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第17章 決戦前
第208話 光の力
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目を開けるとそこは眩しいくらい真っ白で何もない世界。
セイン王子はそこにただ立っていた。
「ここは……?」
見渡しても誰もいない。
音もない。
匂いもない。
自分の心臓の音だけが良く聞こえる。
全てから取り残されたような気がして、不安が膨らんでいく。
『ここはワタシが作り上げた空間だ』
突如背後から聞こえる声に驚き、慌てて振り返った。
そこには真っ直ぐ長く伸びた銀色の髪をなびかせた美しい女性が立っている。いや、声からして男性だとは思うが、とても中性的な顔立ちをしていて見た目では判断がつかない。そして、その人物から淡い光が漏れているようにみえ、この世の者には見えなかった。
「ウィル様……?」
『そうだ。先ほど、セインの身体は光を受け入れた。しかし、それだけでは光の力は使えない。セイン、ギルが先ほど話していた内容を覚えているか?』
「はい。倒した先の空想の未来です」
ウィルはその答えに対し頷く。そして、右手を前に突き出し、手のひらに光の粒子が集めだした。その粒子が杖を形成していき、本物の銀色に輝く杖となる。その杖を掴み、地面をトンっと叩く。その瞬間、真っ白だった世界がアトラス中心街に変わった。
「えっ?」
セイン王子は驚き、辺りを注意深く見渡した。
匂いも空気も本物そのものである。
セイン王子が近くの街路樹に手を伸ばした。手に伝わる感触も本物のように思える。
『オマエは見えているはずだ……進むべき未来が……』
ウィルが杖をトン……。トン……。とゆっくり叩くたびに、ローンズ王国、デール王国、シロルディア王国など、今いる場所が次々と変わっていった。
セイン王子は声も出さずにただその光景に息を飲む。
『次はここだ……』
トンッ。
目の前にアトラス城謁見の間が現れた。
王座に座る人物とその脇に立つ人物。
それは――――
「ディーン! バフォール!」
セイン王子は思わず身構えた。しかし、背中には剣を携えてはいない。
『本物ではない』
ウィルがゆっくりと王座へと続く階段を登り、二人に近付いていく。
くるりと振り返り、上から見下ろして問う。
『セイン。オマエは何のために戦う?』
「大切なものを守るためです!」
力強く答えるものの、ウィルは首を振る。
『悪くはない……しかし、それでは足りない。誰かと戦うときに必要なこと……』
トンッ。
目の前には微笑むエリー王女の姿が現れる。
その瞬間、セイン王子の胸が締め付けられた。
「エリー……」
手を伸ばし、エリー王女の頬に触れるとエリー王女が嬉しそうに手を重ねてくる。
この笑顔を守りたい。
だけど、それ以外に何が……。
戦う理由とは――――?
奴らを倒し
大切な人たちを助け
誰もが笑顔でいられる国を仲間と共に作る
国々の平和
人々の幸せ
愛する人と共に歩む未来――――
エリー王女が輝く粒子となって消えた。
『そうだ。光は未来を見る者に力を与える。倒すための力ではない』
「倒したその先にあるもの……」
セイン王子は自分の右手を見つめる。
『さあ、やってみろ。先ほどワタシがやったように具現化してみるがいい』
「はい」
セイン王子は瞳を閉じ意識を集中させると、今まであった魔力とは別の力を感じた。
これが光の力。
魔力を融合させ具現化させると言っていたことを思い出し、今まで持っていた自分の魔力と新たに加わった光の力を右手に集中させる。
ウィルが先ほど見せたように光の粒子が集まりだした。
暫くするとかざした右手の前に光る縦長の物体が現れる。それを掴み上げると、光が霧が晴れるように散った。
『オマエは複製するのは得意なようだな。しかしその武器ではオマエは戦えない。オマエが必要なのは剣だ』
セイン王子の手には、先ほどウィルが持っていた銀色に輝く杖が光り輝いていた。
「あー……、はい。一度見た魔法は大体使えるのですが、こういった細かいイメージは少々苦手で……。すみません、ウィル様。出来れば剣を作り出すところを見せて頂けたら嬉しいのですが……」
困ったようにセイン王子が笑うと、ウィルが険しい顔でじっと視線を返す。
何も返事がない。
「……すみません、こういうのも自分でやることが大切ですよね。自分で頑張ってみます」
『いや、どんなデザインがいいんだ?』
