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第18章 脅かす者
第218話 惑わす者
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リアム国王の攻撃を受けたラックが体勢を整え跪くと、剣を置いて敵意がないことを示す。
「陛下! 我々は誰一人として裏切ってはおりません! 今もなおリアム陛下に忠誠を誓っております!」
「では、何故私の知らないところで集まっているのだ」
「はい。現在、シロルディア王国のディーン王子が悪魔を使い、アトラス王国を占拠しております。我々はその悪魔を倒すべく集まっております。この度の一件はその悪魔、バフォールによるものと思われます」
ラックが何も知らない様子のリアム国王に状況を伝えた。
「そのような話は聞いたことがない。何故、事前に報告をしないのだ」
リアム国王は混乱していた。欠落した記憶の中にこのことも含まれているのかもしれない。先ほどから出てくる悪魔という言葉は、ラック以外からも耳にしていた。直ぐに口裏を合わせられるものだとは思えないため、悪魔が二人を連れ去ったという可能性は確かにあるなと思った。ラックの言葉を信用しかけた時だった。
ざわっとした空気を感じ、視線をラックから黒焦げた森の奥へと移動させる。その奥から、セイン王子が真っすぐ前を見据えてゆっくりと歩いてきていた。
「セイン! 母さん、王太后は?」
リアム国王の言葉に答えることなく、セイン王子はそのまま真っすぐ突き進む。
騎士たちはリアム国王とセイン王子に挟まれた形となった。セイン王子の威圧的な雰囲気から、騎士たちが横へと広がり道を作る。セイン王子はそこを通り、リアム国王の前に立った。
「母さんは無事だよ……だけど……ここにいる人たちは皆……ダルスの支持者だ……残念だけどやるしかない」
そう言いながら剣を抜き、リアム国王に背を向ける形でセイン王子が後ろを振り返る。セイン王子はゆっくりと視線を動かした後、深い笑みを浮かべた。その笑顔にその場にいた全員は、ぞくりと背中に冷たいものが走る。それはバフォールと対峙した時と同じであり、誰もが偽物であると感じた。
「お前はバフォールだな……セイン様に扮し、リアム陛下を惑わすようなことを!!」
アランが声を荒げると、セイン王子が嬉しそうに微笑む。この笑みもリアム国王からは見えていない。
「何を言ってるの? んー、その恰好からして君はアトラスの人間だよね? ダルスを支持して何かメリットはあるの? ああ、君も力でねじ伏せるような世界が好きなんだ。……そんな奴はこの世に必要ないんだよ!」
セイン王子はアランに攻撃をしかけた。剣と剣がぶつかり、金属音が鳴り響く。アランは攻防を繰り返しながらも状況を整理していた。
話しぶりからして、セイン王子はアランを知らない風を装っている。それは二人が出会っていない世界線にいるということだ。リアム国王とセイン王子の母親が生きているという世界では自分と出会うことはないのかもしれない。
また、二人が洗脳されている可能性があるかもしれないとアランは一瞬考えたが、先ほどの笑みはバフォールを思わせるものだった。
「ほら、考え事なんかしている暇ないんじゃない?」
セイン王子は絶え間なく攻撃を続ける。確かにアランはそれを防ぐのに必死だった。バフォールを倒せばリアム国王の洗脳は解けるかもしれないが、二人を相手にするには分が悪すぎた。
一方、リアム国王は跪いているラックに剣を向けている。
「立て。お前は忠実な配下だと思っていただけに残念だ。立たぬのならこのまま――」
振り下ろした剣とラックの間にアリスが入り、剣で受け止めた。リアム国王は相手が変わろう
とも、気にすることなくそのままアリスに攻撃を加える。
「くっ……。陛下! お目覚めください!!」
「何に目覚めろと? 昔の俺にか? 父のような非道なものに!」
アリスもリアム国王の攻撃を受けるだけで精一杯だった。速くて重い攻撃に、どんどん後ろへと下がっていく。
「違います! 陛下は! 我々民が暮らしやすくなるように――! はぁ。はぁ。多くの幸せを作り上げて下さいました! あぁっ!」
剣が弾かれ、アリスの手から遠くに飛ばされた。肩で息をしながら、この危険な状況でも真っ直ぐに見据える。リアム国王はアリスの首に剣先を付ける。
「では、目覚めろとはどういうことだ? この状況はどう説明する?」
「あそこにいるセイン様は本物ではございません!」
「セインを偽者呼ばわりするとは!」
首を跳ねようと剣を振り上げた。しかし、リアム国王はそこでピタリと止める。
「……もういい。ダルスを支持する者に慈悲を与えるつもりはない。一気に終わらせよう。セイン! あれをやる。防御を」
リアム国王は剣を地面に突き刺し、剣を通して大地に魔力を込める。地が徐々に揺れ初め、ゴゴゴゴゴと地鳴りがしてきた。魔力が込められた大中小様々な岩が宙に浮かび上がる。立つこともままならなくなるほどの地震で、ほとんどの者が地に手を付けた。
「まずい! 全員上からの攻撃に備えろ!」
アランがそう叫んだと同時だった。
空から無数の大きな岩が勢いよく降り注ぐ――――!
