213 / 235
第18章 脅かす者
第213話 犠牲
しおりを挟む
バフォールの右腕にニーキュが収まっているため、左手で二人をいたぶるように魔法を放つ。その攻撃でアリスとサンは、ニーキュの目の前でじわりじわりと傷付いていった。
何度も立ち向かうアリスとサン。二人が傷つく度に、ニーキュの心も傷ついていく。
「や、やめて……」
ニーキュが重ねていた震える手をバフォールの胸元に移動させ、ぐっと引っ張る。闇色の真っ黒な瞳がニーキュを見た。
「ん? ああそうか、戦いは嫌いだったな。では、お前のために直ぐに終らせてあげよう――」
「きゃあああっ!」
アリスの悲鳴に驚き、ニーキュが振り返ると、バフォールから放たれた赤黒い無数の槍がアリスの体に刺さっていた。そのままゆっくりと横に倒れ、重たい音を響かせる。
「っ!?」
ニーキュがアリスの方へ向かおうとするが、バフォールの手によって身動きが取れない。アリスの体からゆっくりと流れてくる真っ赤な血を見つめ、ニーキュの視界がぼやける。
「嫌だ…… は、離して……」
「くっくっく……。さて、次はお前の兄だな」
バフォールから離れようと必死に暴れていたが、その言葉に視線を上げた。
「兄……?」
「なんだ、知らないのか? 血の匂いが全く同じ……ということは、両親が同じだということだ。だから必死にお前を助けようと――」
「黙れ……余計なことを言うな……」
サンはボロボロの体でやっと立っている状態。片手で体を押さえながら、バフォールを睨み言葉を遮った。
デール王国では三人の魔力を持つ男性を監禁し、多くの女性と関係を持たせた。そして、魔力を持つ子供を量産させることに成功したのだ。
それが、魔力戦闘部隊の子供たちである。
三分の一の確立で同じ父親だという可能性はあるが、母親までも同じということは極めて低かった。また、子供を産めば良いという考えから両親が誰かなどは情報として残してはいなかった。もちろんデール王国側でも知らない。
しかし、サンはニーキュと兄弟であることを知っていた――――。
母親は囚われた男性の一人と結婚しており、子供が一人いた。それがサンである。慎ましく田舎で暮らしていた三人だったが、ある日、魔力を持つ父親とサンはデール王国に捕まり、幽閉されたのだ。サンはまだ五歳だった。
子供の腰には「R」という焼き印がしてあり、子供の頃から「家族の証」であると聞かされていた。父親も母親にもそれは付いている。そしてある日、サンはNo.29に同じ焼き印を見つけたのだった。
この時、サンは母親が生きていることを知り、いつか囚われた父親を救い出し、弟と共に母親の元に帰ろうと決めた。サンは周りを欺くため、誰よりも従順でいた。また、安全を考え、ニーキュに真実を伝えるつもりはまだなかったのだ。
「くっくっくっ。動揺しているのか」
バフォールはまた面白いオモチャを見つけたかのようにニヤニヤと何かを思案している。
緩んだ手を感じ取り、ニーキュは少し離れたアリスの所へと駆け出した。サンのことも気になるが、今はアリスの方が大事だった。たとえ利用しようと思われていたとしても、優しくしてもらえたことは嬉しかった。笑顔を見せてくれるアリスが大好きだった。
「そうか……それなら一緒にいかせてあげよう」
バフォールは遠ざかるニーキュの背中に笑顔で手をかざす。先程と同じように赤黒い無数の槍が飛び出した――――。
ニーキュの背中に衝撃と重みを感じる。それと同時に前に倒れ込んだニーキュは、アリスに覆い被さるように重なった。何が起きたかわからず、薄く目を開ける。体が痛い。それに、全身が重く、起き上がることができなかった。
「ああ、お前はなんと罪深い! 二人はお前のために犠牲になったのだ! お前のことを大切に思っていたというのに酷い人間だ」
背後からバフォールの悲痛の声が聞こえた。その言葉にニーキュは、驚いた。嫌な予感を感じながら慌てて右を向くと銀色の髪がニーキュの顔にかかった。
「サン? ど、どうして……」
力を込めて体を脇にそらし起き上がる。サンの体からも大量の血が流れ出ていた。真赤に染まる自分の手。アリスやサンの血でどんどん服が滲みてくる。
「あああ……ぼ、ぼくのせいだ……ぼくが……ぼくが……っ」
倒れた二人を目の前に大粒の涙が次々と溢れ出る。
「そうだ、お前のせいだ。二人はもうまもなく死ぬ……」
背後から冷たい言葉が返ってくる。しかし、ニーキュは聞き逃さなかった。
『もうまもなく死ぬ』ということは、今はまだ二人は生きている!
その時だった。眩しい光が辺りを包む。眩しくて目を閉じると誰かが自分の体を抱えた。
「嫌だ、離れたくない……」
「大丈夫、助けに来た。遅くなってすまない」
聞き覚えのない声だった。しかし敵ではない気がする。
「ま、待って! 二人、生きてる! 二人も連れて行って! 二人を助けて!!」
ニーキュは初めて大きな声を出した。
必死だった。
自分が何とかしなければいけないと思った。
助けたい!
助けたいんだ――!
