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第17章 決戦前
第200話 拒絶
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清々しい朝の光がエリー王女の私室を照らす中、二つの影が重なる。
いつものようにエリー王女の腰を抱き寄せ、胸に抱く。いつも成すがままのエリー王女であったが今日は違っていた。
「あの……ディーン様……」
「どうしました?」
ディーン王子は胸から離し、顔を覗き込む。輝く光の中を浴びたエリー王女はとても美しく、つい顔が緩んでしまうのをなんとか堪えて尋ねた。
「お願いがございます……」
「エリーから声をかけてくれるとは嬉しいですね。なんでしょう?」
「復興のお手伝いがしたいのです。少しでも民の力に。そして、以前のように活気を取り戻せたらと……」
じっと見つめるエリー王女の瞳は、キラキラと輝いている。
憎き相手に全てを委ねなければならないこの状況は、屈辱的であることはディーン王子にもわかっていた。それでもなお健気に従順な態度を示すエリー王女にディーン王子は益々好意を抱いていた。
エリー王女に愛されたいという欲望。
めちゃくちゃにしてしまいたいという欲望。
二つの欲望がいつもディーン王子の心を惑わしていた。
どうせすぐに自分のものになるのであれば、今すぐこのまま――。
「ディーン様……?」
「……ああ、そうですね。アランとビルボートを連れて行くと良いでしょう」
エリー王女の声に思い留まるディーン王子。今更ではあるが、エリー王女が嫌がることは極力したくない。可能な限りエリー王女の願いは叶えてあげようと思っていた。
「ありがとうございます……」
「礼には及びませんよ。私も早く復興して欲しいと願っているので」
ディーン王子は、バフォールを使って王座を手に入れた以外はまともに過ごしており、何も知らない人々はディーン王子を高く評価をしていた。
しかし、たとえ周りの評価が高くとも、エリー王女は決してディーン王子を許してはいない。この国を破滅に導いたのは紛れもなくディーン王子であり、大切な人を傷付け、父を幽閉し、人を操る。そんな人物を好きになる方がおかしいのだ。
ディーン王子の白々しい言葉に、エリー王女は危うく表情を変えてしまいそうになるが、ぐっと堪えて笑顔を作った。
「エリー……貴女の笑顔はとても愛らしい。……あなたは私を恨んでいるかもしれませんが、私は貴女を愛していますよ」
もう一度抱きしめられ、首に顔を埋め、いつもであれば軽く唇を当てるだけであったが、今回は違う。
舌が首筋を這い、耳を食む。その瞬間ぞわぞわっと背筋が凍った。
「ぃやっ……!」
思わず胸を強く押し出すと、ディーン王子が後ろへよろめいた。拒絶されたことに対し、ディーン王子の表情が一気に険しくなる。力強く手首を掴まれ、一気に引き寄せられた。
「離して下さいっ!」
咄嗟に手を振りほどこうとするものの、びくともしない。いつもの穏やかな表情とは違う魔物のような形相に、エリー王女の背筋が凍った。
「あなたは自分の立ち場がわかっていないようですね」
声を押し殺しながらも怒りを露にするディーン王子は、無理やりエリー王女の唇を奪う。どんなに力を入れてもほどけない腕。唇を固く結び必死に侵入を拒むものの、触れてるだけで嫌悪感が沸き上がる。
「いやっ!!」
顔を背け拒否を示すと向けた頬に痛みが走った。衝撃で床に手が付き、今起きてる状況を把握する間もなく、背中までもが床に付いていた。見上げれはディーン王子の顔が直ぐそこにある。
「あなたが悪いのですよ」
「やっ!! ダメっ!! おやめ下さいっ!!」
覆い被さり、ドレスを少しずつ乱していく。身体中をまさぐる手と息に恐怖を感じた。
エリー王女は距離を保つために両足で胸を蹴ると、一瞬隙ができ、素早くうつ伏せになり這い出ようとする。しかし、それを後ろから押さえつけられた。
「アランっ! お願い、アラン来てっ!!」
エリー王女は必死で叫んだ。この声が届くようにと必死に。
「呼んでも無駄ですよっ……ここに来たとしてもセロードとヒースクリフが止めますからっ」
ディーン王子は抵抗するエリー王女を力強く押さえ付け、ドレスを脱がせた。その瞬間、エリー王女はコルセットとドロワーズ姿のまま飛び出し、手を伸ばす。壁にぶら下がる紐を引き、側近部屋への呼び鈴を鳴らした。
「無駄だと言っているではないですか」
