恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

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第19章 悪魔との戦い

第221話 アリスの想い

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 ◇

 黒焦げた木々は薙ぎ倒され、辺りは一面岩がゴロゴロと転がっている。下敷きになっている者や、落石で多くの騎士や子供たちが傷つき倒れていた。

「陛下……」

 リアム国王のすぐ近くにいたアリスにはリアム国王が放った魔法の被害が少なく、また自らの魔法で回避することが出来た。そのため、アリスのダメージはほぼなかった。

 周りの悲惨な光景とリアム国王の悲痛な表情にアリスの胸は締め付けられた。

「これがお前たちの求めていたものなのだろう?」

 悲痛な表情から冷たい視線に変わり、アリスを睨む。それでもリアム陛下の瞳の中には悲しみが含まれていることをアリスは感じていた。信頼していた者から裏切られたと思っているのだ。それは当然だった。

 そして、もしも、真実を知り、この状況を見たら、やはりリアム陛下は悲しむだろう……。

 リアム国王の心を思ってアリスの瞳から涙が溢れた。





――――アリスはローンズ王国の下流貴族の生まれである。まだダルスが王だった頃、いつダルス国王から見放されてもおかしくない地位であり、アリスの父親と母親は常に怯え苛立っていた。

 五人兄弟の丁度真ん中に生まれ、何故かアリスだけ魔力を持っていた。それに気がついた母は隠すように言い付けた。幼い頃は気にも止めなかったが、もしかしたら父親が違うのかもしれない。いつの日かそう思うようになった。

 自分の生い立ちに自信がないアリスは、家ではとても居心地が悪い。そのため、現在の騎士団隊長であるバーミアの家にいつも入り浸っていた。彼はアリスにとって親戚にあたる。バーミアとの遊びはいつも剣稽古。それでもアリスは家にいるより楽しかった。

 十八歳の頃、バーミアから当時王子であったリアム王子についての話を聞かされた。リアム王子がクーデターを起こす仲間を探していると。にわかに信じがたい話だった。リアム王子の印象はダルス国王と同じだったからだ。

 会えばわかると言われ、女であることを隠して騎士団に入った。ちなみに男として入ったのは、まだ女性の騎士は認められていなかったからだ。

 バーミアは信頼していたし、クーデターには興味があった。この情勢には誰もが苦しんでおり、正義のために立ち上がりたい! ということは多少はあったが、そうではない。ただ今の生活が嫌だった。生きている意味を感じたかったからだった。

 中身は女性であるがゆえ、力が弱く、他の騎士たちと比べるとそれほど強くはなかったため、入団が危ぶまれた。このままではまた元の生活に戻されてしまう。そう思ったアリスは魔法を使った。この噂は瞬く間に広まり、噂を聞いたダルス国王とリアム国王がわざわざ訓練場まで見に来きたのだ。それくらい魔力を持っている者は貴重だった。

 アリスの入団が決まると同時にダルス国王に目をつけられた。戦闘員としてもだったが、女のような顔が気に行ったようだった。目の前に呼び出され、ダルスから部屋へ来るように言い渡される。一気に血の気が引き、青ざめるアリス。

 その時だった。

「陛下。今回は私にお譲り下さい。これから私の足となる者。じっくりと私の手でしつけたいと思います」

 ダルス国王の隣に立っていたリアム王子が割って入ってくる。

「なるほど。少し惜しいがたまにはお前にも褒美をやらねばな。しかし、お前から言い出すのは珍しい。私と同じで女に飽きたと見える」

 そう言い残し、ダルス国王は嬉しそうに訓練室から出て行った。アリスはどういう意味か決めかね、固まっているとリアム王子に睨まれる。

「来い! 今から私が遊んでやろう」
「え!?」

 リアム王子に腕を掴まれ、引きずられるように何処かへ向かう。その間、多くの城の者が好奇の目で見てきていた。部屋に入るとすぐにベッドへと押し倒された。

「リ、リアム様! 何を!?」

 無言のまま力付くで押さえつけられ、抵抗も虚しく首筋に痛みが走る。やはり噂通りの人ではないか! そう思った瞬間ふわっと重みがなくなった。

「……これでいい。俺に手をつけられたと思われれば誰も手出しはしない。手荒なことをして悪かった。立てるか?」

 何が起きたのかよく分からず放心状態でいると、手を差し伸べてきた。アリスはリアム王子の手を借り、起き上がって体勢を整える。

「バーミアからお前のことは聞いている」

 そう言ってから、丁寧に計画について語り始めた。リアム王子の印象がガラリと変わった瞬間だった。

 この日を境に、訓練後は毎日リアム王子の部屋へと呼ばれた。もちろん何もない。お風呂と寝る場所を提供してくれているだけである。それは女であるアリスを守るためだったのだろう。リアム王子が言うには「無駄に女を呼ぶ必要がなくて好都合」だと言っていたが、その優しさはアリスには直ぐに分かった。

 それはクーデターが終わるまで続いた。同じ時を過ごす機会が増え、リアム王子がダルス国王に何かをさせられる度に心を痛めていることをアリスは感じていた。偽りの心で人を殺めることがどんなに辛いことか想像もつかない。

 本当は心優しいリアム王子。彼がこの国の王となれば、この国は優しいものになるだろう。アリスはリアム王子に心を動かされた。彼の作り上げる国を見てみたい。そのためだったら何でもしよう。そう思った。

 だから忠義を示し、ずっと仕えてきた。そう、ずっと仕えていたからこそわかる。リアム国王の痛みが。



 何の為に陛下は耐えてきたのだ。ここで負けるわけにはいかない――――



 アリスは悲しみと同時に怒りが込み上げてきた。


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