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第15章 再来
第184話 恐怖心
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アトラス城の奥深い地下通路。ここは暗くじめじめしており、白い息が見えそうなくらい冷えていた。アランの前を走る兵士がランタンを掲げているため、なんとか足元が見える。二人の吐く息の音、石で作られた通路と靴がカツカツとぶつかる足音だけが耳に響いた。
ここは迷路のように入り組んでおり、この地下通路を精通しているものは数少ない。そもそもこの通路入り口すら知っているものが殆んどいなかった。
「そこは右だ」
「はい」
そのためアランが適切に指示を後ろから投げる。
「ちょっと待て」
「どうされ……」
指を立てて静かにするように合図をされ、兵士は黙った。
兵士も何か聞こえるのではないかと耳をそばだてるが、自分の心臓の音が大きすぎて聞こえない。手足が震え、早くここから逃げ出したかった。
兵士はごくりと唾を飲む。ランタンを持つ手が震え、背中はゾクゾクとしていた。
「……いや、何でもない。しかし、走るのは止めておこう。静かに行くぞ……」
「は、はい……」
二人は足音を立てないように静かに、かつ素早く移動を再開した。兵士にはこの暗い通路がとても恐ろしく、延びる影からバフォールが今にも出てきそうでビクビクと震えていた。心臓は今にも張り裂けそうだ。
兵士の息が知らぬ間に荒くなる。
「大丈夫だ。もうすぐだから不安にならなくてもいい」
アランは兵士の恐怖心を和らげようと小声で声をかける。
「は、はい。申し訳ございません……」
そうは言われても恐怖心を拭いさることが出来なかった。
――――見つけたぞ。
頭の中で声が聞こえた気がしたその瞬間、後方から強い風が吹き付けてくる。
「う、うわあああああ!!」
兵士は思わず声を張り上げた。
「くっ、見付かったのか! おい、しっかりしろ!」
腕を掴み、兵士の瞳に自分の瞳を近付ける。
「いいか? エリー様を先ず背負え」
「は、はい!」
「このまま真っ直ぐ突き進み三つ目の通路を右へ! 最初の右にある扉から外へ出られる! さぁ、早く!」
背負っていたエリー王女を兵士におぶらせながら説明をする。兵士は焦りながらも頷き走って行った。
「バフォール! 俺はここにいる!」
暗闇の中、アランは大声を張り上げ剣を抜いた。赤黒くおぼろ気な光を放つ風がアランの周りをぐるぐると囲み、姿は見えずとも気配は感じる。
「さすが悪魔。計り知れない能力だな……」
アランはこの状況下にも拘らず、意外と冷静であった。それはバフォールの目的の中に自分が入っていることを知っていたからだった。思惑通り、バフォールはアランを先に捕らえるつもりのようだ。
エリー王女さえ無事でいてくれればそれで良い。
「悪いな……レイ。後は任せたぞ……」
アランは出口とは反対の方向へと走った。風もまたアランに付いてきているようだ。それに気が付きアランは薄く笑う。
――――時間稼ぎか。
また頭に声が響く。
「だったらどうだと言うんだ」
アランは小さく呟くと、強い風がアランを押し戻そうと前から吹きすさぶ。
「うっ……!」
腕で顔を隠し、風に耐えていると今度は頭の上から下へと押し付けてきた。体を押され、両足を踏ん張り、必死に耐える。
――――どうした? 動けないのか? 人間は恐ろしく弱いな。どうだ、このまま風に押し潰されるぞ?
弾む声からして楽しんでいるのだろう。
「くっ……」
しかし、徐々に強くなる風に耐えられなくなり、遂に右の膝が地面についてしまった。全く身動きが出来ない。一度崩れた体勢から元に戻すことはおろか、両膝、さらには両手も地に付けてしまった。四つん這いのまま、何も動くことが出来ない。
すると前からカツカツと足音が聞こえてきた。
地面についた両手の隙間から足が見える。
「どうした? 逃げないのか?」
「……捕まえたいのなら、さっさとすればいい!」
「お前にとってそれが楽だからか? それでは面白くない。もっと苦痛に歪んだ顔を見たいからな」
頭上から楽しそうな声が降り、バフォールはしゃがみこんだ。手を顎に添え、アランの顔を無理やり上げさせる。
「ふむ……つまらない顔だ。耐えれば時間が稼げる……? そんな希望など私は嬉しくない。なら……もう少し力を加えたら……」
「うああああっ!!」
上から強い力が更に加わり、ガクンと体全体が倒れ、うつ伏せ状態となる。それでもなお強い力が押し付けてくる。
「っっっ!!」
圧迫され、呼吸することさえままならない。アランはそれを必死で耐えていた。苦しい。しかし、恐怖心はない。この遊びに耐えればエリー王女は逃げ延びることが出きるのだから。
「しぶとい人間だな……」
バフォールはなかなか思うような感情を得られなかったのだろう。言葉に苛立ちを感じた。
「……ならば、もっと違う方法で」
「かはぁっ!」
風が止んだかと思ったと同時に顔を蹴りあげられ、勢いで壁にぶつかり仰向けで倒れた。やっと息ができたが痛みで咳き込む。
「さて、今度は痛みにどこまで耐えられるか試してやろう」