「陛下! 我々は誰一人として裏切ってはおりません! 今もなおリアム陛下に忠誠を誓っております!」
「では、何故私の知らないところで集まっているのだ」
「はい。現在、シロルディア王国のディーン王子が悪魔を使い、アトラス王国を占拠しております。我々はその悪魔を倒すべく集まっております。この度の一件はその悪魔、バフォールによるものと思われます」
ラックが何も知らない様子のリアム国王に状況を伝えた。
「そのような話は聞いたことがない。何故、事前に報告をしないのだ」
リアム国王は混乱していた。欠落した記憶の中にこのことも含まれているのかもしれない。先ほどから出てくる悪魔という言葉は、ラック以外からも耳にしていた。直ぐに口裏を合わせられるものだとは思えないため、悪魔が二人を連れ去ったという可能性は確かにあるなと思った。ラックの言葉を信用しかけた時だった。
ざわっとした空気を感じ、視線をラックから黒焦げた森の奥へと移動させる。その奥から、セイン王子が真っすぐ前を見据えてゆっくりと歩いてきていた。
「セイン! 母さん、王太后は?」
リアム国王の言葉に答えることなく、セイン王子はそのまま真っすぐ突き進む。
騎士たちはリアム国王とセイン王子に挟まれた形となった。セイン王子の威圧的な雰囲気から、騎士たちが横へと広がり道を作る。セイン王子はそこを通り、リアム国王の前に立った。
「母さんは無事だよ……だけど……ここにいる人たちは皆……ダルスの支持者だ……残念だけどやるしかない」
そう言いながら剣を抜き、リアム国王に背を向ける形でセイン王子が後ろを振り返る。セイン王子はゆっくりと視線を動かした後、深い笑みを浮かべた。その笑顔にその場にいた全員は、ぞくりと背中に冷たいものが走る。それはバフォールと対峙した時と同じであり、誰もが偽物であると感じた。
「お前はバフォールだな……セイン様に扮し、リアム陛下を惑わすようなことを!!」
アランが声を荒げると、セイン王子が嬉しそうに微笑む。この笑みもリアム国王からは見えていない。
「何を言ってるの? んー、その恰好からして君はアトラスの人間だよね? ダルスを支持して何かメリットはあるの? ああ、君も力でねじ伏せるような世界が好きなんだ。……そんな奴はこの世に必要ないんだよ!」
セイン王子はアランに攻撃をしかけた。剣と剣がぶつかり、金属音が鳴り響く。アランは攻防を繰り返しながらも状況を整理していた。
話しぶりからして、セイン王子はアランを知らない風を装っている。それは二人が出会っていない世界線にいるということだ。リアム国王とセイン王子の母親が生きているという世界では自分と出会うことはないのかもしれない。
また、二人が洗脳されている可能性があるかもしれないとアランは一瞬考えたが、先ほどの笑みはバフォールを思わせるものだった。
「ほら、考え事なんかしている暇ないんじゃない?」
セイン王子は絶え間なく攻撃を続ける。確かにアランはそれを防ぐのに必死だった。バフォールを倒せばリアム国王の洗脳は解けるかもしれないが、二人を相手にするには分が悪すぎた。
一方、リアム国王は跪いているラックに剣を向けている。
「立て。お前は忠実な配下だと思っていただけに残念だ。立たぬのならこのまま――」
振り下ろした剣とラックの間にアリスが入り、剣で受け止めた。リアム国王は相手が変わろう
とも、気にすることなくそのままアリスに攻撃を加える。
「くっ……。陛下! お目覚めください!!」
「何に目覚めろと? 昔の俺にか? 父のような非道なものに!」
アリスもリアム国王の攻撃を受けるだけで精一杯だった。速くて重い攻撃に、どんどん後ろへと下がっていく。
「違います! 陛下は! 我々民が暮らしやすくなるように――! はぁ。はぁ。多くの幸せを作り上げて下さいました! あぁっ!」
剣が弾かれ、アリスの手から遠くに飛ばされた。肩で息をしながら、この危険な状況でも真っ直ぐに見据える。リアム国王はアリスの首に剣先を付ける。
「では、目覚めろとはどういうことだ? この状況はどう説明する?」
「あそこにいるセイン様は本物ではございません!」
「セインを偽者呼ばわりするとは!」
首を跳ねようと剣を振り上げた。しかし、リアム国王はそこでピタリと止める。
「……もういい。ダルスを支持する者に慈悲を与えるつもりはない。一気に終わらせよう。セイン! あれをやる。防御を」
リアム国王は剣を地面に突き刺し、剣を通して大地に魔力を込める。地が徐々に揺れ初め、ゴゴゴゴゴと地鳴りがしてきた。魔力が込められた大中小様々な岩が宙に浮かび上がる。立つこともままならなくなるほどの地震で、ほとんどの者が地に手を付けた。
「まずい! 全員上からの攻撃に備えろ!」
アランがそう叫んだと同時だった。
空から無数の大きな岩が勢いよく降り注ぐ――――!
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