恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

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第15章 再来

第179話 愛しい人

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 地を這うような地響きがすると、城の窓や家具、建具なども音を鳴らした。

「きゃあっ!」

 城を出ようとホールに出たその時、大きな揺れを感じたエリー王女が頭を抱えてしゃがみ込む。それを庇うようにセロードが覆い被さり、揺れが収まるのを待った。

「エリー様、揺れが収まりましたので外へ」

 揺れが収まったことを確認するとセロードが促す。

「セロード、やはり皆を置いては行けませんっ!」
「エリー様。いつここが炎に包まれるか分からないのです。どうか一緒にお逃げ下さい」

 シロルディアの馬車に乗れるのは数名だ。マーサとサラ。そしてセロード。たった四人しか逃げることが出来ない。

「私は――――」

 エリー王女がセロードを説得しようとしたその時、外にいた兵士が慌てた様子で飛び込んできた。

「雨です! 雨が降りだしました!」

 その報告にエリー王女はセロードと目を合わし、外へと飛び出す。

「あぁ、セロード……。これで……これで炎は消えるのではないでしょうか?」
「神は我々の味方をして下さった……」

 空から大量の雨が降り注いでいた。空はまだ赤く染まっていたが、この勢いならば直ぐに炎を消してくれるに違いない。

「サラ! 雨です! 雨が!」
「エリー! これなら学校も家もみんな残るかも……」

 外に出てきたサラはエリー王女と抱き合った。ずぶ濡れになるのも構わず、二人でそのまま赤く染まる夜の空を眺めた。

「セロード、私が城を出る理由はなくなりました。皆とここに残り、行く末を見守ります」
「しかし、ここがいつ戦場になるのか分かりません。むしろ今発つべきです」

 セロードは外に用意された馬車に視線を移した。シロルディアの兵士はいるが、ディーン王子とソルブの姿がない。

「遅いですね……」

 そこに一羽の黒鳥が地面に舞い降りた。ポルポルである。セロードは胸を撫でると足にくくりつけられた手紙を受け取った。

「エリー様、取り敢えず屋根のあるところへ移動しましょう」

 広いポーチに戻り、セロードは素早く中身を確認する。それはアランがデール王国から送った手紙だった。

「あぁ、やはりローンズは敵になったわけではなかった。……何っ! ディーン王子が!?」
「どうされたのですか?」

 セロードの表情が焦りに変わったため、エリー王女は心配そうに見つめる。

「シロルディアの兵士を捕らえよ! また城内にいるであろうディーン王子とその側近を見付け次第捕らえるのだ! 抵抗するようであれば斬っても構わない!」

 突然のセロードの命令に周りの兵士は一瞬驚いた表情を見せたものの、直ぐに行動に移した。

「何故我々を攻撃する!」

 シロルディア王国の兵士は困惑した。彼らはディーン王子の腹黒い野望など聞かされていなかったからだ。

 突然始まったシロルディアとの攻防に、エリー王女とサラは驚き固まっている。

「ど、どういうことなのですか?」

 側で守るセロードに尋ねるとセロードは周りを警戒しながら説明をした。

「ディーン王子もこの件に一枚噛んでおられました。エリー様を誘拐したのもディーン王子は知っていたようです。信頼させて背後から討つつもりだったのでしょう」
「そんな! では、お父様が危険なのでは!?」
「今城内にいるのは、ディーン王子とその側近だけです。陛下の周りには多くの護衛もおりますゆえ、直ぐに終わるかと思います」

 そう聞かされても不安は拭いきれなかった。何故か胸がざわざわと騒いでいる。サラと繋いだ手に力が入ると、サラは安心させるように背中を擦ってくれた。エリー王女はサラの肩に顔を埋める。

 今は早く終わることをただ願うしかない……。
 自分のやれることが何もない事に歯がゆく感じていると、ふと何かが聞こえた気がした。

 顔を上げ、雨で視界が悪くなった外をじっと見つめる。誰かがこっちに向かってきているような気がした。
 セロードも気がついたようで警戒しながら目を凝らしている。



 …………っ!!



 エリー王女は何かを感じ、衝動的に駆け出していた。

「エリー様っ!」

 セロードが驚き止めようとしたが、エリー王女の耳には入ってこなかった。
 濡れるのも構わず、裾を持ち上げひたすら走った。



 目の前に四頭の馬が立ち止まる。



 エリー王女はその内の一人を見上げた。



「セイン様……」



 震える声で愛しい人の名を呼ぶ。



 その瞬間、その人の胸の中にいた。



「エリー……!」
「あぁっ……セイン様!」



 やっと……やっと……。



 セイン王子の胸から顔を離し、エリー王女は愛しい人の顔を確かめるように右手で頬に触れる。雨なのか涙なのか分からないほど濡れたその顔は、恋い焦がれたその人で間違いない。



「セイン様……」



 名前を呟くものの雨でそれはかき消されたが、惹かれ合うように重ねた唇からは、二人の想いが絡み合う。

 二人は無事を確かめ合うように強く求め合った。


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