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第16章 囚われた王女と失われた記憶
第196話 レイの失われた記憶2
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自分は一体何者であるのか。
思い出そうにも知らないことを思い出そうとするように、何も出てこない……。
この世界では自分自身ですら全く頼りにはならなかった。
だから……。
「アラン。どこか行くの?」
身支度を始めたアランを見て、夏だというのに急に寒気を感じた。一昨日の夜に出会い、昨日はずっと色々なことを教えてくれた。今は、アランと親父さんだけが頼りであり、心の支えだった。
「訓練所だ。文字読めるみたいだし、一人で本でも読んで待っていてくれてもいいが……一緒に来るか? 」
「行くっ!」
知らない土地で生きる術も分からない俺は、一人になるのが怖い。だから、アランの側を離れたくなかった。きっと不安な表情が出てたのかもしれない。アランは俺の頭をくしゃりと撫でた。
アトラス城の裏門から入るアランは、この国の騎士らしい。城内にある訓練所は、大きな四角い建物の中にあった。石で出来ているからか、中はひんやりとして涼しい。ここなら暑さで倒れることはないかもしれない。
きょろきょろと中の様子を見ていると、大きな男の人とぶつかった。
「あっ、すみません」
「おう。気をつけろよ」
顔を上げると目付きの鋭い男が睨んでいる。
「ああ、アルバート。ビルボートは来てるか?」
「さっき着替えてたからそろそろ来ると思うぜ。そいつ、新入りか?」
「いや、ただの見学だ」
「ふ~ん」
アランと親しげに話しているアルバートと呼ばれる人は、俺の顔をジロジロと見てきた。凄く居心地が悪い上に、めちゃくちゃ怖い……。あまり関わりたくないな……。
「名前、何?」
「えっ……。あー……レイ……ラッシュウォールです……」
この名前を本当に名乗ってもいいものなのだろうか。馴染まない名前を口にする。
「ラッシュウォール? ああ? アランとこの親戚か?」
「弟だ。仲良くしてやってくれ」
「はぁ? どういうことだよ? おい、アラン!」
アランは目的の人物を見つけたらしく、アルバートさんの問いには答えずスタスタと歩き出した。俺も慌てて後に続く。
「ビルボート。今日からレイを見学させてもらってもいいか?」
「レイ? ああ、セロードから話は聞いてるぞ。そっか、君が……。初めまして、俺はこの騎士団の副隊長を務めるビルボートだ。よろしく」
細い目をさらに細めて手を差し出してきた。アルバートさんとは違って優しそうだ。ほっと胸を撫でおろして握手を交わす。
「よ、よろしくお願いいたします」
だけど握りしめた瞬間、ビルボートさんの眉間に皺が寄った。俺の手を引っ張り手のひらを見つめたり、肩や腕を強く触ってくる。
「あ、あの……」
「君、剣が使えるね?」
「え? ……ごめんなさい、わからないです……」
「君の右手は剣ダコが出来ているし、体もしっかり鍛えている。おい、アル!!」
さっきのアルバートさんを呼ぶ。
「なんすか~?」
だるそうにやってくるその姿はやっぱり怖い。
「ちょっくら、この子の相手をしてやってくれ。強さを見てみようと思ってな」
ビルボートさんが嬉しそうに話すと「ふーん」と言いながら睨んでくる。
「え、でも俺……戦ったことがないので……」
無理矢理ビルボートさんから木剣を持たされ、おどおどしながらアランを見る。
「気楽にやれ。アルバート、手加減してやってくれ」
「はいはーい、レイっつったっけ? よろしく~」
握手を求められ、慌て手を差し出すとアルバートはガシッと掴み、大きく手を振った。
「緊張しなくていいからな~」
そう言って笑った顔は温かい。悪い人じゃないのかも……?
いざ戦ってみると、意外と自分の体はよく動いた。アルバートさんの剣筋も良く見える。ビルボートさんが言うように、俺は剣を握ったことがあるみたいだ。俺は一体何者なんだろう……。
「ほら、考え事してっと、怪我すっぞ!!」
「わっ!!」
素早く鋭い剣が俺の剣を弾き、その勢いで体のバランスが崩れた。そこへアルバートさんの剣が横から襲ってくる。ヤバい、打たれる!!!