バフォールは、アランの手から離れた剣を拾い上げニヤリと笑う。剣先がきらりと光、アランを捉えている。
「さぁ、まずはここだ!」
振り上げた剣が勢いよくアランに向かってきた――――。
ここは迷路のように入り組んでおり、この地下通路を精通しているものは数少ない。そもそもこの通路入り口すら知っているものが殆んどいなかった。
「そこは右だ」
「はい」
そのためアランが適切に指示を後ろから投げる。
「ちょっと待て」
「どうされ……」
指を立てて静かにするように合図をされ、兵士は黙った。
兵士も何か聞こえるのではないかと耳をそばだてるが、自分の心臓の音が大きすぎて聞こえない。手足が震え、早くここから逃げ出したかった。
兵士はごくりと唾を飲む。ランタンを持つ手が震え、背中はゾクゾクとしていた。
「……いや、何でもない。しかし、走るのは止めておこう。静かに行くぞ……」
「は、はい……」
二人は足音を立てないように静かに、かつ素早く移動を再開した。兵士にはこの暗い通路がとても恐ろしく、延びる影からバフォールが今にも出てきそうでビクビクと震えていた。心臓は今にも張り裂けそうだ。
兵士の息が知らぬ間に荒くなる。
「大丈夫だ。もうすぐだから不安にならなくてもいい」
アランは兵士の恐怖心を和らげようと小声で声をかける。
「は、はい。申し訳ございません……」
そうは言われても恐怖心を拭いさることが出来なかった。
――――見つけたぞ。
頭の中で声が聞こえた気がしたその瞬間、後方から強い風が吹き付けてくる。
「う、うわあああああ!!」
兵士は思わず声を張り上げた。
「くっ、見付かったのか! おい、しっかりしろ!」
腕を掴み、兵士の瞳に自分の瞳を近付ける。
「いいか? エリー様を先ず背負え」
「は、はい!」
「このまま真っ直ぐ突き進み三つ目の通路を右へ! 最初の右にある扉から外へ出られる! さぁ、早く!」
背負っていたエリー王女を兵士におぶらせながら説明をする。兵士は焦りながらも頷き走って行った。
「バフォール! 俺はここにいる!」
暗闇の中、アランは大声を張り上げ剣を抜いた。赤黒くおぼろ気な光を放つ風がアランの周りをぐるぐると囲み、姿は見えずとも気配は感じる。
「さすが悪魔。計り知れない能力だな……」
アランはこの状況下にも拘らず、意外と冷静であった。それはバフォールの目的の中に自分が入っていることを知っていたからだった。思惑通り、バフォールはアランを先に捕らえるつもりのようだ。
エリー王女さえ無事でいてくれればそれで良い。
「悪いな……レイ。後は任せたぞ……」
アランは出口とは反対の方向へと走った。風もまたアランに付いてきているようだ。それに気が付きアランは薄く笑う。
――――時間稼ぎか。
また頭に声が響く。
「だったらどうだと言うんだ」
アランは小さく呟くと、強い風がアランを押し戻そうと前から吹きすさぶ。
「うっ……!」
腕で顔を隠し、風に耐えていると今度は頭の上から下へと押し付けてきた。体を押され、両足を踏ん張り、必死に耐える。
――――どうした? 動けないのか? 人間は恐ろしく弱いな。どうだ、このまま風に押し潰されるぞ?
弾む声からして楽しんでいるのだろう。
「くっ……」
しかし、徐々に強くなる風に耐えられなくなり、遂に右の膝が地面についてしまった。全く身動きが出来ない。一度崩れた体勢から元に戻すことはおろか、両膝、さらには両手も地に付けてしまった。四つん這いのまま、何も動くことが出来ない。
すると前からカツカツと足音が聞こえてきた。
地面についた両手の隙間から足が見える。
「どうした? 逃げないのか?」
「……捕まえたいのなら、さっさとすればいい!」
「お前にとってそれが楽だからか? それでは面白くない。もっと苦痛に歪んだ顔を見たいからな」
頭上から楽しそうな声が降り、バフォールはしゃがみこんだ。手を顎に添え、アランの顔を無理やり上げさせる。
「ふむ……つまらない顔だ。耐えれば時間が稼げる……? そんな希望など私は嬉しくない。なら……もう少し力を加えたら……」
「うああああっ!!」
上から強い力が更に加わり、ガクンと体全体が倒れ、うつ伏せ状態となる。それでもなお強い力が押し付けてくる。
「っっっ!!」
圧迫され、呼吸することさえままならない。アランはそれを必死で耐えていた。苦しい。しかし、恐怖心はない。この遊びに耐えればエリー王女は逃げ延びることが出きるのだから。
「しぶとい人間だな……」
バフォールはなかなか思うような感情を得られなかったのだろう。言葉に苛立ちを感じた。
「……ならば、もっと違う方法で」
「かはぁっ!」
風が止んだかと思ったと同時に顔を蹴りあげられ、勢いで壁にぶつかり仰向けで倒れた。やっと息ができたが痛みで咳き込む。
「さて、今度は痛みにどこまで耐えられるか試してやろう」
バフォールは、アランの手から離れた剣を拾い上げニヤリと笑う。剣先がきらりと光、アランを捉えている。
「さぁ、まずはここだ!」
振り上げた剣が勢いよくアランに向かってきた――――。
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