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最終章
第230話 和解
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アトラス城に到着したリアム国王率いる一行は、直ぐにシトラル国王と謁見を行った。謁見の間にはシトラル国王とセロード、ヒースクリフ、そしてアルバートが待っていた。アランとビルボートはアトラス王国側に立つ。
この時、セイン王子はエリー王女がいないことに疑問を感じた。
シトラル国王は直ぐに王座から離れ、階下に降りてくるや否やリアム国王の前で跪く。その場にいるほとんどの人がその行為に驚いた。
「この度の件、誠に感謝している。また、私のつまらぬ感情でリアム陛下、セイン王子に不快な思いをさせてしまった。この通りお詫び申し上げる」
リアム国王も片ひざをつき、右手をシトラル国王の右腕に添える。
「シトラル陛下。顔をお上げください。我らは我らの信念で行ったまで。あのまま悪魔がのさばれば、我が国も危うくなっていたでしょう。それに、セインの想いの強さは未だ変わってはおりません」
リアム国王はセイン王子を見上げ、目を合わせると小さく頷く。その合図でセイン王子もまた、シトラル国王に近寄り跪いた。リアム国王はシトラル国王を立たせ、少し距離を取る。
「シトラル陛下。お詫びなど不要にございます。私はこの国もローンズ王国同様に愛しています。そして、エリー王女のことも……とても大切に思っております」
「……わかっている。だからこそ詫びたいのだ。心の小さい父親で申し訳ない。エリーが元気になったらこの先の話をしよう」
「元気に? エリー様は今どこに? 元気になったらというのは?」
セイン王子の顔が勢いよく上がり、顔色を変えた。
シトラル国王から状況を聞いたセイン王子はギルを連れてエリー王女の私室へと走った。後ろからアランとアルバートも付いてきている。息を切らしながらエリー王女の部屋へと入り、ベッドに近づく。セイン王子が顔を覗き込むと、エリー王女は苦しそうな表情をして眠っていた。
エリー王女の体からわずかな魔力を感じる。
「ギル、解除魔法からお願い」
「は、はい」
走ってきたのでギルは荒くなった呼吸を整え、エリー王女にまず解除魔法をかけた。セルダ室長が作った魔法薬がまだ効いていたのだろう。解除魔法は直ぐに効果を表し、幾分かエリー王女の表情が和らいだ。続けて回復魔法をかけると暖かな光がエリー王女を包む。するとエリー王女の表情がみるみるうちに柔らかくなった。
「うっわーよかったぁー! 医者が用意した薬じゃ全然効かなくてよ……ありがとな、ギル! いやマジで!」
後ろで見ていたアルバートが真っ先に喜びの声を上げる。この五日間アルバートは気が気じゃなかった。エリー王女を守るためとはいえ、重い病気にしてしまったのだから。それについて誰もアルバートを責めることはしなかったが、それが逆にアルバートにとっては辛かった。
「あはは、アル先輩。エリーを守ってくれてありがとう」
「いや、わりぃ……。ちゃんと守ってやれなかった……」
先日、エリー王女が馬車の中でディーン王子にさせられたことを思い出しながら謝った。それだけじゃない、ローンズ王国での誘拐事件からずっとちゃんと守れていない。アルバートの眉間に皺を寄せた。
「んー、じゃあ先輩には罰として俺にマッサージしてくださいね」
「おう! めちゃくちゃ気持ちよくしてやるよ!」
「やったぁ。あ、ギル。エリーはこのまま暫く眠った状態なのかな?」
セイン王子がアルバートからギルに視線を移す。
「いえ、間もなく目が覚めるかと思います」
「んー、そっか。じゃあ、起きるまでここで待ってようかな。アラン、いい?」
「ああ、問題ない。俺たちは隣の部屋にいるから何かあったら呼べよ。あと病み上がりのエリーに変なことをするなよ」
「あはは、相変わらず信用ないな、俺。大丈夫だよアラン。じゃあ、ギルもアランたちの部屋で待ってて」
三人が部屋を出て行くと、寝室に静寂が訪れた。窓から優しい光が差し込み、表情の柔らかくなったエリー王女を優しく包む。セイン王子はエリー王女の顔をまたのぞき込み、頭を優しく撫でる。
「エリー……」
今はいい夢を見ているのだろうか。エリー王女の表情はとても幸せそうで穏やかだった。そんな寝顔を見つめながら、何度もこの手からこぼれ落ちていった日々を思い出す。
側近という立ち場から自分の心を偽っていたあの頃。
封印された過去を知り、諦めたあの頃。
再会し、エリー王女を遠ざけたあの頃。
