恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

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第17章 決戦前

第205話 大聖堂ボルディレット

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 アトラス王都より東にある、大聖堂ボルディレットに向かった三人は順調に馬を走らせていた。

 世界で最も神に近い場所と言われているだけあり、標高2500メートルほどの高い位置にそれはあった。辿り着くまでの二日間、山を登っていくのだが、殆どの人々が途中で頭痛、吐き気、嘔吐、めまいに悩まされる。

 それ以外にも切り立った崖沿いを進まなければならない。それだけでも危険であったが、霧が深く道に迷ったり、崖から落ちてしまうことが多く、大聖堂ボルディレットには辿り着ける人はほぼいなかった。

 そのため "神に許された人のみが行ける場所" と言われていた。

 しかし、セイン王子が霧を晴らし、ギルが症状を和らげることが出来たため、難なく進むことが出来たのだった。

 ゴツゴツとした剥き出しの岩が土の代わりに顔を出している。そんな荒れた部分もあれば、背の低い草が広がり、草原のようになっているところもあった。霧さえなければ、道としてはむしろ通りやすい山である。所々見える下の景色は雲がかかり、幻想的な雰囲気だったため、神がいてもおかしくはないなとセイン王子は横目でその景色を眺めていた。

 三日目の昼前、頂上らしき場所へと辿り着いた。その場所から目の前に広がった景色に三人は息を飲む――――。

 空を映し出す鏡のような湖の中に、お城ほどの大きな建物が建っている。それはまるで建物が空に浮いているかのように見えた。それを見た瞬間全身が痺れたように粟立った。

「ここが大聖堂ボルディレット……」

 思わず唾を飲み込んだ。

「どうやってあの場所へ行くのでしょうか……」

 バーミヤがそう呟くと、ギルが馬から降りて湖を調べ始めた。

「セイン様。水の透明度が高いため、浅くも見えますが……。泳いでいくには冷たすぎます。何処かに舟などがあれば良いのですが……」

 その報告にセイン王子は目を細め、聖堂の方を見る。舟が止まっている様子もなく、周りを見渡しても桟橋はない。回り込んで裏に行けばもしかしたら何かあるかもしれないが、大きな湖のため距離はかなりあった。

 セイン王子が馬から降り、聖堂正面の湖に手をかざした。濃い蒼の水面が揺らぐ。セイン王子が瞳を閉じると、更に水面が激しく歪みだした。セイン王子の手元から次々と土が盛り上り、聖堂まで一直線の道が出来上がる。

「うん、意外と上手くいったみたい。だけど折角の景観が損なわれちゃったから、後で直さないとね」

 セイン王子が立ち上がり、にこにこ振り返った。ギルとバーミヤは驚き固まっている。

「ま、魔法って何でも出来るのですね……」

 特に魔法の使えないバーミヤはただただ驚いていた。

「想像力と応用力だね。あとは知識と経験。これも向き不向きがあるみたいだけどね。って、魔法の説明は後にして、とにかく先へ急ごう」

 馬に跨がると、セイン王子の作った道を一列に並び聖堂へと向かった。聖堂正面には三階の高さまであるような大きな扉がそびえ立っている。馬をとりあえず近くにあった柱にくくりつけると、扉の前で佇む。こんな大きな扉、誰が開けることが出来るのだろうか。そう考えながら扉を見上げていると、白い制服を身にまとった七歳位の女の子が、とことこと目の前を横切っていく。こちらのことは全く見えていないようだった。

「あ、君! 大司教様にお会いしたいのですが」

 ギルに呼び止められた女の子は、くりくりとした愛らしい瞳を三人に向ける。

「あっ!」

 初めて知らない人に会った女の子は、驚いて逃げるように走り出した。ツインテールの長い髪がゆらゆらと揺れる。あんな小さな子が大きな扉を開けられるわけがない。他に入り口があるのだと思い、三人は女の子を追いかけた。

「待って!」

 何故か必死に逃げている女の子。足は速くないので捕まえられるが、そうはしなかった。何本も立つ支柱を横切り、奥へと進んでいく。正面扉より右奥には真っ白な通常の大きさの扉が見えた。
 女の子が扉の取っ手に手を描けようとした瞬間、すっと扉が開く。

 ぽすっ。

 扉から出てきた男に、勢いよく女の子はぶつかった。それを男が支える。細身で高身長、真っ白な生地に金の装飾が施された祭服を身にまとっていた。見るからに高位の者であることがわかる。男は細い目で優しそうに女の子を見下ろした。

「こらこらアンナ。どうした、そんなに慌てて」
「とーさん! 変な人がいる!」

 アンナと呼ばれた女の子が指を指す方向には、セインたちが立っている。男は直ぐに状況を理解したのか、笑顔を見せた。

「よくここまで辿り着かれました。きっと神のお導きがあったのでしょう。初めまして、私はボーンズと申します。この子はアンナ。先ほどはこの子が大変失礼いたしました。ささっ、どうぞ中へお入りください」

 にこやかに笑うボーンズは何も聞かずに三人を中へと通した。



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