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第15章 再来
第182話 遁走(とんそう)
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城内の廊下を駆けながら、今起きた非現実的な出来事を頭の中で整理する。
あのまま三人を置いてきて本当に良かったのだろうか……もしも……。
いや、殺すつもりなら最初から殺していたはずだ。まずはエリーを守り、兄さんと合流しよう。
だけどその前に……。
セイン王子の不安はぬぐい切れず、やりきれない思いが溢れていた。それでも、今できる精一杯なことをやろうと前を向く。
「ジェルミア様。私は少し寄るところがございますので、エリー様を街の外にいるリアム陛下のところまで連れて行って下さい。私は後から参ります」
「え!? セイン様はどちらへ!? ……って、行ってしまわれた……」
脱兎の如くセイン王子はどこかへ走り去ってしまった。ジェルミア王子は仕方なくそのまま先ほどのホールへと向かう。走りながら、約二年前にアトラス城を襲ったバフォールの行ったことを思い出していた。
当時ジェルミア王子も城に呼ばれていたため、バフォールのことは知っている。
バフォールとの戦いによって、エリー王女と関係のあったレイが亡くなり、エリー王女は悲しみで見るに耐えられない状態になった。それが今また城を襲い、唯一の肉親である父親が囚えられたと知れば、エリー王女の心は耐えられないだろう……。
ジェルミア王子は、エリー王女を想い胸を痛めた。
「支えになってくれる人は出来たようですが……」
あれほど誰も入る隙のなかったエリー王女の心は今、セイン王子に向いている。ジェルミア王子はそのことについて驚きと深い傷を受けていた。デール王国を統治する目的が出来てから、エリー王女のことは諦めてはいたが、そう簡単に心は変わっていない。二人の様子を見るのは心が抉られた。
セイン王子はレイに似ている。
そのことに気がついたジェルミア王子の心は複雑に歪んだ。顔が同じであれば誰でも良かったのか。レイへの想いはそんなものだったのか。それともレイの代わりなのか……。
セイン王子の人となりは、デール王国からアトラス王国へ来るまでの間で多少理解した。ジェルミア王子は好ましく思っていただけに、どう整理して良いのか分からなかった。
「いや、私の心などどうでもいい。今はそんなことを考えている時ではない」
色々なことが一度に起き、混乱したままジェルミア王子は走っていく。
ホールに近づくと、楽しそうに話している声が聞こえてきた。ジェルミア王子は覚悟を決め、息を切らしながら階段上からエリー王女に向かって叫ぶ。
「エリー様! 急いでこの城からお逃げ下さい!」
一斉に視線が集まる。
「どうされたのですか?」
ジェエルミア王子の表情で不穏な状況を察したエリー王女が顔を曇らせた。階段を駆け下り、エリー王女の前に立つとゆっくりと声を落とす。
「エリー様……落ち着いて聴いて下さい。ディーン王子の側近がバフォールと契約しました。今、この城はディーン王子とバフォールによって占拠されております」
「えっ……そ、そんな……っ! お父様は? お父様はご無事でしょうか!?」
縋り付くようにジェルミア王子に問いかける。
「生きてはおりますが、バフォールの魔法によって洗脳されておりました。エリー様!」
その言葉を聞いたエリー王女は、意識が遠のいた。慌ててアランが支え、ジェルミア王子に視線を移す。
「ジェルミア様。セイン様やセロードはどうしたのでしょうか?」
「セイン様はどこかに寄ってから来るそうです。セロードは……。まずは外の騎士団とリアム陛下と合流し、対策を練りましょう」
「分かりました。アルバート! ここから急ぎ離れるぞ!」
アランはエリー王女を背中に背負うと、全員がホールから外へ飛び出した。
その時だった。
空から黒い翼を広げたソルブが目の前に降り立った。黒く光る瞳を細め、手を大きく広げる。
「ほぅ……。王女を連れて何処かに行くのか?」
「バ、バフォール!!」
アルバートとジェルミア王子が剣を抜き、アランの前に出た。
「ああ、お前たちの恐怖を感じる……くっくっくっく。やはりこの世界は楽しい……だが、戦いはしない。お前と……お前と……お前……三人はこの城から出てはダメだそうだ」
バフォールは細い指でエリー王女、アラン、アルバートをゆっくりと指し示す。
アランは指された瞬間に背筋が凍った。
城内の兵士は少なく、騎士はいない。エリー王女を背負った状態でバフォールからは逃れることは出来ない。ましてや標的とされているのであれば尚更だった。
「アラン、俺が食い止めている隙に逃げろ。うおおおおおおおおおっ!!」
