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第19章 悪魔との戦い
第222話 違和感
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リアム国王が放った魔法でアランとバフォールの周りだけ粉塵が舞う。その中で二人は無傷のまま立っていた。この粉塵はバフォールが飛んできた岩を粉々にしたことによって出来たものだった。
「俺と一緒にいてよかったね」
風を起こし粉塵を払うのもバフォール。今、アランの目の前にいるバフォールはあくまでもセイン王子になりきるつもりのようだ。
「いい加減、元の姿に戻れ!」
アランが地を蹴り、素早くバフォールへと剣を振りかざす。剣が交わり、力で押し合う。
「ははは。……そんなのつまらないだろ?」
バフォールは声を圧し殺し、アランに笑顔で応える。リアム国王には声の届かない距離。アランはバフォールの剣を跳ね除け、距離を取った。
アランはチラリとリアム国王の方を見る。アリスは無事なようで、剣を手繰り寄せていたところだった。二人だけでどう戦う? リアム国王とバフォール相手では勝ち目がない。リアム国王を元に戻すことができれば……。
アリスもまた同じことを思っていた。
「陛下……。本当に我々がダルスを支持しているとお思いですか? ここにいる者たちは皆、人を思いやる心を持っています。見てください……誰もが……近くにいる子供を庇って倒れています……」
アリスは涙を袖で拭い、リアム国王に訴えかける。
「何かがおかしいと思いませんか? 違和感を……陛下は何処かで感じているはずです。だから……全力で魔力を込めなかったのではないですか?」
アリスに言われなくてもリアム国王の中には違和感があった。あの悪夢を見た朝からずっと感じていたことだ。アリスの言う通り、ダルスが健在していたときの騎士団とは違ってる。また、誰も自分に攻撃をしてこないことにも疑問を持っていた。
しかし、一番信頼しているのはセイン王子である。
しかし、自分でも分からないが、どこかで何かが違うのだと否定する自分がいる。
「なら、これは一体どういうことなのだ」
「兄さん! そんな奴らの話なんて聞く必要なんてない!」
セイン王子が声を荒げた。リアム国王は強い魔力の持ち主だけあって、完璧には信用しきっていないことに眉間に皺を寄せた。このままではリアム国王がここにいる全員を殺すことなんて出来ないだろう。リアム国王が殺さないと意味がないのだ。
どのようにして偽物の現実を本物であると思わせることができるのか。
偽物の現実の方が幸福であると思わせるか?
いや、それだけでは足りない……。
なら冷静な判断が出来なくなればいい……。
バフォールはアランと剣を交えながら考えていた。
駒は二つ。
ああ、そうか……。
良い案を思いついたバフォールがニヤリと笑みを浮かべた。
「もう俺たちの邪魔はするな!」
バフォールはセイン王子を演じ、アランに斬りかかる。それを受けるアランは小さな違和感を感じた。先程より攻撃が軽い。手を抜いている? 相手の攻撃が弱まったうえ、アランの攻撃も当たるようになった。形勢は悪くない。
「どういうつもりだ? お前は何を考えている?」
アランは剣で攻撃しながら目の前の敵に問う。
「へー、勘はいいんだ。じゃあ、そろそろ教えてあげるね」
アランの横から流れる攻撃に対し、バフォールは避けることも受けることもせず剣を体で受け止めた。
「!?」
バフォールの体を切りつけた感触でアランは剣をピタリと止めた。切ったことには切ったが、中に厚い鉄板があるように硬い。恐らくバフォール自体にはそれほどダメージはないのかもしれない。しかし、はたから見ればしっかりと切りつけているように見えた。
血が剣を伝い流れ落ちる。
アランが感じた違和感は、悪い予感に変わった。
「っ……ま、まさか!?」
その言葉に反応したのか、一瞬バフォールから笑みが溢れたような気がした。しかしそれも束の間。バフォールが持つ剣が足下に転がる。バフォールは脇腹を押さえ、そこから大量の潜血が溢れ出た。
「くっ……兄さん……っ!!」
膝から崩れ落ち、ドサッとアランの目の前で倒れた。
リアム国王が呼ばれた方向へ視線を移す。
血の付いた剣を持つアラン。
真っ赤な血を流し倒れるセイン。
それを認識した瞬間、ぐらりと景色が歪み、頭が真っ白になった。
「セイン!!」
リアム国王の声に振り返るアラン。バフォールの思惑通り、リアム国王は怒りに顔を歪めていた。
アランがこのままではまずいと思ったのも束の間だった。
かなりの距離があるにも関わらず、リアム国王が地を蹴ると一瞬で距離が詰まった。
「っ……!!」
殺気立つその気迫にアランは圧倒されながらも咄嗟に剣を構える。しかし、あまりにも早い攻撃。
