恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

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第18章 脅かす者

第209話 解放

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 セイン王子は光の剣を作り出すのに苦労をしていた。最初に作った杖以降は、何度やっても剣と呼べるような物にはならなかったのだ。

「ダメだな。お前の中にある光の力がくすぶっておる。異空間にいたときはもっと綺麗に流れていたが……」

 うーん。と、うなるウィル。二人は異空間からボルディレットに戻り、ウィルはアンナの身体を借りてセイン王子の特訓に付き合っていた。セイン王子たちがここに滞在できるのは一晩。翌日には出発しないとバフォール討伐に間に合わない。

「あ~っ! 一回見たら大抵出来るのに~!」

 中庭の草の上に倒れ込むセイン王子。少し離れた所ではギルとバーミアが見守っていた。せっかくバフォールに対抗する力を手に入れたのに、使えないのでは意味がない。セイン王子は気持ちばかりが焦っていた。



 ◇

 一方アトラス城では、バフォールから剣を貰ってから数日が経っていたが、変わらぬ日常を過ごしていた。剣は最悪の事態まで触らぬことにしたからである。

 しかし、今朝はいつもと違い、アランがディーン王子の元に呼びつけられていた。そのことに不安を感じたエリー王女は、朝からずっとそわそわとしている。

「アラン様ならきっと大丈夫ですよ」
「ええ……」

 マーサが落ち着かない様子のエリー王女の髪をゆっくりと梳かしながら優しく声を落とした。鏡越しにマーサが微笑むと、エリー王女も笑みを作る。しかし、心は晴れてはいなかった。

 暫くすると扉を叩く音が聞こえ、エリー王女が立ち上がる。マーサが急いで扉を開けると勢いよく長身の男が入ってきた。

「おっはよ~ございまぁ~す! あ、マーサさんもおはよう~っす!」

 懐かしく響くその声に、エリー王女の瞳から涙が溢れだす。

「アルバート……!!」

 両手で口を押さえながらゆっくりと近づくと、アルバートがエリー王女の前で跪いた。

「えーと。この度は俺の不徳の致すところ、エリー様には大変ご迷惑をおかけして――――」
「ああ! 良かった! 許可が下りたのですね!」

 エリー王女は拙いアルバートの謝罪の言葉に被せて喜びの声を上げた。アルバートが顔を上げると涙で顔を濡らしたエリー王女が両手を広げて待っている。アルバートは優しく笑みを浮かべ、立ち上がってエリー王女を抱きしめた。

「エリーちゃんが無事で良かった……。本当、ごめんな……」
「アルバート。身を挺して守ってくださり、ありがとうございます……。本当にアルバートが無事で良かったです……」

 胸の中で泣き崩れるエリー王女の背中をアルバートが優しくぽんぽんと叩く。
 K地区で過ごした一年半、厳しいアランとは対照的にちょこちょことさりげないフォローを入れてくれるアルバートは、エリー王女にとって大切な存在だった。バフォールに囚われてからというもの、毎日心を痛めていたエリー王女は、本当に心から喜んだ。

「エリーちゃんを守るのは当たり前だからな。でもまぁ、あまり上手く行かなかったみたいで本当に申し訳ねえ……。話はアランから粗方聞いた……」

 アルバートはエリー王女から離れ、後ろにいるアランに視線を向ける。

「ディーンはよっぽど俺をエリーの側に置いておきたくないらしいな。左遷だ。まぁ、好都合ではあるが。その代りアルバートを側近に戻すことにしたようだ。心のないまま置いておかないあたり、エリーを多少なりとも想っているのだろうが」
「だとしてもあいつがやってることは最低だからな! 俺はぜってー許さねーぞ!」
「え? ちょっと待ってください。アランが左遷!? そんな!! アランはこれからどうするのです?」

 アランの話にエリー王女の顔が青ざめる。

「反対勢力の調査を行いたいという名目で諜報部隊に入れてもらった。どこまで信じてるかは分からないが。リアム陛下が訓練を行っているらしいから、そこと合流しようと思っている」
「大丈夫なんか?」
「バフォールには何処で何をしていても全て筒抜けだ。もしも戦うのであれば城から離れた方が都合がいい」
「まじで厄介なやろーだな……。しかしまぁ、俺たちの国の問題なのに、全てローンズ王国に任せっきりというのもな……」
「ああ……感謝してもしきれない。それでアルバートにはエリーの警護を。ディーンは三日前、エリーを襲っている。そのため、ディーンがいるときは側で守っていてほしい」
「は? エリーちゃんが!? あんにゃろぉおおお!! 俺が今すぐぶっ潰してやるよ!!」
「まあ、落ち着け。一応未遂だ」

 拳を振るわせるアルバートにアランが冷静に止める。

「未遂でもなんでも許せねえんだよ! くそっ! マジでむかつく野郎だぜ! バフォールやっつけた後にディーンだよな? うぅ~、早くなんとかしてぇえ!」
「そうだな。まだ、今ある作戦が上手くいくとは限らないが、一刻も早く決着をつけなければならない。婚儀を行ってからでは色々と面倒だからな」
「任せたぜ。こっちのことは心配すんな。俺がエリーちゃんを守ってっし、ディーンをしっかり見張ってっからよ」

 アルバートは笑顔を作り、アランの肩を力強く叩く。

「悪いな。じゃ、俺はもう行く。エリー、アルバートの側から離れるなよ」
「はい。アラン、お気をつけて……。リアム陛下や……セイン様にもよろしくお伝えください……」

 不安な表情のエリー王女に対し、アランは無言で頷くとそのまま部屋から出て行った。もうすぐ大きな戦いが始まるのだと思うとエリー王女の胸が張り裂けそうだった。

「心配すんなって。一度戦ったことのある相手だからな。それに世界最強と呼ばれているリアム陛下もついているし、最強メンバーが揃ってる。あの時とは違うから。よぉ~~し!! じゃ、今日も楽しく復興作業の手伝いでもしに行きまっしょ~~~!!」
「そうですね……。私は私の出来ることをしなくてはいけませんね」

 アルバートが明るく声をかけると、エリー王女もしっかりと前を向き、アルバートに笑顔を見せた。





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