らしげに目を輝かせている。それがまたエリー王女は嬉しく小さく微笑んだ。
セイン王太子は今、アトラス王国にはなくてはならない大きな存在となっていた。主に外交を行っていたため殆ど国内にいることはなかったが、各方面からとても良い噂が入ってきていた。ジェルミア国王のいるデール王国は、セイン王太子のお陰で平和で活気のある国と大きく成長を遂げた。かつてディーン王子がいたシロルディア王国とも良好な関係を築いている。
セイン王太子が懸け橋となったことで、どこの国も安定した平和を保っていたのだった。だからこそ、今ここにいる人々は心から喜び、お祝いをするためにこの戴冠式へ駆けつけてきていた。
エリー王女の直ぐ近くに立っているリアム国王は、カーラ王妃と寄り添いながらとても誇らしそうにセイン王太子を見ている。
そんな来賓たちの様子にエリー王女もまた、セイン王太子を誇らしく思っていた。
エリー王女は視線をセイン王太子に戻す。二人でいる時とは違う威厳溢れるその姿にエリー王女は未だに胸をときめかせていた。会う機会が少ないこともあるからだろう。現に、今日は三か月ぶりにその姿を見たのだ。
人々が見守る中、セイン王太子がシトラル国王の前で跪き頭を下げる。シトラル国王は王冠を大司教から受け取ると、それをセイン王太子の頭に乗せた。その瞬間大歓声が巻き上がる。
セイン国王が誕生し、エリー王女が王妃となった瞬間だった。
その人々の歓声に鳥肌が立ったエリー王妃は、左手で胸を押さえ、右手は口を覆った。
王冠を被ったセイン国王は、後ろを振り返り、エリー王女に優しく微笑む。そして、エリー王妃に手を差し伸べてきた。エリー王女は涙を堪え、前へと進み、セイン国王の手を取る。
セイン国王に導かれ、エリー王妃はセイン国王の隣に並んだ。
より一層歓声が大きくなり、多くの笑顔が二人を見ている。感極まったエリー王妃は涙を抑えることができず、ハンカチで涙を抑えた。
「エリー」
セイン国王に名前を呼ばれ隣を見上げると、視界が遮られ唇に柔らかいものが触れた。驚いて目を見開くと、いたずらっぽく笑うセイン国王の顔がすぐ近くにあった。
「愛している」
先ほどまでとは違う、いつも自分に見せる表情にエリー王女は顔を赤らめつつも微笑んだ。
「はい、私も愛しています……」
大勢に見守れながら二人はもう一度口づけを交し、寄り添いながら中央の赤い絨毯の上を歩き始めた。
セイン国王とエリー王妃を護衛するためにギルとアランは後ろから付いて歩く。
「相変わらず仲がいいですね」
「こんな大勢の前でよくやる」
二人が大勢の前で口付けを交わした所を見たアランとギルは、表情を変えずに話している。彼らはセイン国王がエリー王妃と結婚した日からセイン国王の側近として仕えていた。
「両陛下、おめでとうございます。こちらへどうぞ」
今日は特別に城を解放していたため、聖堂から表に出ると、そこには多くの民衆が待っていた。ここでも多くの歓声が上がる。二人が手を振りそれに応えているとアルバートが近付いて声をかけてきた。
旧知の仲であるセイン国王とアルバートは目が合うと、にやりと笑い合う。アルバートは現在、念願だった騎士団の隊長を務めている。アルバートは素早く配置につき二人を誘導する。
ここでアリスとも合流した。
「両陛下、おめでとうございます。とても素敵でした」
「ありがとう」
移動中にアリスが二人に伝えると、二人は嬉しそうに微笑む。エリー王妃の側近はアリス一人で担っていた。それは、以前のように国王を選ぶ必要もなくなり、また、それほど政治的な対応をする必要がなくなったからだった。
聖堂を出た六人は民衆の前に立つため、城内に入り、演説用のバルコニーへと向かった。外からはセイン国王とエリー王妃を呼ぶ声が聞こえてくる。
セイン国王がバルコニーへ出る手前で振り返り、アラン、アルバート、ギル、アリスを順番に見つめる。
