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第18章 脅かす者
第214話 変化
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移動した場所は少し離れた林の中。アランはサン、ビルボートはアリスとニーキュを担ぎ、比較的平らな場所へ並べて下ろした。怪我の状態を確認するため、服を切り裂く。
「これは……」
即死するような場所は避けられていたが、体のいたるところに穴が開いていた。そこから血があふれ出ている。急いで止血を行ったものの、既に大量の血を失っていたアリスとサンの顔は真っ青だった。確かに今はかろうじて生きてはいるが手遅れだ。あとは時間の問題だろう……。
「アリスおねえちゃんは? サンは?」
不安そうに側に立ち尽くしていたニーキュが声をかけてきた。アランが顔を上げ、首を横に振る。
「すまない。手遅れだ……」
「そんなっ……やだ……いやだ……おねえちゃん……サン……」
ニーキュがふらふらと横たわる二人の間に脱力したように座った。傷口を覆う真っ赤に染まった包帯に手を添え、しくしくと泣いている。
「ギルがいれば……」
アランが小さく溢すと、ニーキュがぱっと顔を上げた。
「ぼ、ぼくがやります……!」
「え?」
ニーキュがアリスとサンの手を握り、瞳を閉じる。ニーキュはギルのように回復魔法を使おうとしているようだった。しかし、ニーキュは攻撃性の魔力の持ち主である。攻撃性を持つ魔力の持ち主は回復魔法は一切使えない。そのことを知っていたアランがビルボートに視線を送った。何も言わなくてもいいと言うかのようにビルボートが首を振る。
アランはニーキュのやりたいようにさせることにした。
ニーキュは魔力に違いがあることを知らない。ただ、助けたいという思いだけだった。
呼吸を整え、ニーキュが意識を集中させる。
冷たい風が木々を揺らす音ではなく、アリスとサンの呼吸に耳を澄ませた。
回復魔法は魔力の流れが全く違う。それはギルと一緒に倒れたサンや兵士を回復したときに知った。ギルの魔力は他の誰とも違っており、生命の息吹に寄り添うように柔らかくて温かい魔力だった。
あの日、ギルが使った魔法を思い出しながら、同じように魔力を流そうとするものの、柔らかくて温かい魔力なんてどう作っていいのか分からなかった。
だけどたすけたい。
また笑顔をみたい。
声がききたい。
焦れば焦るほどよくわからなくなった。
「大丈夫だ。落ち着いて。ゆっくりでいい。俺と呼吸を合わせろ」
いつの間にかニーキュの呼吸が荒くなっていたため、アランが後ろに座りニーキュの肩に両手を置いた。
「はい……」
おねがい、ぼくにちからを……。
ギルおにいちゃん……。
ニーキュはアランの呼吸に合わせながら、ギルやアリス、そしてローンズの騎士たちから受けた愛情やいつも気にかけてくれていたサンの優しさを思い出していた。
ここには優しいひとがたくさんいる。
守りたいひとがたくさんいる。
ぼくはこの先もずっと……ずっと……このひとたちのそばにいたい……。
体の芯に小さな光が灯った気がした。
その光が波紋のように広がり、ふわっと温かさに包まれた気がした。
「まさか……魔力の質が変わるなんて……」
思わず声を出して驚いたアランが口に手を当てて、現状を把握するようにじっと見つめた。ニーキュの手から温かい優しい光が溢れ、その光が二人の体を包んでいく。
魔力の質が変化するという事例は今までなかった。しかし実際目の前で起きたのだ。奇跡なんかではない。恐らく何か理由があるのだろうとアランは思った。
「お、顔色が!」
アリスの脇にいたビルボートが声を出す。それを聞いたアランもサンの顔を覗き込み確めた。確かに顔色が良くなっている。
「凄い……」
アランとビルボートの声にニーキュが瞳を開けた。
「本当だ……アリスおねえちゃん……サン……良かった……。でもまだ足りない……」
ニーキュはそのまま治癒に集中した。二人同時に魔力を注いでいたため、頭がくらくらとしてきたが、ニーキュは止めなかった。自分が倒れても良いから全快するまでやろうと決めていたからだ。
それから数分後、ニーキュは意識を失った――――。
◇
「さて、私の楽しみを奪った代わりに次はお前が相手をしてくれるのか?」
先程いた場所ではリアム国王がバフォールと対峙していた。
「ああ。私が相手をしよう」
魔法はあまり効果がないと知っていたため、リアム国王は無表情のまま剣を構える。
「まあ良い。お前は骨がありそうだからな」
バフォールは目を細めると、右手で剣を作り上げた。掛かって来いと言わんばかりの笑みを見せた。
挑発に乗ったわけではないが、リアム国王から攻撃を仕掛けた。一瞬で間合いを詰め、切りつける。ギリギリのところでバフォールが後ろに避けたが、首にかけていた赤いストラが切れ、ハラリと舞い落ちた。
「ほぅ……今までで会った中で一番強いかもしれないな……」
バフォールが嬉しそうに目を細め、後ろに反らした反動を活かして横から剣を振るう。それを難なくリアム国王が剣で受け止めた。バフォールがリアム国王の剣を力で押し返し、上から魔力を込め振り下ろす。
その瞬間爆発が起こり粉塵が舞った。