何度も立ち向かうアリスとサン。二人が傷つく度に、ニーキュの心も傷ついていく。
「や、やめて……」
ニーキュが重ねていた震える手をバフォールの胸元に移動させ、ぐっと引っ張る。闇色の真っ黒な瞳がニーキュを見た。
「ん? ああそうか、戦いは嫌いだったな。では、お前のために直ぐに終らせてあげよう――」
「きゃあああっ!」
アリスの悲鳴に驚き、ニーキュが振り返ると、バフォールから放たれた赤黒い無数の槍がアリスの体に刺さっていた。そのままゆっくりと横に倒れ、重たい音を響かせる。
「っ!?」
ニーキュがアリスの方へ向かおうとするが、バフォールの手によって身動きが取れない。アリスの体からゆっくりと流れてくる真っ赤な血を見つめ、ニーキュの視界がぼやける。
「嫌だ…… は、離して……」
「くっくっく……。さて、次はお前の兄だな」
バフォールから離れようと必死に暴れていたが、その言葉に視線を上げた。
「兄……?」
「なんだ、知らないのか? 血の匂いが全く同じ……ということは、両親が同じだということだ。だから必死にお前を助けようと――」
「黙れ……余計なことを言うな……」
サンはボロボロの体でやっと立っている状態。片手で体を押さえながら、バフォールを睨み言葉を遮った。
デール王国では三人の魔力を持つ男性を監禁し、多くの女性と関係を持たせた。そして、魔力を持つ子供を量産させることに成功したのだ。
それが、魔力戦闘部隊の子供たちである。
三分の一の確立で同じ父親だという可能性はあるが、母親までも同じということは極めて低かった。また、子供を産めば良いという考えから両親が誰かなどは情報として残してはいなかった。もちろんデール王国側でも知らない。
しかし、サンはニーキュと兄弟であることを知っていた――――。
母親は囚われた男性の一人と結婚しており、子供が一人いた。それがサンである。慎ましく田舎で暮らしていた三人だったが、ある日、魔力を持つ父親とサンはデール王国に捕まり、幽閉されたのだ。サンはまだ五歳だった。
子供の腰には「R」という焼き印がしてあり、子供の頃から「家族の証」であると聞かされていた。父親も母親にもそれは付いている。そしてある日、サンはNo.29に同じ焼き印を見つけたのだった。
この時、サンは母親が生きていることを知り、いつか囚われた父親を救い出し、弟と共に母親の元に帰ろうと決めた。サンは周りを欺くため、誰よりも従順でいた。また、安全を考え、ニーキュに真実を伝えるつもりはまだなかったのだ。
「くっくっくっ。動揺しているのか」
バフォールはまた面白いオモチャを見つけたかのようにニヤニヤと何かを思案している。
緩んだ手を感じ取り、ニーキュは少し離れたアリスの所へと駆け出した。サンのことも気になるが、今はアリスの方が大事だった。たとえ利用しようと思われていたとしても、優しくしてもらえたことは嬉しかった。笑顔を見せてくれるアリスが大好きだった。
「そうか……それなら一緒にいかせてあげよう」
バフォールは遠ざかるニーキュの背中に笑顔で手をかざす。先程と同じように赤黒い無数の槍が飛び出した――――。
ニーキュの背中に衝撃と重みを感じる。それと同時に前に倒れ込んだニーキュは、アリスに覆い被さるように重なった。何が起きたかわからず、薄く目を開ける。体が痛い。それに、全身が重く、起き上がることができなかった。
「ああ、お前はなんと罪深い! 二人はお前のために犠牲になったのだ! お前のことを大切に思っていたというのに酷い人間だ」
背後からバフォールの悲痛の声が聞こえた。その言葉にニーキュは、驚いた。嫌な予感を感じながら慌てて右を向くと銀色の髪がニーキュの顔にかかった。
「サン? ど、どうして……」
力を込めて体を脇にそらし起き上がる。サンの体からも大量の血が流れ出ていた。真赤に染まる自分の手。アリスやサンの血でどんどん服が滲みてくる。
「あああ……ぼ、ぼくのせいだ……ぼくが……ぼくが……っ」
倒れた二人を目の前に大粒の涙が次々と溢れ出る。
「そうだ、お前のせいだ。二人はもうまもなく死ぬ……」
背後から冷たい言葉が返ってくる。しかし、ニーキュは聞き逃さなかった。
『もうまもなく死ぬ』ということは、今はまだ二人は生きている!
その時だった。眩しい光が辺りを包む。眩しくて目を閉じると誰かが自分の体を抱えた。
「嫌だ、離れたくない……」
「大丈夫、助けに来た。遅くなってすまない」
聞き覚えのない声だった。しかし敵ではない気がする。
「ま、待って! 二人、生きてる! 二人も連れて行って! 二人を助けて!!」
ニーキュは初めて大きな声を出した。
必死だった。
自分が何とかしなければいけないと思った。
助けたい!
助けたいんだ――!
0
人物紹介
大きいサイズで見る
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説

今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪妃になんて、ならなきゃよかった
よつば猫
恋愛
表紙のめちゃくちゃ素敵なイラストは、二ノ前ト月先生からいただきました✨🙏✨
恋人と引き裂かれたため、悪妃になって離婚を狙っていたヴィオラだったが、王太子の溺愛で徐々に……
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる