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第19章 悪魔との戦い
第220話 最終手段
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アルバートが跪き、姿勢を正したので、エリー王女もしっかりと前を向いて聞く姿勢を取る。
「多分、今日のことで味をしめたアイツは何かと一緒に外出しよーとすんじゃねーかなと思う。エリーちゃんとしては復興の手伝いをしたいかもしれねーけど、今は何より自分の身を守ってほしい」
「はい……」
「エリーちゃんさ、俺を信じてあとは任せてくんねーかな」
現在、アトラス城にてエリー王女を守れるものはアルバートしかいなかった。何としても守り切りたいのだと強い意志が感じられるほど、アルバートはいつもより真剣な表情だった。
「はい、もちろんです。私はいつでもアルバートを信じております」
エリー王女が真っ直ぐ見据えて力強く応えると、アルバートは嬉しそうに笑う。
「うん、あんがと」
◇
アルバートがエリー王女の私室にマーサとセルダ室長を連れてきた。
「この魔法薬は魔力がない人にもちゃんと試したから大丈夫よぉ~。微熱が続くだけ。定期的に少しずつ飲んでちょうだい。あと、凄く眠くもなるから逆に楽だと思うわ~」
言いながら鞄から取り出したのは緑色に黒い斑点の付いた毒々しい液体が入った小瓶。それを、数本ローテーブルに置いた。三人が息を飲む。
「見た目は相変わらずまずそうに見えるけど……実際まずいんだから仕方がないわね」
「これ、マジで大丈夫なんすよね?」
嬉しそうに説明するセルダ室長にアルバートが改めて確認する。
「大丈夫よぉ~。被験者は三十名ほどだけだけど、全員微熱だけですんだもの。私だって、さすがにエリー様には変な薬飲ませたくないわよぉ!」
「そう……っすよね。すみません」
憤慨するセルダ室長にアルバートが謝る。
アルバートが言う最終手段とは、エリー王女を病気にすることだった。病気になってしまえば、ディーン王子も手出しはできないであろう。またアルバートもその間は自由に行動ができる。
「分かりました。ディーン様とのお食事の際に飲みます。アルバート、セルダ、ありがとう。後は頼みました」
何もせずにただ寝ているだけと聞いたときは気がひけたが、一番の最善を尽くすと決めたエリー王女はこの案に同意した。足手まといだけにはなりたくない。目の前に置かれた小瓶を一つ手に取り、手の中にぎゅっと閉じ込めた。
◇
ディーン王子との食事の前に魔法薬を飲むと、頭がくらくらしてくる。なんだか熱っぽく、体がだるい。
「エリーちゃん……大丈夫か?」
「ええ……本当に具合が悪くなるのですね。これできっと信じてもらえます」
力なく微笑むエリー王女に心配しながらも、アルバートは食堂へ連れて行った。
ふらつく足取りで食堂に入ると、既に食卓についていたディーン王子が席を立つ。
「エリー、具合が悪いのではないですか?」
直ぐに異変に気が付いたのか、素早く側に駆けよってきた。頬に触れながら顔を覗き込み、瞳が潤んでいるのを確認している。額や首に手を添え、熱まで確認しているようだった。
「ご心配ありがとうございます……大丈夫です……。お食事を……」
「いえ、これは大丈夫ではありません。すぐ部屋で休むべきです」
思った以上に心配をしているディーン王子は、部屋まで連れ添い、眠るまで側にずっといた。ディーン王子のその様子に、アルバートはこの国が欲しいだけではなく本当にエリー王女を好きなのだと感じた。
なんとも不器用な男。
しかし、絶対に許せない存在。
アルバートのいる位置はディーン王子のすぐ後ろ。今なら容易に背中から剣を突き刺すことができる状況だ。もしディーン王子が死んだら、バフォールはどうなる? 制御がなくなった悪魔は至るところで悪さをするに違いない。もし、バフォールを倒せるのであればそれで問題ないだろう。
しかし、万が一、バフォールとの戦いに敗れた場合、それほどの強い相手が野放しになるということだ。だったら結果が分かるまではディーン王子がバフォールを制御していた方がまだマシだった。
ぎゅっと拳に力を込めて、殺意を抑える。
「ディーン様。後はマーサが付き添います。ディーン様もお休みください」
少し威圧的ではあるが、一応丁寧な言葉遣いでディーン王子を追い出した。見ているだけで腹が立つ。アルバートは、ディーン王子が出て行った扉を睨みつけた。それは僅かな時間であり、直ぐに瞳を閉じ、大きく息を吐いて気持ちを落ちつかせた。
ゆっくりとエリー王女が寝ている側まで近づく。アルバートは苦しそうな寝顔を見つめ、額に手を当てた。微熱ではなく高熱のようだ。
アルバートは、そんなエリー王女を見ながら誘拐事件から今までのことを思い出していた。
