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第19章 悪魔との戦い
第227話 拘束
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アトラス城内を颯爽と歩くのはアルバートだった。いつも以上に目つきを鋭くし、人を寄せ付ける雰囲気は全くない。苛立ちが顔に大きく出ていた。
原因はエリー王女とディーン王子である。
エリー王女が倒れてから二日が経ったものの、エリー王女の熱は未だに下がっていない。
高熱の原因は今までの精神的な疲労から免疫力が低下し、魔法薬の効果が大きく働いてしまったのだろうということだった。セルダと共にエリー王女の回復の手立てを探すものの未だ見つかっていない。アルバートは強く責任を感じていた。
また、アルバートはエリー王女の部屋を定期的に訪れてはいたが、時間が許す限りディーン王子の動向を探っていた。ディーン王子は次期国王として真っ当に公務をこなしており、アルバートが見ている限り、一度もバフォールの姿を見かけたことはない。不審な動きは何一つなく、それが逆にアルバートを苛立たせていた。
エリー王女の部屋を出たアルバートはいつものように、ディーン王子がいる場所へ向かう。今日はディーン王子主催の社交会がアトラス城の大広間で行われていた。
贅を尽くした華やかな会場に着くと、食欲をそそる匂いが鼻孔を刺激する。楽しそうに踊る者、食事をする者、あれやこれやと話に夢中になっている者、各々がパーティを楽しんでいる様だ。
その中で、ディーン王子が多くの貴族に囲まれているのが見え、アルバートは舌打ちをする。あのニヤニヤとした笑いが気に入らない。
「アルバート。エリー様の具合いは?」
会場に入ると直ぐに一人の男が近付いてきた。
「リリュート様。いえ、まだ回復の兆しはないっすね」
「そうですか……。早く良くなってほしいとは思うけど、それはそれで危険ですからね……。それにしてもあの態度は……」
リリュートもまたディーン王子を睨んでいた。アルバートはリリュートに協力を仰ぎ、すべてを話していた。作戦が成功した後は、貴族や民衆からの混乱を抑える必要がある。そのためにはこの国で一番影響力の高い貴族、セルドーラ家を味方に付けておくことが得策だと考えたからだった。
「何か変わったことはあったっすか?」
「皆、ディーンに媚を売っているだけです。心の中では疑問に感じている。何故あいつが選ばれたのかと。認めている人は多くないでしょうね」
アルバートの問いにリリュートが答える。アルバートはディーン王子を取り巻く人々をじっくりと観察した。目で見る分には誰もが好意的に見える。
「腹の中は誰もわからないもんすよね」
ディーン王子を見れば自ずとセロードとヒースクリフが目に入る。バフォールの力を信用しきっているからか、ディーン王子の側で待機しているものの、その距離はそれほど近くではない。魂を感じられない二人を見るたび、アルバートは憤りを感じ、拳を強く握り締めた。
アルバートが暫く二人を見ていると、突然どちらもよろめき、頭を抱えて片膝を付くのが見えた。ザワザワっとざわめきが広がる。アルバートはリリュートと目を合わせると急いでその場に駆け付けた。
「セロードさん!」
アルバートがセロードに寄り添い、声をかけた。会場にいた人々は何かあったのかと怯えた様子で少しずつ距離を取り始める。リリュートはヒースクリフの元に駆け寄っていたが、やはりその周りの人々は避けるように遠ざかった。
「くっ……はあ! ……なんだ……? こ、ここは……?」
やっと呼吸が出来たかのように、息を荒くしながらセロードが辺りを見回す。
「セロードさん! 意識が!? もしかして……?」
アルバートはディーン王子を睨みつけると、ディーン王子はびくっと反応を示した。
「バフォール! 今すぐここへ!」
ディーン王子もまたこの異変に気が付きバフォールを呼びつける。しかし、いくら待ってもバフォールが来る様子はなかった。
アルバートが立ち上がり、ゆっくりとした足取りでディーン王子に近付く。じりじりと迫るアルバートに押され、ディーン王子は後退る。
「ディーン様、バフォールはどうしたんすか? もう二人を操るのはお止めになられたんすか? 悪魔の力を借り、国王を操った後の幽閉。この国を乗っ取る計画は終わりっすか?」
「な、何を言っているのだ? おい! この者を今すぐに捕らえろ! この者が二人に何かをしたに違いない! 早く捕らえろ!」
六名ほどの兵士がやってくるが、アルバートに睨まれ足がすくむ。
ディーン王子の行いが露見されれば良いと思ったアルバートは声を張り上げた。