「みんな、これまでよく俺に付いてきてくれた。ありがとう。そして、これからも宜しく頼んだよ」
「はっ!」
四人は胸に手を当てて敬礼をする。それを見て満足そうに笑うセイン国王。そして、セイン国王の隣にいるエリー王女も優しく四人に微笑んでいた。
「エリー、さぁ行こう。新たな一歩だよ。これからも一緒に歩んでいこう」
セイン国王を見上げ、差し出されたセイン国王の手をエリー王妃はきゅっと握り締める。
「はい」
手を取り合い、二人は暖かな光の中へと向かっていった。
「やっとここまで来ましたね」
「いや~長かったっちゅーか、大変だったっちゅーか」
「物語でいうところのめでたしめでたしってやつじゃない?」
二人を後ろから見守るギル、アルバート、アリスがこそこそと雑談を始める。
「静かにしろ。もうすぐ演説が始まる」
アランが睨むと三人は気まずそうに黙る。
「……それに終わりじゃない。これからまた始まるんだろ」
アランが三人を見て笑うとアルバートがニヤリと笑う。
「おぅ、だな! これからもいっちょ頑張りますか!」
「ですね!」
「じゃあ、はい」
アリスが拳を前に突き出すと四人の拳がぶつかり合った。
「セイン様、エリー様、そしてアトラスのために!」
―――恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~ 完
秋も深まり、朝はすっかり冷たい空気が肌を刺すようになった。そんな中、アトラス城内にある騎士団の訓練場から威勢のよい声が飛び交う。
「ライル様! 今は魔法は使ってはいけません!」
「はい!」
魔法を使ってしまったライル王子に対し、ビルボートが注意する。ライル王子は使ってはいけないことは分かってはいたが相手は二歳年上のノア。どうしても剣では敵わなかったため、つい使ってしまった。
「剣でも強くなれとセイン様が仰っていましたよ」
「うるさい! 分かっているよ!」
ライル王子は力強く地を蹴り、距離を縮め、持っている木刀を大きく振る。ノアはそれを受け止め、今度はノアが攻撃を仕掛ける。流れるような動きにライル王子は受け止めるのがやっとだ。ノアが飛び上がり蹴りを加える。打たれた衝撃と勢いを抑えることができず、そのまま地面を転がる。仰向けで止まるとそのまま動かなかった。……また負けた。悔しさから動けず、じっと天井を睨みつけた。
ゆっくりとノアが近づいてきて、手を差し述べる。その手を嫌そうに顔を歪めたライル王子だったが、しぶしぶとノアの手を取り立った。
「まあまあですね」
「……そのうち絶対勝って見せるから!」
ノアが無表情でそう言うとライル王子はいつもの台詞を吐く。
「よしよし、今日はそんくらいにしておいて下さいよ。今日はセイン様の戴冠式がありますから、そろそろ準備をしないとアランに怒られますよ」
「忘れてた! ライル様! お父様に怒られる前に戻りますよ!」
「うわーそれはマズイ! それじゃ、ビルボート! また教えてね~!」
ノアに引っ張られながら後ろ向きでビルボートに手を振るライル王子。笑顔はセイン王太子にそっくりだ。二人を見ていると、まるでアランとレイを見ているようで時々錯覚を起こすくらいだった。ビルボートは二人の仲の良さを微笑ましく見つめながら手を大きく振り返した。
二人が庭園を走り抜けていると、前から赤髪の少年が大声を張り上げる。
「あっ、こんなところにいらした! エリー様が探していらっしゃいましたよ! あっ、こんな日に訓練なんてしていたんですか? ノアさんもどうして付き合うんですか! 俺まで母さんに怒られるんですからね!」
「あー、まあまあ。ごめん、俺が悪いんだよ。ははは、よし! みんなで怒られよう」
「うう……覚悟するしかないですね」