咄嗟に目をつぶり手を前に掲げ、身を守った。と、思う。でもそうじゃなかった。来るはずの剣は襲ってはこなく、その代わりに眩い光と床に何かが落ちた衝撃音、そして膝を地につけたアルバートさんが驚いた顔をしてこっちを見ていた。
「はっ? お前、それ……」
「え……」
辺りを見渡すと、ここにいた大勢の騎士の人たちも驚いた顔をして見ている。何かまずいことをした? 確かに体から何か出た気はするけど……。
「すげーーー!!! 魔法じゃん!!! 剣筋もめっちゃいいし、こいつぜってー、国の役に立つよ!!! おい、アラン!! なんでもっと早く連れてこなかったんだよ!!! おい、レイ!! もちろん騎士になるよな? 大丈夫、俺が色々と教えてやるからよ!!」
アルバートさんの声で訓練場内はわぁっと声が上がった。よくわからないけど、みんなが凄い凄いって褒めてくれるのが嬉しかった。嬉しかったんだ……。
きっとみんなの役に立てば親父さんやアランに恩返しができる。そう思って、俺は騎士になることに決めた。
能力が認められ、数ヵ月後にはアランと同じ騎士となり、同じ部隊に配属された。名もない自分が認められたのだと凄くワクワクした瞬間だった。親父さんもアランも表情では分かりにくかったけど、とても喜んでいたように思う。
騎士団の人達はみんな優しくしてくれ、仲間として、家族として受け入れてくれた。本当に居心地の良い場所だった。
「お、レイ。今日からK地区配属だったっけ?」
寄宿舎から出ようとしたところで、アル先輩に呼び止められた。
「うん。俺もアル先輩みたいに功績上げてきますね」
「おぅ、しっかり頑張れよ! あ、なんかあったらアランじゃなくて俺に言えよ? 特に女関係な。あいつに聞いてもどーせわかんねーから」
後半部分はコソコソと耳打ちされた。
「あはははは! うん、そうだね! アル先輩に聞きます」
「おい、行くぞ!」
アランが寄宿舎の入り口まで迎えに来てくれていた。
「あ! ごめん、今行く! じゃ、アル先輩。休みの日になったらまた何処か連れていって下さいね!」
大きく手を振る俺に「おうよ!」と応え、笑顔で見送ってくれた。
未だに記憶は戻ってはいないけど、居場所を見つけたんだ。
とても居心地のいい場所。
記憶なんてなくてもいい。
ただ、ずっとここにいたい。
この場所を守りたい……。
思い出そうにも知らないことを思い出そうとするように、何も出てこない……。
この世界では自分自身ですら全く頼りにはならなかった。
だから……。
「アラン。どこか行くの?」
身支度を始めたアランを見て、夏だというのに急に寒気を感じた。一昨日の夜に出会い、昨日はずっと色々なことを教えてくれた。今は、アランと親父さんだけが頼りであり、心の支えだった。
「訓練所だ。文字読めるみたいだし、一人で本でも読んで待っていてくれてもいいが……一緒に来るか? 」
「行くっ!」
知らない土地で生きる術も分からない俺は、一人になるのが怖い。だから、アランの側を離れたくなかった。きっと不安な表情が出てたのかもしれない。アランは俺の頭をくしゃりと撫でた。
アトラス城の裏門から入るアランは、この国の騎士らしい。城内にある訓練所は、大きな四角い建物の中にあった。石で出来ているからか、中はひんやりとして涼しい。ここなら暑さで倒れることはないかもしれない。
きょろきょろと中の様子を見ていると、大きな男の人とぶつかった。
「あっ、すみません」
「おう。気をつけろよ」
顔を上げると目付きの鋭い男が睨んでいる。
「ああ、アルバート。ビルボートは来てるか?」
「さっき着替えてたからそろそろ来ると思うぜ。そいつ、新入りか?」
「いや、ただの見学だ」
「ふ~ん」
アランと親しげに話しているアルバートと呼ばれる人は、俺の顔をジロジロと見てきた。凄く居心地が悪い上に、めちゃくちゃ怖い……。あまり関わりたくないな……。
「名前、何?」
「えっ……。あー……レイ……ラッシュウォールです……」
この名前を本当に名乗ってもいいものなのだろうか。馴染まない名前を口にする。
「ラッシュウォール? ああ? アランとこの親戚か?」
「弟だ。仲良くしてやってくれ」
「はぁ? どういうことだよ? おい、アラン!」
アランは目的の人物を見つけたらしく、アルバートさんの問いには答えずスタスタと歩き出した。俺も慌てて後に続く。
「ビルボート。今日からレイを見学させてもらってもいいか?」