「いい加減化けの皮を剥がしたらどうっすか?」
会場がざわめき、奇異の目がディーン王子に向けられる。
未だにバフォールが現れないこと。
セロードとヒースクリフの意識が正常に戻ったこと。
アルバートが一つの仮説を立て、確認をするためディーン王子ににじり寄る。
セロードはヒースクリフと一度目を合わせ、アルバートが何をしようとしているのか様子を見ることにした。呼ばれた兵士は捕らえて良いものか悩んでいる様子だった。それは王女側近である男と、いずれこの国の王となるとは言え他国の男。どちらが正しいのか判断が出来ずにいた。
「魔法が解けたということは、バフォールがお前の元から離れたということ! お前の悪行もここまでなんだよ!」
「な、そんなはずはない! 今、反逆者の討伐を行っている! 来るのに時間がかかっているだけだ!」
その言葉で理解した。バフォール討伐に成功したのだと。いや、例えまだ成功していなかったとしても、この男を捕らえる隙が出来たのだ。バフォールは遠く離れたところにいる。これ以上命令できない状態にすればいいだけだ。アルバートは笑みを浮かべる。
「残念だったな。お前の大切な悪魔はもういない。今すぐディーン王子を捕らえろ!!」
アルバートは自分を捕らえようとしていた兵士に命令を下す。ディーン王子は慌てて逃げようと走り出したものの、アルバートが素早く先回りをし、剣先をディーン王子の首元に添えた。
「もう何もかも終わりなんだよ」
「くっ……」
ディーン王子は諦めたのか両手を上げ、膝から崩れ落ちた。
「ばーか。悪魔になんか頼るからだ。己の力と国を信じるべきだったんだ」
頭上から聞こえてくるその声に、ディーン王子は声を押し殺して涙を流していた。
常に誰かを頼り、シロルディア王国など端から信用をしていなかったディーン王子。自分の何がいけなかったのかさえ分からない。
強いものが支配する。
力を手にいれ、それを使っただけだ。
それなのに……。
失ったものは大きかった。
それはソルブの存在。幼い頃から自分を支えてくれた唯一心を許せる相手だった。彼がいなくなり、今まで以上に孤独を感じていた。だけど、それは認めたくなかった。気付かない振りをしていた。
終わった。
そう思った瞬間、彼を失ったことの大きさがより重くのし掛かってきた。
ディーン王子はうなだれ、成すがままに拘束される。何が起きたのか分からない人々は口を開けたまま、ただ呆然と見つめているだけだった。
原因はエリー王女とディーン王子である。
エリー王女が倒れてから二日が経ったものの、エリー王女の熱は未だに下がっていない。
高熱の原因は今までの精神的な疲労から免疫力が低下し、魔法薬の効果が大きく働いてしまったのだろうということだった。セルダと共にエリー王女の回復の手立てを探すものの未だ見つかっていない。アルバートは強く責任を感じていた。
また、アルバートはエリー王女の部屋を定期的に訪れてはいたが、時間が許す限りディーン王子の動向を探っていた。ディーン王子は次期国王として真っ当に公務をこなしており、アルバートが見ている限り、一度もバフォールの姿を見かけたことはない。不審な動きは何一つなく、それが逆にアルバートを苛立たせていた。
エリー王女の部屋を出たアルバートはいつものように、ディーン王子がいる場所へ向かう。今日はディーン王子主催の社交会がアトラス城の大広間で行われていた。
贅を尽くした華やかな会場に着くと、食欲をそそる匂いが鼻孔を刺激する。楽しそうに踊る者、食事をする者、あれやこれやと話に夢中になっている者、各々がパーティを楽しんでいる様だ。
その中で、ディーン王子が多くの貴族に囲まれているのが見え、アルバートは舌打ちをする。あのニヤニヤとした笑いが気に入らない。
「アルバート。エリー様の具合いは?」
会場に入ると直ぐに一人の男が近付いてきた。
「リリュート様。いえ、まだ回復の兆しはないっすね」
「そうですか……。早く良くなってほしいとは思うけど、それはそれで危険ですからね……。それにしてもあの態度は……」
リリュートもまたディーン王子を睨んでいた。アルバートはリリュートに協力を仰ぎ、すべてを話していた。作戦が成功した後は、貴族や民衆からの混乱を抑える必要がある。そのためにはこの国で一番影響力の高い貴族、セルドーラ家を味方に付けておくことが得策だと考えたからだった。
「何か変わったことはあったっすか?」
「皆、ディーンに媚を売っているだけです。心の中では疑問に感じている。何故あいつが選ばれたのかと。認めている人は多くないでしょうね」