バフォールの攻撃に対し、リアムが同等の魔力を剣に込めたことによる爆発だった。しかし、どちらも傷をつけることは出来ていない。視界の悪い中、二人の攻防が続いていった。
「これは……」
即死するような場所は避けられていたが、体のいたるところに穴が開いていた。そこから血があふれ出ている。急いで止血を行ったものの、既に大量の血を失っていたアリスとサンの顔は真っ青だった。確かに今はかろうじて生きてはいるが手遅れだ。あとは時間の問題だろう……。
「アリスおねえちゃんは? サンは?」
不安そうに側に立ち尽くしていたニーキュが声をかけてきた。アランが顔を上げ、首を横に振る。
「すまない。手遅れだ……」
「そんなっ……やだ……いやだ……おねえちゃん……サン……」
ニーキュがふらふらと横たわる二人の間に脱力したように座った。傷口を覆う真っ赤に染まった包帯に手を添え、しくしくと泣いている。
「ギルがいれば……」
アランが小さく溢すと、ニーキュがぱっと顔を上げた。
「ぼ、ぼくがやります……!」
「え?」
ニーキュがアリスとサンの手を握り、瞳を閉じる。ニーキュはギルのように回復魔法を使おうとしているようだった。しかし、ニーキュは攻撃性の魔力の持ち主である。攻撃性を持つ魔力の持ち主は回復魔法は一切使えない。そのことを知っていたアランがビルボートに視線を送った。何も言わなくてもいいと言うかのようにビルボートが首を振る。
アランはニーキュのやりたいようにさせることにした。
ニーキュは魔力に違いがあることを知らない。ただ、助けたいという思いだけだった。
呼吸を整え、ニーキュが意識を集中させる。
冷たい風が木々を揺らす音ではなく、アリスとサンの呼吸に耳を澄ませた。
回復魔法は魔力の流れが全く違う。それはギルと一緒に倒れたサンや兵士を回復したときに知った。ギルの魔力は他の誰とも違っており、生命の息吹に寄り添うように柔らかくて温かい魔力だった。
あの日、ギルが使った魔法を思い出しながら、同じように魔力を流そうとするものの、柔らかくて温かい魔力なんてどう作っていいのか分からなかった。
だけどたすけたい。
また笑顔をみたい。
声がききたい。
焦れば焦るほどよくわからなくなった。
「大丈夫だ。落ち着いて。ゆっくりでいい。俺と呼吸を合わせろ」
いつの間にかニーキュの呼吸が荒くなっていたため、アランが後ろに座りニーキュの肩に両手を置いた。
「はい……」
おねがい、ぼくにちからを……。
ギルおにいちゃん……。
ニーキュはアランの呼吸に合わせながら、ギルやアリス、そしてローンズの騎士たちから受けた愛情やいつも気にかけてくれていたサンの優しさを思い出していた。
ここには優しいひとがたくさんいる。
守りたいひとがたくさんいる。
ぼくはこの先もずっと……ずっと……このひとたちのそばにいたい……。
体の芯に小さな光が灯った気がした。
その光が波紋のように広がり、ふわっと温かさに包まれた気がした。
「まさか……魔力の質が変わるなんて……」
思わず声を出して驚いたアランが口に手を当てて、現状を把握するようにじっと見つめた。ニーキュの手から温かい優しい光が溢れ、その光が二人の体を包んでいく。
魔力の質が変化するという事例は今までなかった。しかし実際目の前で起きたのだ。奇跡なんかではない。恐らく何か理由があるのだろうとアランは思った。
「お、顔色が!」
アリスの脇にいたビルボートが声を出す。それを聞いたアランもサンの顔を覗き込み確めた。確かに顔色が良くなっている。
「凄い……」
アランとビルボートの声にニーキュが瞳を開けた。
「本当だ……アリスおねえちゃん……サン……良かった……。でもまだ足りない……」
ニーキュはそのまま治癒に集中した。二人同時に魔力を注いでいたため、頭がくらくらとしてきたが、ニーキュは止めなかった。自分が倒れても良いから全快するまでやろうと決めていたからだ。
それから数分後、ニーキュは意識を失った――――。
◇
「さて、私の楽しみを奪った代わりに次はお前が相手をしてくれるのか?」
先程いた場所ではリアム国王がバフォールと対峙していた。
「ああ。私が相手をしよう」
魔法はあまり効果がないと知っていたため、リアム国王は無表情のまま剣を構える。
「まあ良い。お前は骨がありそうだからな」
バフォールは目を細めると、右手で剣を作り上げた。掛かって来いと言わんばかりの笑みを見せた。
挑発に乗ったわけではないが、リアム国王から攻撃を仕掛けた。一瞬で間合いを詰め、切りつける。ギリギリのところでバフォールが後ろに避けたが、首にかけていた赤いストラが切れ、ハラリと舞い落ちた。
「ほぅ……今までで会った中で一番強いかもしれないな……」
バフォールが嬉しそうに目を細め、後ろに反らした反動を活かして横から剣を振るう。それを難なくリアム国王が剣で受け止めた。バフォールがリアム国王の剣を力で押し返し、上から魔力を込め振り下ろす。
その瞬間爆発が起こり粉塵が舞った。
バフォールの攻撃に対し、リアムが同等の魔力を剣に込めたことによる爆発だった。しかし、どちらも傷をつけることは出来ていない。視界の悪い中、二人の攻防が続いていった。
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