恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

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第18章 脅かす者

第210話 脅かす者

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 アランを左遷させたディーン王子は自室で瞑想にふけていた。それは、反対勢力という言葉に動揺していたからだった。

 今までは誰からも注目されず、それが嫌でずっと無我夢中で上を目指していた。後ろなど振り返ったことはない。振り返る必要すらなかった。

 誰よりも"認められたい"という思いだけで突き進んできた。

 そして、ついに初めて注目されることに成功をしたのだ!
 誰もがひれ伏す、未来のアトラス王国の王に!
 ディーン王子はついに目標としていた頂点へと登り詰めたのだ!



――しかし、この高い場所は良いことばかりではなかった。



 初めて高い場所に来たディーン王子は、自分と同じように牙を向けてくる者たちがいるということに気が付いたのだ。上にいれば、現状を維持するか、または蹴落とされるかのどちらかだ。認められたいという想いが強かったディーン王子は、やっと手に入れた地位を脅かす人物に恐れと焦りが生まれる。

 あのような方法で手に入れれば当たり前のことだった。
 震える手をぎゅっと握りしめる。

 バフォールの手によって力でねじ伏せることも、操って手ごまにすることも簡単だ。しかし、ディーン王子は今まではそれを極力さけていた。それは、自分の力だけで国を上手く動かしたいと思っていたからだ。

「ソルブ!」

 かつて親友であり、一番の理解者でもあった側近の名前を呼ぶ。
 すると黒い煙に巻かれながらバフォールが現れた。

「ああ、珍しいな。ほほう……久しぶりに良い感情を持っているようだが」

 くっくっく。とディーン王子を心を見透かし、嬉しそうに笑うバフォール。そんな様子にディーン王子は苛立った。

「我が地位脅かす者たちを探し出せ!」

 バフォールを睨みつけながら命令をするディーン王子に、目を細めるバフォール。

「探してどうするんだ? 殺すのか? 操るのか?」

 ディーン王子は少し考えてから答えた。

「屈服させろ」

 その言葉を聞いたバフォールは、背筋が凍るような笑みを浮かべた。



 ◇

 リアム国王等は最初にいた滞在所では大掛かりな訓練が行えないため、アトラス城から北東へ五日間ほど行った先の山奥に移動していた。

 秋も深まり、鮮やかな赤や黄色の葉を付けた木々が生い茂る森。朝晩はすっかり冷え込む季節ではあったが、昼間となると木々の間から差込む日差しはまだ暖かかった。

 この美しい山の中にローンズ王国所有の屋敷が建っている。その屋敷は美しい景色を眺める為に建てられ、リアム国王が紅葉の季節になると毎年使用している場所だった。

 そんな美しい場所には似つかわしくない声が聞こえてくる。木々から光が差込む中で騎士たちの鍛錬を行っていた。激しく剣と剣がぶつかり合う音や気合いの入った声。皆が対バフォール戦に向けて、真剣に取り組んでいた。

 奥にはそれほど大きくない滝が流れており、穏やかな川を作っている。魔力戦闘部隊の子供たちはその場所でリアム国王から魔力の使い方について学んでいた。魔力を一箇所に集め、その魔力をリアム国王が使用することが出来れば良いのだが、そもそも一箇所に集めること自体が至難だった。

「手をつないだ状態では互いの魔力を使用し合うことは出来たのだ。自信を持て。基本は同じだ。同じ要領で、次は少し離れたところからやってみろ。出来なければもう一度手をつないだ状態で感覚を思い出すといい」

 リアム国王は子供達に根気よく教えていた。三十三名とアリスで二人一組となって練習を行っていると、その場所に二人の男が小走りで近づいてくる。

「リアム陛下」

 呼ばれたリアム国王はそちらに目を向けると、アランとビルボートが側まで来て跪く。

「僅かながら我らも参加させて頂きたく参上いたしました」
「そうか。エリー王女は置いてきて大丈夫なのか?」
「はい。アルバートの支配魔法が解除されましたので問題はございません。……今は封印を行うための訓練を?」

 アランが魔力戦闘部隊の子供達の様子を見てリアム国王に訊ねた。

「ああ。もう少し時間がかかりそうだ。しかし、この子等は真面目で元々魔力を使う為に育てられてきた。故にできない事はない。ああ、あとセインもそろそろ大聖堂ボルディレットから戻ってくるとは思う。何かを得て戻ってくるといいのだが」
「光の神トナウィルカル・トルシャウが奉られております大聖堂ボルディレットは、悪魔に対抗できる何かを知っているかと思います。また大司教はギルが現れるまでは唯一の補助魔法の使い手と言われておりましたので、その方の力をお借りできれば……」


―――― ほぅ……悪魔とは俺のことか?


 突如、頭に響き渡る声が聞こえ、心臓が飛び跳ねるほど驚いた。子供達も不思議そうに辺りを見渡している。あれほど明るかった場所は黒い影が忍び寄り、鳥や動物達がどこかへ逃げて行く音が聞こえる。ぞくぞくとした寒気を感じ、子供達はペアの相手と身を寄せ合い怯えた。

「バフォール……。暇つぶしについて来たのか?」

 アランが姿の見えないバフォールに問いかけた。しかし、くっくっくっ。と笑い声だけが返ってる。恐らくこの状況を楽しんでいるのだろう。

「何をしに来た?」


―――― お前達は反逆者か?


「いや、俺たちやここにいる方々は反逆者ではない。万が一に備えているだけだ。お前は心の隙間に入ってくることが得意だろう? こちらから手を出すのではなく、出された場合に対抗する力を用意しているだけだ」


 ―――― 良い言い訳だな。しかし、俺には分かっている。お前らは俺が邪魔だということを。機会があれば排除したいのだろう?


 そう聞こえたかと思うと黒い煙の中からバフォールが現れる。

「今が絶好のチャンスだとは思うが?」

 バフォールは笑みを浮かべつつ両手を広げ煽ってきた。その距離はわずか数メートル。思わず後ずさりをしつつ剣を構えた。バフォールの言う通り、城に赴いての戦闘よりここで行う方が被害が少ない。そのつもりで離れた場所に陣を張ってはいた。

 チャンスと言えばチャンスだった。
 しかし、まだ準備が整ってはいない。




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