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第18章 脅かす者
第215話 唯一の光
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――数分前。
倒しては新たに生まれていた地獄の使者は、ある時を境に倒しても新たに出てくることはなかった。
「騎士団、子供達はその場で待機!」
「陛下はどちらへ?」
騎士団副隊長のラックが尋ねると、リアム国王は森の奥に視線を移す。
「向こうに複数の魔力を感じる。そこへ行く」
「では我々も!」
「いや、次の戦闘準備のためそれぞれ治療と体力回復に努めよ」
「……はっ!」
リアム国王が歩を進めると、アランとビルボートも後に続いた。
「我々はお供致します」
アランが伝えるとリアム国王は僅かに頷き、止めることはしなかった。
整備されていない林の中を三人は無言で突き進む。リアム国王はその中で次の戦いについて考えていた。
既に魔力を使い果たした子供たち。バフォールの魔力を封印をするのは諦めざる終えない状況だった。ならば、刺し違えてでもバフォールを倒すしかない。
セインのために――――。
ローンズ王国を侵略し強き王となったダルスは、近隣の国全てを力でねじ伏せ支配する。投獄、拷問、脅迫や処刑などの暴力的な手段によって反対者を弾圧することによって、誰もが恐れ、従わざる負えない状況を作り上げていった。
更に、ダルスはより力を得るため、強い魔力を持つ女性を攫い子供を産ませた。
それがリアムとセインである。
リアムは幼いころからダルスに剣を教わってきた。強く厳しく、毎日血を吐くような日々だった。幼いリアムが弱音を吐けば、ダルスは母であるメーヴェルに暴力をふるう。それが辛くて、リアムは心を抑え必死に訓練してきた。
城内を歩けば、人々は脅え、へりくだる。リアムが住む場所は悪魔の城と囁かれるほど、血に染まっていた。幼いながらに父の行動に疑問を感じていたリアムは、隠れて多くの書籍を読み漁る。知識が増えれば増えるほど、父の行動は間違っているのだと思った。
しかしリアムは忠実な息子を演じ、ダルスが欲しいと思うことを全てやってのける。セインが産まれたことなど知る必要がないほどに、非道と呼ばれようとも汚いこともなんでもやってのけた。
何のために?
それは母と弟を守り、幸せにするためだ。
いつしかリアムはダルスの右腕と呼ばれるようになったが、母メーヴェルは、リアムが無理をしてダルスに取り繕っていることを知っていた。そして、リアムに対していつも切なそう笑うのだった。
「こんなことをさせてごめんなさい……」
そう言ってリアムに涙を見せた時もある。リアムにとってそれは辛いものだった。
何をしても母は辛そうだった。
幸せにするという方法が分からなかったリアムは、ダルスから二人を遠ざけることしか出来ない。
しかしセインは違った。
セインの明るさはメーヴェルとリアムの心を明るくする。セインがいるときだけは、いつも楽しく過ごせた。
唯一の光。
セインは母や兄の苦悩を知っていて、わざと明るく振る舞ってることもわかっていた。それでも、その明るさは二人にとって心の安らぎであり、心の支えだった。
「お願い、この国を変えられるのは兄さんしかいないんだ」
セインが放った言葉は、母と弟を幸せにするための光の道しるべになった。
二人のための平和な国を作ろうと決意するきっかけだった。
着々と進むクーデターの準備。
しかし、ダルスがそのことに勘づいてしまった。首謀者を探そうと躍起になっていたとき、セインが矢面に立たされた。兵士がセインを連れて行こうとしたとき、メーヴェルがセインを守るために声を上げる。
「セインではありません!! 首謀者は私です!!」
「母さんっ!!」
ダルスは怒り、セインに母親の処刑役を命じた。
恐らく母は息子に罪を着せたくないと考えたのだろう。
母は自ら、その場で命を絶った。
母を助けることが出来なかった。
セインに大きな心の傷を与えてしまった。
その場にいれば怒りに身を任せ、ダルスを討つこともできたはずなのに……。
リアムの作戦は失敗だった。
「兄さんのせいじゃない。俺がもっと強かったら……!!」
「いや、これは全て俺が負うべき責任だ」
悲しんでる暇はない。
残されたセインだけでも幸せにしなければとリアムは固く誓った。
そして、それを脅かす存在は全て消した。
そう……ダルスを含む全てを……。
だから今回も必ず消さなくてはならない。
バフォールを自らの手で――――。
リアム国王とバフォールは激しい攻防を繰り返す。どちらも一歩も引かなかった。
「お前は随分と汚れているなぁ……。だからお前では私には勝てない」
「そうは言うが、お前から笑みは消えているようだが?」
魔法には魔法で打ち消す。バフォールの魔法もまたリアム国王にはきかなかった。剣と魔法が激しくぶつかり合う。鬱蒼と生えていた周りの木々が、跡形もなく消えるほどに。
バフォールがリアム国王から距離を取り、自らの剣を消し去ると、リアム国王は訝しげにバフォールを見た。
「お前は強い。さすが多くの命を奪っただけはある。しかし、お前は弱い。くっくっく。それがどういう意味かすぐに分かるだろう」
「っ!!」
気味の悪い笑顔で右手の指を弾くと、リアムの足元がぽっかりと大きな穴が開く。それはあまりにも一瞬のことで、抵抗することも出来ないままリアムは穴の中へと落ちて行った――――。
倒しては新たに生まれていた地獄の使者は、ある時を境に倒しても新たに出てくることはなかった。
「騎士団、子供達はその場で待機!」
「陛下はどちらへ?」
騎士団副隊長のラックが尋ねると、リアム国王は森の奥に視線を移す。
「向こうに複数の魔力を感じる。そこへ行く」
「では我々も!」
「いや、次の戦闘準備のためそれぞれ治療と体力回復に努めよ」
「……はっ!」
リアム国王が歩を進めると、アランとビルボートも後に続いた。
「我々はお供致します」
アランが伝えるとリアム国王は僅かに頷き、止めることはしなかった。
整備されていない林の中を三人は無言で突き進む。リアム国王はその中で次の戦いについて考えていた。
既に魔力を使い果たした子供たち。バフォールの魔力を封印をするのは諦めざる終えない状況だった。ならば、刺し違えてでもバフォールを倒すしかない。
セインのために――――。
ローンズ王国を侵略し強き王となったダルスは、近隣の国全てを力でねじ伏せ支配する。投獄、拷問、脅迫や処刑などの暴力的な手段によって反対者を弾圧することによって、誰もが恐れ、従わざる負えない状況を作り上げていった。
更に、ダルスはより力を得るため、強い魔力を持つ女性を攫い子供を産ませた。
それがリアムとセインである。
リアムは幼いころからダルスに剣を教わってきた。強く厳しく、毎日血を吐くような日々だった。幼いリアムが弱音を吐けば、ダルスは母であるメーヴェルに暴力をふるう。それが辛くて、リアムは心を抑え必死に訓練してきた。
城内を歩けば、人々は脅え、へりくだる。リアムが住む場所は悪魔の城と囁かれるほど、血に染まっていた。幼いながらに父の行動に疑問を感じていたリアムは、隠れて多くの書籍を読み漁る。知識が増えれば増えるほど、父の行動は間違っているのだと思った。
しかしリアムは忠実な息子を演じ、ダルスが欲しいと思うことを全てやってのける。セインが産まれたことなど知る必要がないほどに、非道と呼ばれようとも汚いこともなんでもやってのけた。
何のために?
それは母と弟を守り、幸せにするためだ。
いつしかリアムはダルスの右腕と呼ばれるようになったが、母メーヴェルは、リアムが無理をしてダルスに取り繕っていることを知っていた。そして、リアムに対していつも切なそう笑うのだった。
「こんなことをさせてごめんなさい……」
そう言ってリアムに涙を見せた時もある。リアムにとってそれは辛いものだった。
何をしても母は辛そうだった。
幸せにするという方法が分からなかったリアムは、ダルスから二人を遠ざけることしか出来ない。
しかしセインは違った。
セインの明るさはメーヴェルとリアムの心を明るくする。セインがいるときだけは、いつも楽しく過ごせた。
唯一の光。
セインは母や兄の苦悩を知っていて、わざと明るく振る舞ってることもわかっていた。それでも、その明るさは二人にとって心の安らぎであり、心の支えだった。
「お願い、この国を変えられるのは兄さんしかいないんだ」
セインが放った言葉は、母と弟を幸せにするための光の道しるべになった。
二人のための平和な国を作ろうと決意するきっかけだった。
着々と進むクーデターの準備。
しかし、ダルスがそのことに勘づいてしまった。首謀者を探そうと躍起になっていたとき、セインが矢面に立たされた。兵士がセインを連れて行こうとしたとき、メーヴェルがセインを守るために声を上げる。
「セインではありません!! 首謀者は私です!!」
「母さんっ!!」
ダルスは怒り、セインに母親の処刑役を命じた。
恐らく母は息子に罪を着せたくないと考えたのだろう。
母は自ら、その場で命を絶った。
母を助けることが出来なかった。
セインに大きな心の傷を与えてしまった。
その場にいれば怒りに身を任せ、ダルスを討つこともできたはずなのに……。
リアムの作戦は失敗だった。
「兄さんのせいじゃない。俺がもっと強かったら……!!」
「いや、これは全て俺が負うべき責任だ」
悲しんでる暇はない。
残されたセインだけでも幸せにしなければとリアムは固く誓った。
そして、それを脅かす存在は全て消した。
そう……ダルスを含む全てを……。
だから今回も必ず消さなくてはならない。
バフォールを自らの手で――――。
リアム国王とバフォールは激しい攻防を繰り返す。どちらも一歩も引かなかった。
「お前は随分と汚れているなぁ……。だからお前では私には勝てない」
「そうは言うが、お前から笑みは消えているようだが?」
魔法には魔法で打ち消す。バフォールの魔法もまたリアム国王にはきかなかった。剣と魔法が激しくぶつかり合う。鬱蒼と生えていた周りの木々が、跡形もなく消えるほどに。
バフォールがリアム国王から距離を取り、自らの剣を消し去ると、リアム国王は訝しげにバフォールを見た。
「お前は強い。さすが多くの命を奪っただけはある。しかし、お前は弱い。くっくっく。それがどういう意味かすぐに分かるだろう」
「っ!!」
気味の悪い笑顔で右手の指を弾くと、リアムの足元がぽっかりと大きな穴が開く。それはあまりにも一瞬のことで、抵抗することも出来ないままリアムは穴の中へと落ちて行った――――。
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