恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

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第17章 決戦前

第206話 大司教カーラ

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 ボーンズに案内された場所は礼拝堂だった。アトラス王国やローンズ王国、その他色々な場所を見てきたセイン王子であったが、そのどこよりも素晴らしくて圧倒された。

 白石で作られた礼拝堂は華やかな彫刻が施され、計算尽くされた採光用高窓からは美しい光が射し込む。そして何よりも強い魔力を感じた。

「凄い……」

 思わず溢れたセイン王子の声にギルも頷く。

「少しこちらでお待ち下さい。今、大司教様をお呼び致します。あっ!」

 側廊から祭壇に向かう途中でボーンズが何かに気が付くと、後ろにいる三人の方を笑顔で振り返った。

「もういらっしゃいました。さ、こちらへ」

 祭壇前には一人の女性が立っていた。スラリと背が高く、くるくるとした長い髪を横に流し、愛らしい瞳でこちらを見ていた。恐らくセイン王子とそれほど年齢は変わらないように見える。

「こんにちは。あなたがローンズ王国のセイン王子でいらっしゃいますね?」

 その女性は眩い笑顔でセイン王子に握手を求めてきた。セイン王子は何故自分のことを知っているのかと驚きつつも、握手を交わす。

「初めまして、仰る通りセインと申します」
「お初にお目にかかります。私は大司教を務めさせておりますカーラと申します」

 手を取ったまま微笑むその姿は、全く大司教には見えなかった。そんなセイン王子の様子にカーラはふふふと微笑む。

「こんな小娘が? と思っていらっしゃいますか?」
「あ、いえ。カーラ様からはとても強い魔力を感じますので。しかし、魔力とは少し違う力も他に感じます。この力はいったい……」

 カーラは繋いでいた手を離し、両手を重ねて瞳を輝かせた。

「まぁ! やっぱり感じますのね! そう、今こちらに光の神であるトナウィルカル・トルシャウ様がいらしているんですよ」

 カーラは自分の隣に立つ人物を紹介するように、手をそちらに向けた。どう見てもそこに人は立っていない。それにしても長い名前で一度では覚えられないなと思った。

「えっと……神様が……そちらに……?」

 セイン王子はその隣にいるであろう場所をチラリと見てから視線をカーラに戻す。

「はい。感じはするけど見えないんですね。えっ? はい。そうですよね、うふふふふ」

 突然誰かと話だし、笑うカーラ。三人は顔を見合せる。

「あ、ごめんなさい。トナウィルカル・トルシャウ様の名前が長いからウィルと呼んでほしいと言っております。じゃあ、私もウィル様とお呼びしても宜しいですか? まぁ! 初めてお会いしたにそのような呼び方で呼べませんわ。……ええ、どちらでも良いのであれば、ウィル様とお呼びいたしますわ」

 ウィルとカーラとのやり取りが一段落ついたようだった。隣にいたボーンズはいたって真面目な顔をしながらカーラとのやり取りを見ているため、この光景は珍しくないのだろう。

「えっと、ウィル様とカーラ様。それで、私たちがここへ来た理由をお伝えしても宜しいでしょうか」

 セイン王子はカーラの隣、誰もいない場所に向かって声をかけた。

「あ、そうでしたね。私も先ほどセイン様御一行が来られるとしか聞いておりませんでしたので知りたいです。えっ? はい……はい……はい……え? 悪魔? はい……そんな……アトラス城が? はい……封印ですね……。まぁ! どうしましょう……ええ、分かりました」

 ウィルが何やらカーラに状況を説明してくれているようだった。なんとも奇妙な光景だったが、チラチラと出てくる単語は真実を語っているようだった。

「セイン様、ウィル様がお力を貸して下さるそうです」
「お力を……? して、どのように?」

 満面の笑みで伝えるカーラの言葉にセイン王子は驚き、見えないウィルの方を見る。

「はい! 今、どうするのか聞きますね。えっと……説明しにくい? そうですわね……どうしましょう? え? アンナを?」

 ボーンズの後ろに隠れていたアンナが、突然自分の名前を呼ばれてびくりと反応を示す。さらには全員の視線を感じ、またボーンズの後ろに隠れた。カーラはアンナの側まで近寄り、しゃがみ込んだ。

「アンナ、ウィル様が身体を貸してほしいんですって。いいかしら? ちょっとだけ。ね、お願い」

 良く分からなかったアンナはチラリとボーンズの顔を見ると頷いたので、アンナもまた小さく頷いた。それを見たカーラは嬉しそうにアンナを抱きしめる。

「ありがとう、アンナ。いいこね!」
「……カーラ、もう離していいぞ」

 抱きしめたアンナから声が聞こえてくる。

「あら、ウィル様。もう入られたのですか? うふふ、お仕事が早いのですね」
「では早速だがセイン、こちらへ」

 頭を撫でるカーラを無視して、アンナが手を差し伸べてきた。先ほどまでと喋り方も雰囲気も全く違う。

「はい。よろしくお願いします」

 目の前に立つと、アンナから不思議な力を感じた。目が合うと幼女となった姿でも神々しさも感じられ、緊張が走る。背の低いウィルに視線を合わせるため、セイン王子は膝をついた。

「よし、手を出せ。ああ、両手だ」

 ウィルに言われるがままセイン王子が両手を差し出した。その手をウィルが掴む。

「いいか? 今からこの中にワタシの力を込める。お前の魔力とワタシの力を自分で融合させ、武器を具現化させろ」
「……力を融合して武器を……ですか……?」

 見たことも聞いたこともないことを言われ、困惑した表情を見せるセイン王子。それに対し、ウィルは薄く笑う。

「神が言うのだ。出来ないことはない。とにかくやってみた方が早い。いいか? 少し踏ん張れよ?」

 ウィルがそう伝えたかと思うと、セイン王子の全身がずんっと重みを感じ、強い痺れと痛みを感じた。こうなるということを事前に教えてくれても良いのに。と思いながらチラリとウィルを見ると少し楽しそうだった。

 しかし、そう思っている余裕もなくなるくらい、どんどんと苦痛が増してくる。膝で立つことも困難になり、力が入らなくなった。

「くっ……」
「セイン様!」

 セイン王子の体が横に倒れそうになったところをバーミアが支える。バーミアはセイン王子の熱の高さに驚いた。

「これは……!! セイン様に一体何を!!」


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