追いかけてくるディーン王子の手から逃れるようにエリー王女は壁づたいに入り口の方へと逃げた。
いつものようにエリー王女の腰を抱き寄せ、胸に抱く。いつも成すがままのエリー王女であったが今日は違っていた。
「あの……ディーン様……」
「どうしました?」
ディーン王子は胸から離し、顔を覗き込む。輝く光の中を浴びたエリー王女はとても美しく、つい顔が緩んでしまうのをなんとか堪えて尋ねた。
「お願いがございます……」
「エリーから声をかけてくれるとは嬉しいですね。なんでしょう?」
「復興のお手伝いがしたいのです。少しでも民の力に。そして、以前のように活気を取り戻せたらと……」
じっと見つめるエリー王女の瞳は、キラキラと輝いている。
憎き相手に全てを委ねなければならないこの状況は、屈辱的であることはディーン王子にもわかっていた。それでもなお健気に従順な態度を示すエリー王女にディーン王子は益々好意を抱いていた。
エリー王女に愛されたいという欲望。
めちゃくちゃにしてしまいたいという欲望。
二つの欲望がいつもディーン王子の心を惑わしていた。
どうせすぐに自分のものになるのであれば、今すぐこのまま――。
「ディーン様……?」
「……ああ、そうですね。アランとビルボートを連れて行くと良いでしょう」
エリー王女の声に思い留まるディーン王子。今更ではあるが、エリー王女が嫌がることは極力したくない。可能な限りエリー王女の願いは叶えてあげようと思っていた。
「ありがとうございます……」
「礼には及びませんよ。私も早く復興して欲しいと願っているので」
ディーン王子は、バフォールを使って王座を手に入れた以外はまともに過ごしており、何も知らない人々はディーン王子を高く評価をしていた。
しかし、たとえ周りの評価が高くとも、エリー王女は決してディーン王子を許してはいない。この国を破滅に導いたのは紛れもなくディーン王子であり、大切な人を傷付け、父を幽閉し、人を操る。そんな人物を好きになる方がおかしいのだ。
ディーン王子の白々しい言葉に、エリー王女は危うく表情を変えてしまいそうになるが、ぐっと堪えて笑顔を作った。
「エリー……貴女の笑顔はとても愛らしい。……あなたは私を恨んでいるかもしれませんが、私は貴女を愛していますよ」
もう一度抱きしめられ、首に顔を埋め、いつもであれば軽く唇を当てるだけであったが、今回は違う。
舌が首筋を這い、耳を食む。その瞬間ぞわぞわっと背筋が凍った。
「ぃやっ……!」
思わず胸を強く押し出すと、ディーン王子が後ろへよろめいた。拒絶されたことに対し、ディーン王子の表情が一気に険しくなる。力強く手首を掴まれ、一気に引き寄せられた。
「離して下さいっ!」
咄嗟に手を振りほどこうとするものの、びくともしない。いつもの穏やかな表情とは違う魔物のような形相に、エリー王女の背筋が凍った。
「あなたは自分の立ち場がわかっていないようですね」
声を押し殺しながらも怒りを露にするディーン王子は、無理やりエリー王女の唇を奪う。どんなに力を入れてもほどけない腕。唇を固く結び必死に侵入を拒むものの、触れてるだけで嫌悪感が沸き上がる。
「いやっ!!」
顔を背け拒否を示すと向けた頬に痛みが走った。衝撃で床に手が付き、今起きてる状況を把握する間もなく、背中までもが床に付いていた。見上げれはディーン王子の顔が直ぐそこにある。
「あなたが悪いのですよ」
「やっ!! ダメっ!! おやめ下さいっ!!」
覆い被さり、ドレスを少しずつ乱していく。身体中をまさぐる手と息に恐怖を感じた。
エリー王女は距離を保つために両足で胸を蹴ると、一瞬隙ができ、素早くうつ伏せになり這い出ようとする。しかし、それを後ろから押さえつけられた。
「アランっ! お願い、アラン来てっ!!」
エリー王女は必死で叫んだ。この声が届くようにと必死に。
「呼んでも無駄ですよっ……ここに来たとしてもセロードとヒースクリフが止めますからっ」
ディーン王子は抵抗するエリー王女を力強く押さえ付け、ドレスを脱がせた。その瞬間、エリー王女はコルセットとドロワーズ姿のまま飛び出し、手を伸ばす。壁にぶら下がる紐を引き、側近部屋への呼び鈴を鳴らした。
「無駄だと言っているではないですか」
追いかけてくるディーン王子の手から逃れるようにエリー王女は壁づたいに入り口の方へと逃げた。
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