アルバートがバフォールへ突撃し、ジェルミア王子もそれに続く。その隙にアラン、エリー王女、マーサ、サラの四人と一部の兵士は一旦城に戻った。
バフォールは両手に魔力を込め、アルバートが振り下ろした剣を素手で受け止める。
「そんなに戦いたいのであれば、少し遊んであげよう」
バフォールがアルバートとジェルミア王子を吹き飛ばし、手から剣を作り出す。近くにいた兵士達も参戦し、切りかかったが兵士達は次々となぎ倒されていく。
「何という手応えのなさ……。危なく殺してしまうところだったではないか……」
つまらなそうに眉間に皺を寄せ、バフォールが呟いた。
バフォールの後方では、アルバートが気配を消しながら低い姿勢で右上に剣を切り上げる。切られた部分から黒い煙が立ち上がり、バフォールの体が消えた。
「お前はまあまあだな。しかし、私を倒すことは出来なさそうだ」
いつの間にかアルバートの後ろに移動していたバフォールが余裕な笑みを浮かべ、アルバートに向かって手をかざす――――。
◇
アルバート等が戦っている間、アランは城内にある通路を突き進む。近くにいた兵士達四名もアランに続いた。
「サラ、マーサさん。二人はこっちの兵士二人に誘導してもらいながら街の外まで逃げてください。我々は別の道を行く」
「アランっ!」
サラが抗議の声を上げる。
「あいつが狙っているのは俺らだ。一緒にいては危険だ」
不安な顔を見せるサラだったが、気持ちを組んだのか大きく頷いた。
「分かった……絶対にエリーを守ってね!」
「ああ、任せておけ」
二人が行ったことを確認し、アランもまた別の出口へと急いだ。
バフォールはどこまで自分たちの気配を感じ取ることが出来るのだろうか?
このまま本当に逃げ切れるのだろうか?
しかし、命に変えてでもエリー王女を守らなければならない。
アランは背中に重みを感じながらひたすら走った。
「そうだ……」
ふと立ち止まり、アランは一人の兵士に指示を出す。
「バフォールを閉じ込めていた部屋に正方形の黒い箱のようなものが落ちているかもしれない。それがあればバフォールをもう一度封印することが出来るはずだ。それを探し出してきてほしい」
「わかりました!」
この国にギルがいる。それに、世界最強と呼ばれたリアム国王もいる。
これほど心強いものはない。
「何としてでもエリー様をお守りする。急ごう」
「はっ!」
まずは逃げることを優先に、アランと兵士は秘密の地下通路へと入って行った。
あのまま三人を置いてきて本当に良かったのだろうか……もしも……。
いや、殺すつもりなら最初から殺していたはずだ。まずはエリーを守り、兄さんと合流しよう。
だけどその前に……。
セイン王子の不安はぬぐい切れず、やりきれない思いが溢れていた。それでも、今できる精一杯なことをやろうと前を向く。
「ジェルミア様。私は少し寄るところがございますので、エリー様を街の外にいるリアム陛下のところまで連れて行って下さい。私は後から参ります」
「え!? セイン様はどちらへ!? ……って、行ってしまわれた……」
脱兎の如くセイン王子はどこかへ走り去ってしまった。ジェルミア王子は仕方なくそのまま先ほどのホールへと向かう。走りながら、約二年前にアトラス城を襲ったバフォールの行ったことを思い出していた。
当時ジェルミア王子も城に呼ばれていたため、バフォールのことは知っている。
バフォールとの戦いによって、エリー王女と関係のあったレイが亡くなり、エリー王女は悲しみで見るに耐えられない状態になった。それが今また城を襲い、唯一の肉親である父親が囚えられたと知れば、エリー王女の心は耐えられないだろう……。
ジェルミア王子は、エリー王女を想い胸を痛めた。
「支えになってくれる人は出来たようですが……」
あれほど誰も入る隙のなかったエリー王女の心は今、セイン王子に向いている。ジェルミア王子はそのことについて驚きと深い傷を受けていた。デール王国を統治する目的が出来てから、エリー王女のことは諦めてはいたが、そう簡単に心は変わっていない。二人の様子を見るのは心が抉られた。
セイン王子はレイに似ている。
そのことに気がついたジェルミア王子の心は複雑に歪んだ。顔が同じであれば誰でも良かったのか。レイへの想いはそんなものだったのか。それともレイの代わりなのか……。
セイン王子の人となりは、デール王国からアトラス王国へ来るまでの間で多少理解した。ジェルミア王子は好ましく思っていただけに、どう整理して良いのか分からなかった。
「いや、私の心などどうでもいい。今はそんなことを考えている時ではない」
色々なことが一度に起き、混乱したままジェルミア王子は走っていく。
