恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

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第17章 決戦前

第199話 二つ目の作戦

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「弱点?」

 ギルの言葉にセイン王子の眉間に皺が寄る。

「はい、二点ございます。先ず一点目。先程作り出した金色の玉のようなものですが、飛距離がほぼございません。そのため、近距離で行う必要がございます。二点目は、金色の粉のようなものが振りかかって見えたかと思いますが、途中で動いたりすると消えてしまいます。つまり、魔法の効果を得られません」
「ということは、操られた人間を動かないようにしてから、近くで魔法をかける必要があると言うことだな」

 リアム国王が静かに問いかけるとギルは申し訳なさそうに目を伏せた。

「申し訳ございません……」
「いや、これだけのことが出来れば十分だ。支配された者は後回しにしても問題ないということだからな。順番が前後しても良いというのはとても動きやすい。バフォール討伐を最優先に考えよう」
「そうだね。ギル、この件について重要な役割を担っている。バフォール討伐は参加せず待機しておいてほしい」

 セイン王子が隣に立つギルに向かって伝えると、ギルは顔を青く染める。

「セイン様! 私はセイン様のお側におります。バフォールの戦いに備え、補助も必要かと! また何かあったら――」
「俺は大丈夫だよ。だけど、ギルがいなければ皆を助けることは難しいんだ」
「私はセイン様のお側におります!」

 バフォールによって瀕死の状態に陥ったセイン王子を二度も救えなかったことに、ギルは憤りを感じていた。この件に関しては一歩も譲るつもりはない。

「ギルはセインの側にいるように」

 静かに聞いていたリアム国王は命を下す。

「あ、ありがとうございますリアム陛下!」
「兄さん!」

 瞳を輝かすギルトは対照的に、セインは困惑を隠せていなかった。

「セイン、お前はローンズの王子だ。我々には今後もずっとローンズの民を守っていかねばならない。一番に考えることは生きること。ローンズを守ることである。アトラス王国やエリー王女を大切に思っていることは知っている。しかし、何が重要なのかを判断し、起こりうる最悪の事態に備えることだ」
「……はい、分かりました。すみません」

 静かに発する声には威圧的でも高圧的でもなかったが、セイン王子の心を落ち着かせ、立場を理解させるには十分にあった。



 ◇

 翌朝、ギル、アリスは魔力戦闘部隊三十三名の子供達の前にいた。滞在所の食堂で食事を目の前にしてもなお、静かに二人を見つめる子供達。彼らは従順で大人しい。
 ギルはゆっくりと彼らと目を合わせてから口を開いた。

「食事前にごめんね。ここに来てから楽しいという気持ちって少しは知ることが出来たかな? これからね、もっと色々なことを知って、自分の意志で行動も出来るようになってほしいなって思っているよ。沢山笑って楽しい毎日が過ごせるようになってほしい。そして大切なものを見つけてほしい。君たちにはこんなに多くの家族がいる。お互い助け合って生きていってくれたら僕は嬉しい」

 子供たちは特に反応を示さないが、ギルを見る瞳には光が宿っている。ギルは少し躊躇したあと重い口を開いた。

「……これから俺たちローンズ王国は悪魔を倒しに行く予定なんだ。現在、悪魔はアトラス王国にいるんだけど、いずれ世界を侵食していくだろう。つまり、君たちの国デール王国やローンズ王国も脅威にさらされているということなんだ。俺には守りたい人がいる。だから戦おうと思う」
「あ……ぼく……」

 おどおどとした声が目の前に座る少年から聞こえた。ニーキュである。

「怖がらなくていいよ。君たちに戦えと言っているわけじゃないんだ。命令でもないし、お願いでもない。君たちの意思で一緒に戦うか判断してくれて構わないんだ。ただ……ごめん。訓練には付き合ってほしい。もしいざ戦いたいと思ってくれたとき、何も知らないよりかは、知っていてくれた方がかなり助かるから……。勝手なことを言って申し訳ないけど……」

 ギルの戸惑いが伝わっているかは分からないが、子供たちは頷きながら小さく「はい」と答えた。

「ありがとう。訓練は魔力を他人に譲渡するだけのものであり、危険なものじゃないから安心してほしい。それで早速で悪いんだけど、今日から訓練を始めて欲しいんだ。俺は悪魔討伐に向けてここから離れちゃうんだけど、アリスさんはみんなと一緒にいるから大丈夫だよね?」

 ギルが離れてしまうと聞いた瞬間、無表情だった子供達は少し寂しそうな表情を見せる。それを見たアリスはくすくすと笑った。

「なぁに? 私だけじゃ不満? じゃあさ、ギルさんが戻ってきた時に凄い! って言って貰えるように頑張るのはどう?」

 満面の笑みで話すアリスに対し、子供達の瞳はキラキラと輝いた。ここに滞在するようになってから、子供達の面倒は主にギルとアリスが行っていた。言葉もあまり発することもなく、感情もあまり表には出さない子供達だったが、二人から受ける愛情には少なからず反応を示すようになっていた。

 子供達の反応にギルとアリスも嬉しそうに笑い合う。

「…………ぼく、役に立ちたい。正しい使い方……」

 ニーキュが両手をぎゅっと結んで顔を上げた。ギルはニーキュの目線の高さに腰を屈め、優しく微笑んだ。

「うん。俺はニーキュが正しい魔法の使い方が出来るって知っているよ。協力してくれてありがとう」

 ニーキュも小さく笑う。ニーキュは誰よりも言葉を使うようになり、表情も増えていた。

「……いって……らっしゃい……」

 恥ずかしそうにそう伝えるニーキュの頭をギルが撫でてから、また立ち上がる。

「それじゃあ、行ってきます。皆、楽しく過ごしてね」

 少しずつ変わってきている彼らのために、戦わなくても良い方法を見つけたい。
 ギルは気持ちを引き締め、退室した。



 ◇

 滞在所の門出口でリアム国王とセイン王子が話をしていた。近くには三頭の馬とバーミアもいる。

「無茶はしないように」
「うん、分かってる」
「ギルの言うことはちゃんと聞くように」
「兄さん、子供じゃないんだし大丈夫だから。心配しすぎなんだよ」

 はははと笑うセイン王子に対し、リアム国王はまだ険しい顔をしていた。セイン王子は何かと直ぐに無理をすることが分かっていたからだ。出来ることならば一緒に付いて行きたかったが、魔力を封印するのはリアム国王が行うため、子供達と一緒に訓練をする必要があった。側近であるハルはローンズ王国に戻っていたため、セイン王子に付けることが出来ない。

「バーミア、お前もセインが無茶をしようとしたら遠慮なく止めるように」
「はっ」

 騎士団隊長のバーミアが胸に手を当てたとき、ギルが建物の中から走って出て来た。

「お待たせ致しました!」
「よし、行こう!」

 セイン王子は直ぐ様馬に跨ると、バーミア、ギルもそれに続く。

「では行って参ります」

 三人が向かう先は、ここから南東。馬で三日ほどの距離にある大聖堂ボルディレット。世界で最も神に近い場所と言われている。魔力を封印すること以外に悪魔を倒す方法がないかと、大司教に相談しに行くのである。




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