恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

文字の大きさ
上 下
226 / 235
第19章 悪魔との戦い

第226話 血の契約

しおりを挟む
 光の魔法を放ってから、かなりの時間が経過した。セイン王子の魔力はかなり多い方ではあったが、その魔力が間もなく尽きそうである。セイン王子の不安が大きくなってきた頃だった。

「セイン様。あまり残ってはおりませんが、我々の魔力もお使いください」

 ギルの声がする方を見るとギルとアリス、その後ろには子供達が跪いている。カーラの魔法のお陰でほとんどの者が動ける状態にまで回復ができたようだった。横を見ると、ウィルとアランもいた。

「みんな……。それにアラン……良かった」

 アランと目が合ったセイン王子が嬉しそうに笑う。対するアランは少し気まずそうに笑う。

「今からこの者の持っている剣で悪魔の器を破壊する」
「剣? ……もしかして、これですか?」

 ウィルがセイン王子とアランに伝えると、アランは胸から血の塊のような短剣を取り出した。それは以前、バフォールがエリー王女に与えたものだった。

「それは?」
「ブラッディソード。血の契約を交わすことで、主と共に成長をする剣。何故あいつがこれを渡したかは知らないが、負の要素はない。この剣であれば器の血液を吸い取り破壊が可能だ」

 セイン王子の問いにウィルが答える。禍々しいその剣を見ると不安は拭いきれなかった。アランに負荷はかからないのだろうか。それが顔に出ていたのだろう。ウィルが目を細める。

「心配するな。私は神だぞ」

 セイン王子は少し驚いた後、はははと笑い「そうでしたね」と応えた。

「セイン様、そろそろ……」
「うん、そうだね。よろしく」

 ギルとアリスはセイン王子の背中に片手をかざす。もう片方の手は子供と手を握っていた。二人は子供たちの魔力を注ぎ込む。セイン王子は、空っぽに近かった魔力が少しずつ戻ってくるのを感じた。

「では、私は行ってきます」

 ウィルとセイン王子に対してアランが一礼をするとウィルがセイン王子とアランに一言付け加えた。

「器が壊れたら――――」





 ドーム状になっている光の中に入るとすぐに、アランがブラッディソードの鞘と柄を掴みゆっくりと抜く。金属がこすれる音と言うより蛇の鳴き声のような音が聞こえた気がした。


 ドクン。


 抜いた瞬間に右手から一気に血が抜かれたように目眩が起きる。アランは抜いた鞘を胸にしまうと剣の状態を確かめた。

 良く見ると柄に描かれた蛇の模様がアランの腕に巻きつくように痣が出来ている。そこから血が流れ、剣の中へと真っ赤な血が染み渡っているようだった。血管のように無数に枝分かれをした模様が剣に浮かび上がる。短剣ではあったが、見る見るうちにロングソードくらいの長さに伸びていく。

「これで血の契約を交わしたことになったのか……?」

 いつの間にか目眩もなくなっていた。少し剣を振ってみる。体の一部のように軽い。柄も自分の手にしっくりと馴染み、剣の長さも調度良い。

「なるほど……これがブラッディソード……」

 アランは一人納得したように呟くとそのまま中心へと歩き出した。奥に進むとそこには小さく蹲るバフォールの姿があった。

「バフォール……」

 アランの声に気が付いたバフォールは顔を上げた。その表情はあの自身に満ち溢れた表情とは違い、力ないものだった。あれほど恐怖を感じた相手ではあったのに、今は小さく感じる。

「お前か……ああ、その剣をやっと使う気になったのか……そうだな、こうじわじわと苦しめられるより、そいつで一気にやってもらえたほうが楽だ。一思いにやってくれ」

 バフォールはゆっくりと立ち上がり、力なく笑う。アランは何故かそんな様子のバフォールに胸を痛めた。

「なんだ……悪魔に同情か……くっくっくっく。人間は面白いがそういうところがつまらない。だが、つつけば直ぐに面白い面を見せてくれる。もちろんお前にも多くの負の感情がある。それを隠し、見ないようにしていることを私は知っている。そうだな……お前は――」
「それがどうした。誰しもそういった感情を持ち合わせることもあるだろう。しかし、それを自分なりに抑えたり、解決していくからこそ成長することが出来る」

 小さな動揺を隠し、アランは一瞬でもバフォールに同情したことを悔んだ。悪魔に耳を傾けてはならない。見られてはいけない何かを隠すようにアランは剣を振りかざした。

 無抵抗に体を差し出すバフォールにブラッディソードが腹部を貫く。ドクドクと剣が血を吸い取っていることを感じるほど剣が脈打った。



 契約者の死は我の自由……。さあ、我を求めよ――――



しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

悪妃になんて、ならなきゃよかった

よつば猫
恋愛
表紙のめちゃくちゃ素敵なイラストは、二ノ前ト月先生からいただきました✨🙏✨ 恋人と引き裂かれたため、悪妃になって離婚を狙っていたヴィオラだったが、王太子の溺愛で徐々に……

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

処理中です...