アルバートの問いにリリュートが答える。アルバートはディーン王子を取り巻く人々をじっくりと観察した。目で見る分には誰もが好意的に見える。
「腹の中は誰もわからないもんすよね」
ディーン王子を見れば自ずとセロードとヒースクリフが目に入る。バフォールの力を信用しきっているからか、ディーン王子の側で待機しているものの、その距離はそれほど近くではない。魂を感じられない二人を見るたび、アルバートは憤りを感じ、拳を強く握り締めた。
アルバートが暫く二人を見ていると、突然どちらもよろめき、頭を抱えて片膝を付くのが見えた。ザワザワっとざわめきが広がる。アルバートはリリュートと目を合わせると急いでその場に駆け付けた。
「セロードさん!」
アルバートがセロードに寄り添い、声をかけた。会場にいた人々は何かあったのかと怯えた様子で少しずつ距離を取り始める。リリュートはヒースクリフの元に駆け寄っていたが、やはりその周りの人々は避けるように遠ざかった。
「くっ……はあ! ……なんだ……? こ、ここは……?」
やっと呼吸が出来たかのように、息を荒くしながらセロードが辺りを見回す。
「セロードさん! 意識が!? もしかして……?」
アルバートはディーン王子を睨みつけると、ディーン王子はびくっと反応を示した。
「バフォール! 今すぐここへ!」
ディーン王子もまたこの異変に気が付きバフォールを呼びつける。しかし、いくら待ってもバフォールが来る様子はなかった。
アルバートが立ち上がり、ゆっくりとした足取りでディーン王子に近付く。じりじりと迫るアルバートに押され、ディーン王子は後退る。
「ディーン様、バフォールはどうしたんすか? もう二人を操るのはお止めになられたんすか? 悪魔の力を借り、国王を操った後の幽閉。この国を乗っ取る計画は終わりっすか?」
「な、何を言っているのだ? おい! この者を今すぐに捕らえろ! この者が二人に何かをしたに違いない! 早く捕らえろ!」
六名ほどの兵士がやってくるが、アルバートに睨まれ足がすくむ。
ディーン王子の行いが露見されれば良いと思ったアルバートは声を張り上げた。
「いい加減化けの皮を剥がしたらどうっすか?」
会場がざわめき、奇異の目がディーン王子に向けられる。
未だにバフォールが現れないこと。
セロードとヒースクリフの意識が正常に戻ったこと。
アルバートが一つの仮説を立て、確認をするためディーン王子ににじり寄る。
セロードはヒースクリフと一度目を合わせ、アルバートが何をしようとしているのか様子を見ることにした。呼ばれた兵士は捕らえて良いものか悩んでいる様子だった。それは王女側近である男と、いずれこの国の王となるとは言え他国の男。どちらが正しいのか判断が出来ずにいた。
「魔法が解けたということは、バフォールがお前の元から離れたということ! お前の悪行もここまでなんだよ!」
「な、そんなはずはない! 今、反逆者の討伐を行っている! 来るのに時間がかかっているだけだ!」
その言葉で理解した。バフォール討伐に成功したのだと。いや、例えまだ成功していなかったとしても、この男を捕らえる隙が出来たのだ。バフォールは遠く離れたところにいる。これ以上命令できない状態にすればいいだけだ。アルバートは笑みを浮かべる。
「残念だったな。お前の大切な悪魔はもういない。今すぐディーン王子を捕らえろ!!」
アルバートは自分を捕らえようとしていた兵士に命令を下す。ディーン王子は慌てて逃げようと走り出したものの、アルバートが素早く先回りをし、剣先をディーン王子の首元に添えた。
「もう何もかも終わりなんだよ」
「くっ……」
ディーン王子は諦めたのか両手を上げ、膝から崩れ落ちた。
「ばーか。悪魔になんか頼るからだ。己の力と国を信じるべきだったんだ」
頭上から聞こえてくるその声に、ディーン王子は声を押し殺して涙を流していた。
常に誰かを頼り、シロルディア王国など端から信用をしていなかったディーン王子。自分の何がいけなかったのかさえ分からない。
強いものが支配する。
力を手にいれ、それを使っただけだ。
それなのに……。
失ったものは大きかった。
それはソルブの存在。幼い頃から自分を支えてくれた唯一心を許せる相手だった。彼がいなくなり、今まで以上に孤独を感じていた。だけど、それは認めたくなかった。気付かない振りをしていた。
終わった。
そう思った瞬間、彼を失ったことの大きさがより重くのし掛かってきた。
ディーン王子はうなだれ、成すがままに拘束される。何が起きたのか分からない人々は口を開けたまま、ただ呆然と見つめているだけだった。
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