わいわい三人で城に戻るとアリスが仁王立ちで待っていた。
「ライル様。こんな大事な日に何をしていたのですか? そんなに服を汚して。お部屋でお母様がお待ちです。ノアも一緒に行きなさい。ルーク、お前はお母さんについて来なさい」
「……はい」
三人は目配せをして苦笑いをする。案の定と言ったところか。それに気が付いたアリスは、ルークとノアの頭をこづく。
ライル王子とノアがエリー王女の私室に入ると、そこには沢山の侍女とマーサがいた。
「ノア、どこへ行っていたのですか? ライル様に迷惑をかけてはいけませんよ。貴方は年上なのですからしっかり見て差し上げなければ。いずれお父様のような側近となるのでしょう?」
「……はい、すみませんお母様」
「ああ! マーサ、違うんだ! 俺が無理やりノアを誘ったんだ! 少しならいいだろ? って」
ライル王子は慌ててマーサの視界に入るようにノアの前に立った。
「そう、ライルが無理やり誘ったのですね? お父様の大事な日に……。ライルがそういう振る舞いをすると、弟や妹が真似をするのよ」
今度はライル王子に対してエリー王女が静かに怒る。それが逆に怖い。
「えー、カーターは大丈夫だよ。あいつは本ばかり読んでいるし。あ、いや……ははは……はい、ごめんなさい」
「……わかったのなら良いのです。さあ、早くお風呂に入り着替えてきてください」
エリー王女が二人を部屋から追い出すとため息をつく。
「ライルは王子という自覚が少し足りない気がします……」
「いえ、ノアがもう少しライル様を正しい方へ導けると良いのですが……。エリー様、申し訳ございません」
「マーサ。ノアが悪いわけじゃないのよ。ライルのあの奔放な性格はセイン様譲りなのよ」
苦笑いしつつも、エリー王女はそんなセイン王太子もライル王子も愛おしく思っていた。この賑やかな日常がとても楽しく幸せで、あの辛かった過去があったからこそ、今がとても素晴らしいものなのだと思えた。
◇
アトラス城内にある聖堂で戴冠式が行われた。各国の国王やアトラス王国の王族、貴族など多くの人々が見守る中、中央に真っ直ぐ伸びた赤い絨毯の上を堂々と歩くその人物をエリー王女は見つめた。
セイン王太子――――。
エリー王女は階下の脇に立ち、セイン王太子がシトラル国王の元へと向かってくるところを正面近くから見守る。
ライル王子はエリー王女の隣に立っていた。エリー王女がチラリとライル王子を見ると誇らしげに目を輝かせている。それがまたエリー王女は嬉しく小さく微笑んだ。
セイン王太子は今、アトラス王国にはなくてはならない大きな存在となっていた。主に外交を行っていたため殆ど国内にいることはなかったが、各方面からとても良い噂が入ってきていた。ジェルミア国王のいるデール王国は、セイン王太子のお陰で平和で活気のある国と大きく成長を遂げた。かつてディーン王子がいたシロルディア王国とも良好な関係を築いている。
セイン王太子が懸け橋となったことで、どこの国も安定した平和を保っていたのだった。だからこそ、今ここにいる人々は心から喜び、お祝いをするためにこの戴冠式へ駆けつけてきていた。
エリー王女の直ぐ近くに立っているリアム国王は、カーラ王妃と寄り添いながらとても誇らしそうにセイン王太子を見ている。
そんな来賓たちの様子にエリー王女もまた、セイン王太子を誇らしく思っていた。
エリー王女は視線をセイン王太子に戻す。二人でいる時とは違う威厳溢れるその姿にエリー王女は未だに胸をときめかせていた。会う機会が少ないこともあるからだろう。現に、今日は三か月ぶりにその姿を見たのだ。
人々が見守る中、セイン王太子がシトラル国王の前で跪き頭を下げる。シトラル国王は王冠を大司教から受け取ると、それをセイン王太子の頭に乗せた。その瞬間大歓声が巻き上がる。
セイン国王が誕生し、エリー王女が王妃となった瞬間だった。