「わりぃ、ちゃんと守れなくて……」
そう呟くアルバートもまた苦しそうな表情を浮かべる。額から手を放し、部屋からそっと出て行った。
「多分、今日のことで味をしめたアイツは何かと一緒に外出しよーとすんじゃねーかなと思う。エリーちゃんとしては復興の手伝いをしたいかもしれねーけど、今は何より自分の身を守ってほしい」
「はい……」
「エリーちゃんさ、俺を信じてあとは任せてくんねーかな」
現在、アトラス城にてエリー王女を守れるものはアルバートしかいなかった。何としても守り切りたいのだと強い意志が感じられるほど、アルバートはいつもより真剣な表情だった。
「はい、もちろんです。私はいつでもアルバートを信じております」
エリー王女が真っ直ぐ見据えて力強く応えると、アルバートは嬉しそうに笑う。
「うん、あんがと」
◇
アルバートがエリー王女の私室にマーサとセルダ室長を連れてきた。
「この魔法薬は魔力がない人にもちゃんと試したから大丈夫よぉ~。微熱が続くだけ。定期的に少しずつ飲んでちょうだい。あと、凄く眠くもなるから逆に楽だと思うわ~」
言いながら鞄から取り出したのは緑色に黒い斑点の付いた毒々しい液体が入った小瓶。それを、数本ローテーブルに置いた。三人が息を飲む。
「見た目は相変わらずまずそうに見えるけど……実際まずいんだから仕方がないわね」
「これ、マジで大丈夫なんすよね?」
嬉しそうに説明するセルダ室長にアルバートが改めて確認する。
「大丈夫よぉ~。被験者は三十名ほどだけだけど、全員微熱だけですんだもの。私だって、さすがにエリー様には変な薬飲ませたくないわよぉ!」
「そう……っすよね。すみません」
憤慨するセルダ室長にアルバートが謝る。
アルバートが言う最終手段とは、エリー王女を病気にすることだった。病気になってしまえば、ディーン王子も手出しはできないであろう。またアルバートもその間は自由に行動ができる。
「分かりました。ディーン様とのお食事の際に飲みます。アルバート、セルダ、ありがとう。後は頼みました」
何もせずにただ寝ているだけと聞いたときは気がひけたが、一番の最善を尽くすと決めたエリー王女はこの案に同意した。足手まといだけにはなりたくない。目の前に置かれた小瓶を一つ手に取り、手の中にぎゅっと閉じ込めた。
◇
ディーン王子との食事の前に魔法薬を飲むと、頭がくらくらしてくる。なんだか熱っぽく、体がだるい。
「エリーちゃん……大丈夫か?」
「ええ……本当に具合が悪くなるのですね。これできっと信じてもらえます」
力なく微笑むエリー王女に心配しながらも、アルバートは食堂へ連れて行った。
ふらつく足取りで食堂に入ると、既に食卓についていたディーン王子が席を立つ。
「エリー、具合が悪いのではないですか?」
直ぐに異変に気が付いたのか、素早く側に駆けよってきた。頬に触れながら顔を覗き込み、瞳が潤んでいるのを確認している。額や首に手を添え、熱まで確認しているようだった。
「ご心配ありがとうございます……大丈夫です……。お食事を……」
「いえ、これは大丈夫ではありません。すぐ部屋で休むべきです」
思った以上に心配をしているディーン王子は、部屋まで連れ添い、眠るまで側にずっといた。ディーン王子のその様子に、アルバートはこの国が欲しいだけではなく本当にエリー王女を好きなのだと感じた。
なんとも不器用な男。
しかし、絶対に許せない存在。
アルバートのいる位置はディーン王子のすぐ後ろ。今なら容易に背中から剣を突き刺すことができる状況だ。もしディーン王子が死んだら、バフォールはどうなる? 制御がなくなった悪魔は至るところで悪さをするに違いない。もし、バフォールを倒せるのであればそれで問題ないだろう。
しかし、万が一、バフォールとの戦いに敗れた場合、それほどの強い相手が野放しになるということだ。だったら結果が分かるまではディーン王子がバフォールを制御していた方がまだマシだった。
ぎゅっと拳に力を込めて、殺意を抑える。
「ディーン様。後はマーサが付き添います。ディーン様もお休みください」
少し威圧的ではあるが、一応丁寧な言葉遣いでディーン王子を追い出した。見ているだけで腹が立つ。アルバートは、ディーン王子が出て行った扉を睨みつけた。それは僅かな時間であり、直ぐに瞳を閉じ、大きく息を吐いて気持ちを落ちつかせた。
ゆっくりとエリー王女が寝ている側まで近づく。アルバートは苦しそうな寝顔を見つめ、額に手を当てた。微熱ではなく高熱のようだ。
アルバートは、そんなエリー王女を見ながら誘拐事件から今までのことを思い出していた。
「わりぃ、ちゃんと守れなくて……」
そう呟くアルバートもまた苦しそうな表情を浮かべる。額から手を放し、部屋からそっと出て行った。
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