「え?」
『どうせなら格好良い方が良いだろう?』
ウィルは険しい顔のまま腕を組み、セインを見つめた。
セイン王子はそこにただ立っていた。
「ここは……?」
見渡しても誰もいない。
音もない。
匂いもない。
自分の心臓の音だけが良く聞こえる。
全てから取り残されたような気がして、不安が膨らんでいく。
『ここはワタシが作り上げた空間だ』
突如背後から聞こえる声に驚き、慌てて振り返った。
そこには真っ直ぐ長く伸びた銀色の髪をなびかせた美しい女性が立っている。いや、声からして男性だとは思うが、とても中性的な顔立ちをしていて見た目では判断がつかない。そして、その人物から淡い光が漏れているようにみえ、この世の者には見えなかった。
「ウィル様……?」
『そうだ。先ほど、セインの身体は光を受け入れた。しかし、それだけでは光の力は使えない。セイン、ギルが先ほど話していた内容を覚えているか?』
「はい。倒した先の空想の未来です」
ウィルはその答えに対し頷く。そして、右手を前に突き出し、手のひらに光の粒子が集めだした。その粒子が杖を形成していき、本物の銀色に輝く杖となる。その杖を掴み、地面をトンっと叩く。その瞬間、真っ白だった世界がアトラス中心街に変わった。
「えっ?」
セイン王子は驚き、辺りを注意深く見渡した。
匂いも空気も本物そのものである。
セイン王子が近くの街路樹に手を伸ばした。手に伝わる感触も本物のように思える。
『オマエは見えているはずだ……進むべき未来が……』
ウィルが杖をトン……。トン……。とゆっくり叩くたびに、ローンズ王国、デール王国、シロルディア王国など、今いる場所が次々と変わっていった。
セイン王子は声も出さずにただその光景に息を飲む。
『次はここだ……』
トンッ。
目の前にアトラス城謁見の間が現れた。
王座に座る人物とその脇に立つ人物。
それは――――
「ディーン! バフォール!」
セイン王子は思わず身構えた。しかし、背中には剣を携えてはいない。
『本物ではない』
ウィルがゆっくりと王座へと続く階段を登り、二人に近付いていく。
くるりと振り返り、上から見下ろして問う。
『セイン。オマエは何のために戦う?』
「大切なものを守るためです!」
力強く答えるものの、ウィルは首を振る。
『悪くはない……しかし、それでは足りない。誰かと戦うときに必要なこと……』
トンッ。
目の前には微笑むエリー王女の姿が現れる。
その瞬間、セイン王子の胸が締め付けられた。
「エリー……」
手を伸ばし、エリー王女の頬に触れるとエリー王女が嬉しそうに手を重ねてくる。
この笑顔を守りたい。
だけど、それ以外に何が……。
戦う理由とは――――?
奴らを倒し
大切な人たちを助け
誰もが笑顔でいられる国を仲間と共に作る
国々の平和
人々の幸せ
愛する人と共に歩む未来――――
エリー王女が輝く粒子となって消えた。
『そうだ。光は未来を見る者に力を与える。倒すための力ではない』
「倒したその先にあるもの……」
セイン王子は自分の右手を見つめる。
『さあ、やってみろ。先ほどワタシがやったように具現化してみるがいい』
「はい」
セイン王子は瞳を閉じ意識を集中させると、今まであった魔力とは別の力を感じた。
これが光の力。
魔力を融合させ具現化させると言っていたことを思い出し、今まで持っていた自分の魔力と新たに加わった光の力を右手に集中させる。
ウィルが先ほど見せたように光の粒子が集まりだした。
暫くするとかざした右手の前に光る縦長の物体が現れる。それを掴み上げると、光が霧が晴れるように散った。
『オマエは複製するのは得意なようだな。しかしその武器ではオマエは戦えない。オマエが必要なのは剣だ』
セイン王子の手には、先ほどウィルが持っていた銀色に輝く杖が光り輝いていた。
「あー……、はい。一度見た魔法は大体使えるのですが、こういった細かいイメージは少々苦手で……。すみません、ウィル様。出来れば剣を作り出すところを見せて頂けたら嬉しいのですが……」
困ったようにセイン王子が笑うと、ウィルが険しい顔でじっと視線を返す。
何も返事がない。
「……すみません、こういうのも自分でやることが大切ですよね。自分で頑張ってみます」
『いや、どんなデザインがいいんだ?』
「え?」
『どうせなら格好良い方が良いだろう?』
ウィルは険しい顔のまま腕を組み、セインを見つめた。
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