その人々の歓声に鳥肌が立ったエリー王妃は、左手で胸を押さえ、右手は口を覆った。
王冠を被ったセイン国王は、後ろを振り返り、エリー王女に優しく微笑む。そして、エリー王妃に手を差し伸べてきた。エリー王女は涙を堪え、前へと進み、セイン国王の手を取る。
セイン国王に導かれ、エリー王妃はセイン国王の隣に並んだ。
より一層歓声が大きくなり、多くの笑顔が二人を見ている。感極まったエリー王妃は涙を抑えることができず、ハンカチで涙を抑えた。
「エリー」
セイン国王に名前を呼ばれ隣を見上げると、視界が遮られ唇に柔らかいものが触れた。驚いて目を見開くと、いたずらっぽく笑うセイン国王の顔がすぐ近くにあった。
「愛している」
先ほどまでとは違う、いつも自分に見せる表情にエリー王女は顔を赤らめつつも微笑んだ。
「はい、私も愛しています……」
大勢に見守れながら二人はもう一度口づけを交し、寄り添いながら中央の赤い絨毯の上を歩き始めた。
セイン国王とエリー王妃を護衛するためにギルとアランは後ろから付いて歩く。
「相変わらず仲がいいですね」
「こんな大勢の前でよくやる」
二人が大勢の前で口付けを交わした所を見たアランとギルは、表情を変えずに話している。彼らはセイン国王がエリー王妃と結婚した日からセイン国王の側近として仕えていた。
「両陛下、おめでとうございます。こちらへどうぞ」
今日は特別に城を解放していたため、聖堂から表に出ると、そこには多くの民衆が待っていた。ここでも多くの歓声が上がる。二人が手を振りそれに応えているとアルバートが近付いて声をかけてきた。
旧知の仲であるセイン国王とアルバートは目が合うと、にやりと笑い合う。アルバートは現在、念願だった騎士団の隊長を務めている。アルバートは素早く配置につき二人を誘導する。
ここでアリスとも合流した。
「両陛下、おめでとうございます。とても素敵でした」
「ありがとう」
移動中にアリスが二人に伝えると、二人は嬉しそうに微笑む。エリー王妃の側近はアリス一人で担っていた。それは、以前のように国王を選ぶ必要もなくなり、また、それほど政治的な対応をする必要がなくなったからだった。
聖堂を出た六人は民衆の前に立つため、城内に入り、演説用のバルコニーへと向かった。外からはセイン国王とエリー王妃を呼ぶ声が聞こえてくる。
セイン国王がバルコニーへ出る手前で振り返り、アラン、アルバート、ギル、アリスを順番に見つめる。
「みんな、これまでよく俺に付いてきてくれた。ありがとう。そして、これからも宜しく頼んだよ」
「はっ!」
四人は胸に手を当てて敬礼をする。それを見て満足そうに笑うセイン国王。そして、セイン国王の隣にいるエリー王女も優しく四人に微笑んでいた。
「エリー、さぁ行こう。新たな一歩だよ。これからも一緒に歩んでいこう」
セイン国王を見上げ、差し出されたセイン国王の手をエリー王妃はきゅっと握り締める。
「はい」
手を取り合い、二人は暖かな光の中へと向かっていった。
「やっとここまで来ましたね」
「いや~長かったっちゅーか、大変だったっちゅーか」
「物語でいうところのめでたしめでたしってやつじゃない?」
二人を後ろから見守るギル、アルバート、アリスがこそこそと雑談を始める。
「静かにしろ。もうすぐ演説が始まる」
アランが睨むと三人は気まずそうに黙る。
「……それに終わりじゃない。これからまた始まるんだろ」
アランが三人を見て笑うとアルバートがニヤリと笑う。
「おぅ、だな! これからもいっちょ頑張りますか!」
「ですね!」
「じゃあ、はい」
アリスが拳を前に突き出すと四人の拳がぶつかり合った。
「セイン様、エリー様、そしてアトラスのために!」
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