「レイ? ああ、セロードから話は聞いてるぞ。そっか、君が……。初めまして、俺はこの騎士団の副隊長を務めるビルボートだ。よろしく」
細い目をさらに細めて手を差し出してきた。アルバートさんとは違って優しそうだ。ほっと胸を撫でおろして握手を交わす。
「よ、よろしくお願いいたします」
だけど握りしめた瞬間、ビルボートさんの眉間に皺が寄った。俺の手を引っ張り手のひらを見つめたり、肩や腕を強く触ってくる。
「あ、あの……」
「君、剣が使えるね?」
「え? ……ごめんなさい、わからないです……」
「君の右手は剣ダコが出来ているし、体もしっかり鍛えている。おい、アル!!」
さっきのアルバートさんを呼ぶ。
「なんすか~?」
だるそうにやってくるその姿はやっぱり怖い。
「ちょっくら、この子の相手をしてやってくれ。強さを見てみようと思ってな」
ビルボートさんが嬉しそうに話すと「ふーん」と言いながら睨んでくる。
「え、でも俺……戦ったことがないので……」
無理矢理ビルボートさんから木剣を持たされ、おどおどしながらアランを見る。
「気楽にやれ。アルバート、手加減してやってくれ」
「はいはーい、レイっつったっけ? よろしく~」
握手を求められ、慌て手を差し出すとアルバートはガシッと掴み、大きく手を振った。
「緊張しなくていいからな~」
そう言って笑った顔は温かい。悪い人じゃないのかも……?
いざ戦ってみると、意外と自分の体はよく動いた。アルバートさんの剣筋も良く見える。ビルボートさんが言うように、俺は剣を握ったことがあるみたいだ。俺は一体何者なんだろう……。
「ほら、考え事してっと、怪我すっぞ!!」
「わっ!!」
素早く鋭い剣が俺の剣を弾き、その勢いで体のバランスが崩れた。そこへアルバートさんの剣が横から襲ってくる。ヤバい、打たれる!!!
咄嗟に目をつぶり手を前に掲げ、身を守った。と、思う。でもそうじゃなかった。来るはずの剣は襲ってはこなく、その代わりに眩い光と床に何かが落ちた衝撃音、そして膝を地につけたアルバートさんが驚いた顔をしてこっちを見ていた。
「はっ? お前、それ……」
「え……」
辺りを見渡すと、ここにいた大勢の騎士の人たちも驚いた顔をして見ている。何かまずいことをした? 確かに体から何か出た気はするけど……。
「すげーーー!!! 魔法じゃん!!! 剣筋もめっちゃいいし、こいつぜってー、国の役に立つよ!!! おい、アラン!! なんでもっと早く連れてこなかったんだよ!!! おい、レイ!! もちろん騎士になるよな? 大丈夫、俺が色々と教えてやるからよ!!」
アルバートさんの声で訓練場内はわぁっと声が上がった。よくわからないけど、みんなが凄い凄いって褒めてくれるのが嬉しかった。嬉しかったんだ……。
きっとみんなの役に立てば親父さんやアランに恩返しができる。そう思って、俺は騎士になることに決めた。
能力が認められ、数ヵ月後にはアランと同じ騎士となり、同じ部隊に配属された。名もない自分が認められたのだと凄くワクワクした瞬間だった。親父さんもアランも表情では分かりにくかったけど、とても喜んでいたように思う。
騎士団の人達はみんな優しくしてくれ、仲間として、家族として受け入れてくれた。本当に居心地の良い場所だった。
「お、レイ。今日からK地区配属だったっけ?」
寄宿舎から出ようとしたところで、アル先輩に呼び止められた。
「うん。俺もアル先輩みたいに功績上げてきますね」
「おぅ、しっかり頑張れよ! あ、なんかあったらアランじゃなくて俺に言えよ? 特に女関係な。あいつに聞いてもどーせわかんねーから」
後半部分はコソコソと耳打ちされた。
「あはははは! うん、そうだね! アル先輩に聞きます」
「おい、行くぞ!」
アランが寄宿舎の入り口まで迎えに来てくれていた。
「あ! ごめん、今行く! じゃ、アル先輩。休みの日になったらまた何処か連れていって下さいね!」
大きく手を振る俺に「おうよ!」と応え、笑顔で見送ってくれた。
未だに記憶は戻ってはいないけど、居場所を見つけたんだ。
とても居心地のいい場所。
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ただ、ずっとここにいたい。
この場所を守りたい……。
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