恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

文字の大きさ
上 下
180 / 235
第15章 再来

第180話 一時の休息

しおりを挟む
 冷たい雨と大地にぶつかる雨音。そんな中でもエリー王女は温かさを感じていた。
 見上げればセイン王子の優しい笑顔がある。

「良かった、無事で」
「はい……ご心配をおかけしました。そして、来てくれてありがとうございます」

 エリー王女は、セイン王子の腕の中でやっと落ち着きを取り戻した。
 視線を足元で跪くアランとアルバートに移し、背筋を伸ばす。

「よく戻られました」
「この度の件、誠に申し訳ございませんでした。どんな処罰も受け入れる覚悟は出来ております」

 アランは頭を上げずに謝罪する。

「いえ、それは良いのです。二人とも無事で何よりでした。陛下も謹慎のみで良いと仰っておりますので、今はまずアトラスを守ることだけを考えましょう」

 エリー王女が微笑むとアランとアルバートはさらに深くお辞儀をした。
 後ろでずっと待機していたセロードが一歩前に出て頭を下げる。

「では、エリー様とセイン様。ここでは雨に濡れてしまいますので急いで中へお入りください。……お前達の説教は全て終わってからにする」
「はい」

 セロードに促されるまま城のホールへ移動すると、セイン王子が魔法で全員の水分を一気に蒸発させた。

「え、何凄い……!」

 奥の方でサラの声が聞こえる。セイン王子は小さな笑みをサラに返してから、セロードに向き合った。

「セロード。勝手に入国して申し訳ない。急を要していたもので」
「分かっております。この度はデール王国の戦争も止めてくださったと聞き及んでおります。弊国から感謝を申し上げなければなりません」
「いえ、それは彼の働きのおかげです。ジェルミア様」

 ジェルミア王子はずっと被っていたフードを外す。金色の髪から覗く表情は固く、青い瞳からは強い力を放っていた。

「ジェルミア様……。聡明な判断に感謝いたします。またこちらに足を運ぶ勇気もしかと受け取りました。では、お二人には陛下との謁見をお願いしたいのですが宜しいでしょうか」
「もちろんです」

 セイン王子とジェルミア王子の首肯を受け、セロードはアランに視線を移す。

「アラン、アルバートはエリー様のお側に。セイン様、ジェルミア様はこちらへ」

 セロードがそれぞれに声を掛けると中央階段へ向かい始めた。

「あのっ……セイン様……」

 セイン王子の背中を見たエリー王女は言い知れぬ不安を感じ、思わず呼び止めてしまった。セイン王子は振り返るとエリー王女の側まで戻り、手を取る。

「心配しないで。陛下とちゃんと話してくるから」
「……はい」

 大丈夫だと言う様に笑みを浮かべるセイン王子に、エリー王女も笑みを作って見せた。不安はなくなってはいない。それが分かっているのかセイン王子は何度か頷くとエリー王女の頬を撫でた。

「ごめんね。待っていて」

 名残惜しそうに微笑むとセイン王子は背中を見せた。

「すみません。参りましょう」

 セイン王子がそのまま振り返ることなく歩いていく。エリー王女はホールの中央階段を登っていく三人をただ静かに見送った。

「エリー、大丈夫だから。ほら、二人も戻ってきたし、この戦争ももう終わるって言ってたでしょ?」

 エリー王女の不安を拭うようにサラが明るい声を出す。

「サラ……。そう……ですね」
「ほら~、アランもアルバートも、もっと早く来なさいよね! エリー、ずっと心配していたのよ」

 サラがアランにパンチをするとアランはその拳を片手で掴んだ。

「っ!? え?」
「サラにも怖い思いをさせてしまって悪かった。大丈夫だったか?」

 握り締められた手のぬくもりを感じ、サラの顔に熱が集中する。

「だ、大丈夫よ! エリーがいてくれたおかげで大丈夫だったわ。エリー、本当に凄かったんだから! 私を守るために……」
「そうか、良かった。それに真実を知ってもエリー様のお側にいてくれて感謝する」

 アランが微笑むとサラは掴まれていた手を反射的に引っ込めて、高鳴る胸を押さえた。

「あ、当たり前じゃない! たとえ王女であってもエリーはエリーなんだから、友達には変わりないわ。そりゃー、驚いて悩んだりもしたけど……」
「サラちゃん、俺からもごめんとありがとな」
「私からも改めてありがとうございます」

 アルバートとエリー王女からもお礼を言われ、サラは熱くなった顔を両手で隠す。

「えっ! なに? ちょっと! お礼言われるようなことしてないから止めてっ! なんか恥ずかしくなっちゃうでしょ! マーサさーーーん!!」

 耐えきれなくなり、サラはマーサの後ろに隠れた。

「ふふふ。ですが、私も感謝しております。エリー様のお側にいてくださることがどんなに心強いか」
「マ、マーサさんまで!! んんんんっ!! わかったわよ!! 面倒臭いって思われるくらいずっとエリーと一緒にいるからねっ!!」
「嬉しいです」

 サラが照れ隠しで怒ったふりをすると、エリー王女は嬉しそうに笑っている。それを見たアランとアルバート、マーサも自然と笑顔になっており、全員が久しぶりに力を抜いた瞬間だった。



 一時の休息。



 しかし今、アトラス城内では黒い影が蠢いていた……。





しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

処理中です...