ホールに近づくと、楽しそうに話している声が聞こえてきた。ジェルミア王子は覚悟を決め、息を切らしながら階段上からエリー王女に向かって叫ぶ。
「エリー様! 急いでこの城からお逃げ下さい!」
一斉に視線が集まる。
「どうされたのですか?」
ジェエルミア王子の表情で不穏な状況を察したエリー王女が顔を曇らせた。階段を駆け下り、エリー王女の前に立つとゆっくりと声を落とす。
「エリー様……落ち着いて聴いて下さい。ディーン王子の側近がバフォールと契約しました。今、この城はディーン王子とバフォールによって占拠されております」
「えっ……そ、そんな……っ! お父様は? お父様はご無事でしょうか!?」
縋り付くようにジェルミア王子に問いかける。
「生きてはおりますが、バフォールの魔法によって洗脳されておりました。エリー様!」
その言葉を聞いたエリー王女は、意識が遠のいた。慌ててアランが支え、ジェルミア王子に視線を移す。
「ジェルミア様。セイン様やセロードはどうしたのでしょうか?」
「セイン様はどこかに寄ってから来るそうです。セロードは……。まずは外の騎士団とリアム陛下と合流し、対策を練りましょう」
「分かりました。アルバート! ここから急ぎ離れるぞ!」
アランはエリー王女を背中に背負うと、全員がホールから外へ飛び出した。
その時だった。
空から黒い翼を広げたソルブが目の前に降り立った。黒く光る瞳を細め、手を大きく広げる。
「ほぅ……。王女を連れて何処かに行くのか?」
「バ、バフォール!!」
アルバートとジェルミア王子が剣を抜き、アランの前に出た。
「ああ、お前たちの恐怖を感じる……くっくっくっく。やはりこの世界は楽しい……だが、戦いはしない。お前と……お前と……お前……三人はこの城から出てはダメだそうだ」
バフォールは細い指でエリー王女、アラン、アルバートをゆっくりと指し示す。
アランは指された瞬間に背筋が凍った。
城内の兵士は少なく、騎士はいない。エリー王女を背負った状態でバフォールからは逃れることは出来ない。ましてや標的とされているのであれば尚更だった。
「アラン、俺が食い止めている隙に逃げろ。うおおおおおおおおおっ!!」
アルバートがバフォールへ突撃し、ジェルミア王子もそれに続く。その隙にアラン、エリー王女、マーサ、サラの四人と一部の兵士は一旦城に戻った。
バフォールは両手に魔力を込め、アルバートが振り下ろした剣を素手で受け止める。
「そんなに戦いたいのであれば、少し遊んであげよう」
バフォールがアルバートとジェルミア王子を吹き飛ばし、手から剣を作り出す。近くにいた兵士達も参戦し、切りかかったが兵士達は次々となぎ倒されていく。
「何という手応えのなさ……。危なく殺してしまうところだったではないか……」
つまらなそうに眉間に皺を寄せ、バフォールが呟いた。
バフォールの後方では、アルバートが気配を消しながら低い姿勢で右上に剣を切り上げる。切られた部分から黒い煙が立ち上がり、バフォールの体が消えた。
「お前はまあまあだな。しかし、私を倒すことは出来なさそうだ」
いつの間にかアルバートの後ろに移動していたバフォールが余裕な笑みを浮かべ、アルバートに向かって手をかざす――――。
◇
アルバート等が戦っている間、アランは城内にある通路を突き進む。近くにいた兵士達四名もアランに続いた。
「サラ、マーサさん。二人はこっちの兵士二人に誘導してもらいながら街の外まで逃げてください。我々は別の道を行く」
「アランっ!」
サラが抗議の声を上げる。
「あいつが狙っているのは俺らだ。一緒にいては危険だ」
不安な顔を見せるサラだったが、気持ちを組んだのか大きく頷いた。
「分かった……絶対にエリーを守ってね!」
「ああ、任せておけ」
二人が行ったことを確認し、アランもまた別の出口へと急いだ。
バフォールはどこまで自分たちの気配を感じ取ることが出来るのだろうか?
このまま本当に逃げ切れるのだろうか?
しかし、命に変えてでもエリー王女を守らなければならない。
アランは背中に重みを感じながらひたすら走った。
「そうだ……」
ふと立ち止まり、アランは一人の兵士に指示を出す。
「バフォールを閉じ込めていた部屋に正方形の黒い箱のようなものが落ちているかもしれない。それがあればバフォールをもう一度封印することが出来るはずだ。それを探し出してきてほしい」
「わかりました!」
この国にギルがいる。それに、世界最強と呼ばれたリアム国王もいる。
これほど心強いものはない。
「何としてでもエリー様をお守りする。急ごう」
「はっ!」
まずは逃げることを優先に、アランと兵士は秘密の地下通路へと入って行った。
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