恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

文字の大きさ
上 下
206 / 235
第17章 決戦前

第206話 大司教カーラ

しおりを挟む
 ボーンズに案内された場所は礼拝堂だった。アトラス王国やローンズ王国、その他色々な場所を見てきたセイン王子であったが、そのどこよりも素晴らしくて圧倒された。

 白石で作られた礼拝堂は華やかな彫刻が施され、計算尽くされた採光用高窓からは美しい光が射し込む。そして何よりも強い魔力を感じた。

「凄い……」

 思わず溢れたセイン王子の声にギルも頷く。

「少しこちらでお待ち下さい。今、大司教様をお呼び致します。あっ!」

 側廊から祭壇に向かう途中でボーンズが何かに気が付くと、後ろにいる三人の方を笑顔で振り返った。

「もういらっしゃいました。さ、こちらへ」

 祭壇前には一人の女性が立っていた。スラリと背が高く、くるくるとした長い髪を横に流し、愛らしい瞳でこちらを見ていた。恐らくセイン王子とそれほど年齢は変わらないように見える。

「こんにちは。あなたがローンズ王国のセイン王子でいらっしゃいますね?」

 その女性は眩い笑顔でセイン王子に握手を求めてきた。セイン王子は何故自分のことを知っているのかと驚きつつも、握手を交わす。

「初めまして、仰る通りセインと申します」
「お初にお目にかかります。私は大司教を務めさせておりますカーラと申します」

 手を取ったまま微笑むその姿は、全く大司教には見えなかった。そんなセイン王子の様子にカーラはふふふと微笑む。

「こんな小娘が? と思っていらっしゃいますか?」
「あ、いえ。カーラ様からはとても強い魔力を感じますので。しかし、魔力とは少し違う力も他に感じます。この力はいったい……」

 カーラは繋いでいた手を離し、両手を重ねて瞳を輝かせた。

「まぁ! やっぱり感じますのね! そう、今こちらに光の神であるトナウィルカル・トルシャウ様がいらしているんですよ」

 カーラは自分の隣に立つ人物を紹介するように、手をそちらに向けた。どう見てもそこに人は立っていない。それにしても長い名前で一度では覚えられないなと思った。

「えっと……神様が……そちらに……?」

 セイン王子はその隣にいるであろう場所をチラリと見てから視線をカーラに戻す。

「はい。感じはするけど見えないんですね。えっ? はい。そうですよね、うふふふふ」

 突然誰かと話だし、笑うカーラ。三人は顔を見合せる。

「あ、ごめんなさい。トナウィルカル・トルシャウ様の名前が長いからウィルと呼んでほしいと言っております。じゃあ、私もウィル様とお呼びしても宜しいですか? まぁ! 初めてお会いしたにそのような呼び方で呼べませんわ。……ええ、どちらでも良いのであれば、ウィル様とお呼びいたしますわ」

 ウィルとカーラとのやり取りが一段落ついたようだった。隣にいたボーンズはいたって真面目な顔をしながらカーラとのやり取りを見ているため、この光景は珍しくないのだろう。

「えっと、ウィル様とカーラ様。それで、私たちがここへ来た理由をお伝えしても宜しいでしょうか」

 セイン王子はカーラの隣、誰もいない場所に向かって声をかけた。

「あ、そうでしたね。私も先ほどセイン様御一行が来られるとしか聞いておりませんでしたので知りたいです。えっ? はい……はい……はい……え? 悪魔? はい……そんな……アトラス城が? はい……封印ですね……。まぁ! どうしましょう……ええ、分かりました」

 ウィルが何やらカーラに状況を説明してくれているようだった。なんとも奇妙な光景だったが、チラチラと出てくる単語は真実を語っているようだった。

「セイン様、ウィル様がお力を貸して下さるそうです」
「お力を……? して、どのように?」

 満面の笑みで伝えるカーラの言葉にセイン王子は驚き、見えないウィルの方を見る。

「はい! 今、どうするのか聞きますね。えっと……説明しにくい? そうですわね……どうしましょう? え? アンナを?」

 ボーンズの後ろに隠れていたアンナが、突然自分の名前を呼ばれてびくりと反応を示す。さらには全員の視線を感じ、またボーンズの後ろに隠れた。カーラはアンナの側まで近寄り、しゃがみ込んだ。

「アンナ、ウィル様が身体を貸してほしいんですって。いいかしら? ちょっとだけ。ね、お願い」

 良く分からなかったアンナはチラリとボーンズの顔を見ると頷いたので、アンナもまた小さく頷いた。それを見たカーラは嬉しそうにアンナを抱きしめる。

「ありがとう、アンナ。いいこね!」
「……カーラ、もう離していいぞ」

 抱きしめたアンナから声が聞こえてくる。

「あら、ウィル様。もう入られたのですか? うふふ、お仕事が早いのですね」
「では早速だがセイン、こちらへ」

 頭を撫でるカーラを無視して、アンナが手を差し伸べてきた。先ほどまでと喋り方も雰囲気も全く違う。

「はい。よろしくお願いします」

 目の前に立つと、アンナから不思議な力を感じた。目が合うと幼女となった姿でも神々しさも感じられ、緊張が走る。背の低いウィルに視線を合わせるため、セイン王子は膝をついた。

「よし、手を出せ。ああ、両手だ」

 ウィルに言われるがままセイン王子が両手を差し出した。その手をウィルが掴む。

「いいか? 今からこの中にワタシの力を込める。お前の魔力とワタシの力を自分で融合させ、武器を具現化させろ」
「……力を融合して武器を……ですか……?」

 見たことも聞いたこともないことを言われ、困惑した表情を見せるセイン王子。それに対し、ウィルは薄く笑う。

「神が言うのだ。出来ないことはない。とにかくやってみた方が早い。いいか? 少し踏ん張れよ?」

 ウィルがそう伝えたかと思うと、セイン王子の全身がずんっと重みを感じ、強い痺れと痛みを感じた。こうなるということを事前に教えてくれても良いのに。と思いながらチラリとウィルを見ると少し楽しそうだった。

 しかし、そう思っている余裕もなくなるくらい、どんどんと苦痛が増してくる。膝で立つことも困難になり、力が入らなくなった。

「くっ……」
「セイン様!」

 セイン王子の体が横に倒れそうになったところをバーミアが支える。バーミアはセイン王子の熱の高さに驚いた。

「これは……!! セイン様に一体何を!!」


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...