ギリギリでそれを剣で受け止めはしたものの、風の魔法と共にアランはそのまま後ろへと吹き飛ばされる。背中から落ち、地を擦りつけるように更に後ろへと引きずられた。
「俺と一緒にいてよかったね」
風を起こし粉塵を払うのもバフォール。今、アランの目の前にいるバフォールはあくまでもセイン王子になりきるつもりのようだ。
「いい加減、元の姿に戻れ!」
アランが地を蹴り、素早くバフォールへと剣を振りかざす。剣が交わり、力で押し合う。
「ははは。……そんなのつまらないだろ?」
バフォールは声を圧し殺し、アランに笑顔で応える。リアム国王には声の届かない距離。アランはバフォールの剣を跳ね除け、距離を取った。
アランはチラリとリアム国王の方を見る。アリスは無事なようで、剣を手繰り寄せていたところだった。二人だけでどう戦う? リアム国王とバフォール相手では勝ち目がない。リアム国王を元に戻すことができれば……。
アリスもまた同じことを思っていた。
「陛下……。本当に我々がダルスを支持しているとお思いですか? ここにいる者たちは皆、人を思いやる心を持っています。見てください……誰もが……近くにいる子供を庇って倒れています……」
アリスは涙を袖で拭い、リアム国王に訴えかける。
「何かがおかしいと思いませんか? 違和感を……陛下は何処かで感じているはずです。だから……全力で魔力を込めなかったのではないですか?」
アリスに言われなくてもリアム国王の中には違和感があった。あの悪夢を見た朝からずっと感じていたことだ。アリスの言う通り、ダルスが健在していたときの騎士団とは違ってる。また、誰も自分に攻撃をしてこないことにも疑問を持っていた。
しかし、一番信頼しているのはセイン王子である。
しかし、自分でも分からないが、どこかで何かが違うのだと否定する自分がいる。
「なら、これは一体どういうことなのだ」
「兄さん! そんな奴らの話なんて聞く必要なんてない!」
セイン王子が声を荒げた。リアム国王は強い魔力の持ち主だけあって、完璧には信用しきっていないことに眉間に皺を寄せた。このままではリアム国王がここにいる全員を殺すことなんて出来ないだろう。リアム国王が殺さないと意味がないのだ。
どのようにして偽物の現実を本物であると思わせることができるのか。
偽物の現実の方が幸福であると思わせるか?
いや、それだけでは足りない……。
なら冷静な判断が出来なくなればいい……。
バフォールはアランと剣を交えながら考えていた。
駒は二つ。
ああ、そうか……。
良い案を思いついたバフォールがニヤリと笑みを浮かべた。
「もう俺たちの邪魔はするな!」
バフォールはセイン王子を演じ、アランに斬りかかる。それを受けるアランは小さな違和感を感じた。先程より攻撃が軽い。手を抜いている? 相手の攻撃が弱まったうえ、アランの攻撃も当たるようになった。形勢は悪くない。
「どういうつもりだ? お前は何を考えている?」
アランは剣で攻撃しながら目の前の敵に問う。
「へー、勘はいいんだ。じゃあ、そろそろ教えてあげるね」
アランの横から流れる攻撃に対し、バフォールは避けることも受けることもせず剣を体で受け止めた。
「!?」
バフォールの体を切りつけた感触でアランは剣をピタリと止めた。切ったことには切ったが、中に厚い鉄板があるように硬い。恐らくバフォール自体にはそれほどダメージはないのかもしれない。しかし、はたから見ればしっかりと切りつけているように見えた。
血が剣を伝い流れ落ちる。
アランが感じた違和感は、悪い予感に変わった。
「っ……ま、まさか!?」
その言葉に反応したのか、一瞬バフォールから笑みが溢れたような気がした。しかしそれも束の間。バフォールが持つ剣が足下に転がる。バフォールは脇腹を押さえ、そこから大量の潜血が溢れ出た。
「くっ……兄さん……っ!!」
膝から崩れ落ち、ドサッとアランの目の前で倒れた。
リアム国王が呼ばれた方向へ視線を移す。
血の付いた剣を持つアラン。
真っ赤な血を流し倒れるセイン。
それを認識した瞬間、ぐらりと景色が歪み、頭が真っ白になった。
「セイン!!」
リアム国王の声に振り返るアラン。バフォールの思惑通り、リアム国王は怒りに顔を歪めていた。
アランがこのままではまずいと思ったのも束の間だった。
かなりの距離があるにも関わらず、リアム国王が地を蹴ると一瞬で距離が詰まった。
「っ……!!」
殺気立つその気迫にアランは圧倒されながらも咄嗟に剣を構える。しかし、あまりにも早い攻撃。
ギリギリでそれを剣で受け止めはしたものの、風の魔法と共にアランはそのまま後ろへと吹き飛ばされる。背中から落ち、地を擦りつけるように更に後ろへと引きずられた。
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