やっと捕まえたと思った矢先にディーン王子に奪われたこと……。
「もう離さないから」
小さく呟いたセイン王子もまた、幸せそうな優しい笑みを浮かべていた。
この時、セイン王子はエリー王女がいないことに疑問を感じた。
シトラル国王は直ぐに王座から離れ、階下に降りてくるや否やリアム国王の前で跪く。その場にいるほとんどの人がその行為に驚いた。
「この度の件、誠に感謝している。また、私のつまらぬ感情でリアム陛下、セイン王子に不快な思いをさせてしまった。この通りお詫び申し上げる」
リアム国王も片ひざをつき、右手をシトラル国王の右腕に添える。
「シトラル陛下。顔をお上げください。我らは我らの信念で行ったまで。あのまま悪魔がのさばれば、我が国も危うくなっていたでしょう。それに、セインの想いの強さは未だ変わってはおりません」
リアム国王はセイン王子を見上げ、目を合わせると小さく頷く。その合図でセイン王子もまた、シトラル国王に近寄り跪いた。リアム国王はシトラル国王を立たせ、少し距離を取る。
「シトラル陛下。お詫びなど不要にございます。私はこの国もローンズ王国同様に愛しています。そして、エリー王女のことも……とても大切に思っております」
「……わかっている。だからこそ詫びたいのだ。心の小さい父親で申し訳ない。エリーが元気になったらこの先の話をしよう」
「元気に? エリー様は今どこに? 元気になったらというのは?」
セイン王子の顔が勢いよく上がり、顔色を変えた。
シトラル国王から状況を聞いたセイン王子はギルを連れてエリー王女の私室へと走った。後ろからアランとアルバートも付いてきている。息を切らしながらエリー王女の部屋へと入り、ベッドに近づく。セイン王子が顔を覗き込むと、エリー王女は苦しそうな表情をして眠っていた。
エリー王女の体からわずかな魔力を感じる。
「ギル、解除魔法からお願い」
「は、はい」
走ってきたのでギルは荒くなった呼吸を整え、エリー王女にまず解除魔法をかけた。セルダ室長が作った魔法薬がまだ効いていたのだろう。解除魔法は直ぐに効果を表し、幾分かエリー王女の表情が和らいだ。続けて回復魔法をかけると暖かな光がエリー王女を包む。するとエリー王女の表情がみるみるうちに柔らかくなった。
「うっわーよかったぁー! 医者が用意した薬じゃ全然効かなくてよ……ありがとな、ギル! いやマジで!」
後ろで見ていたアルバートが真っ先に喜びの声を上げる。この五日間アルバートは気が気じゃなかった。エリー王女を守るためとはいえ、重い病気にしてしまったのだから。それについて誰もアルバートを責めることはしなかったが、それが逆にアルバートにとっては辛かった。
「あはは、アル先輩。エリーを守ってくれてありがとう」
「いや、わりぃ……。ちゃんと守ってやれなかった……」
先日、エリー王女が馬車の中でディーン王子にさせられたことを思い出しながら謝った。それだけじゃない、ローンズ王国での誘拐事件からずっとちゃんと守れていない。アルバートの眉間に皺を寄せた。
「んー、じゃあ先輩には罰として俺にマッサージしてくださいね」
「おう! めちゃくちゃ気持ちよくしてやるよ!」
「やったぁ。あ、ギル。エリーはこのまま暫く眠った状態なのかな?」
セイン王子がアルバートからギルに視線を移す。
「いえ、間もなく目が覚めるかと思います」
「んー、そっか。じゃあ、起きるまでここで待ってようかな。アラン、いい?」
「ああ、問題ない。俺たちは隣の部屋にいるから何かあったら呼べよ。あと病み上がりのエリーに変なことをするなよ」
「あはは、相変わらず信用ないな、俺。大丈夫だよアラン。じゃあ、ギルもアランたちの部屋で待ってて」
三人が部屋を出て行くと、寝室に静寂が訪れた。窓から優しい光が差し込み、表情の柔らかくなったエリー王女を優しく包む。セイン王子はエリー王女の顔をまたのぞき込み、頭を優しく撫でる。
「エリー……」
今はいい夢を見ているのだろうか。エリー王女の表情はとても幸せそうで穏やかだった。そんな寝顔を見つめながら、何度もこの手からこぼれ落ちていった日々を思い出す。
側近という立ち場から自分の心を偽っていたあの頃。
封印された過去を知り、諦めたあの頃。
再会し、エリー王女を遠ざけたあの頃。
やっと捕まえたと思った矢先にディーン王子に奪われたこと……。
「もう離さないから」
小さく呟いたセイン王子もまた、幸せそうな優しい笑みを浮かべていた。
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