175 / 235
第14章 黒衣の魔力戦闘部隊
第175話 緊急事態
しおりを挟む
マーサが暗い後宮を駆け足で走る。エリー王女とサラが眠る部屋の重い扉を開け、二人が眠るベッドへ駆け寄った。
「エリー様、緊急事態です。今すぐお支度を」
エリー王女を優しく揺すりながら、耳元で声をかける。
いつもと違う様子を感じ取ったエリー王女が、ハッと目を覚ました。
「どうしたのです?」
隣で眠るサラを起こさぬよう、声を潜めマーサに尋ねた。
「落ち着いて聞いてください。今、王都では――」
マーサは神妙な面持ちで状況を説明を行う。その内容にエリー王女は両手を口に当て、悲痛な表情を覗かせた。
「そんな……! 皆さんは無事なのですか?」
「避難はしているようですが、全員無事とはいかないかもしれません。エリー様も直ぐにお支度を。いつでも逃げられる準備が必要です」
「わかりました。サラ、起きて下さい。サラ……」
隣でスヤスヤと眠るサラを起こし、サラにも状況を簡単に説明した。サラが暮らすK地区はまだ爆発が起きていないということだったが、血の気が引いたように顔を青く染める。
「お父さん、お母さん……」
「今は皆さん避難をしていらっしゃいます。ご無事を祈り、お着替えをしながら気持ちを落ち着かせましょう」
マーサはサラを安心させるように微笑んだ。
「……はい。そうですね」
二人は急いで着替えを済ませると、後宮内の建物から中庭に出た。
「空が赤い……」
エリー王女は視界に飛び込んできた光景に息を飲む。
夜中だというのに、空が赤く染まっている。そこからは炎は見えないものの、その明るさに規模の大きさが窺えた。
エリー王女は隣に立つサラの腕を掴み、瞳を揺らす。
「エリー様。ディーン様と共にこの国から離れるようにと陛下から言伝てが今、参りました」
マーサが侍女から受け取った手紙をエリー王女に渡した。素早く目を通し、マーサに手紙を突き返す。
「私も皆とここに残ります。一人で逃げるなど!」
「シロルディアの馬車であればデール王国も手を出されないとのことですので、私共のことは気になさらずお逃げ下さい!」
マーサは険しい表情で訴えた。
「エリー、あなたはこの国にとって必要な人なの。ここに残ったとしても何も出来ないわ。だけど、逃げて生き延びることが出来れば必ず道は開ける。大丈夫、きっとアランもアルバートも直ぐにエリーの所へ戻るはずだから」
サラもエリー王女を説得する。エリー王女は自分が大切な人達を残して逃げるなど考えたくもなかった。
「出来ません……そんなこと――」
「セイン様だってきっとエリーの所に来てくれるわ。だから今は陛下の仰る通りにすべきよ」
愛するセイン王子の顔が脳裏をよぎる。胸の前で両手を握り締めて、瞳を閉じた。
「……いえ、サラ。それでも皆を置いては――」
サラはエリー王女の言葉をさえぎり、ぎゅっと抱き締めた。
「あなたは王女なの。お願い……逃げて……」
「サラ……」
◇
シトラル国王の執務室を出たディーン王子は、エリー王女と逃げる準備を進めるため部屋に戻ってきていた。
「予定とは違いますが、まぁいいでしょう」
ディーン王子のやることは、シトラル国王の側にいて寝首を掻くことだった。しかし、エリー王女とこの国を離れてほしいと願われてはそうするしかない。
予定外ではあったが、エリー王女は人質としても使える。それに戦乱の中でエリー王女を殺すには惜しいとディーン王子は思っていた。
「ディーン様、ポルポルです」
ソルブが窓からポルポルを入れると、ディーン王子の側の机に止まった。
「状況報告だな。ありがとう、ポルポル……」
ディーン王子が胸を撫でて手紙を受け取ると、すぐに内容を確認する。ディーン王子の手が震え、顔が大きく歪んだ。
「失敗しただと! なんて使えない連中だ!」
デール王国が落とされたことと、セイン王子とエリー王女の側近二名、デール王国から数名アトラス王国に向かっているという内容だった。
恐らく自分のことも知られているのだろう。
「如何しますか?」
ディーン王子はソファーにどかっと座り、暫く考えを巡らせていた。
「ディーン様。あれを使いましょう」
「あれは……しかし……」
「私は必ずディーン様を誰もが認める王にしてみせます。ディーン様はそのまま第二案で進めて行ってください」
ソルブはいつもディーン王子を信じ、支えてきた。ここで終わらせるわけにはいかない。強い意思を宿したソルブにディーン王子は重い首を縦に振った。
「わかった……頼んだぞ」
「はっ!」
ソルブは嬉しそうに笑みを浮かべると、素早く部屋を出ていった。部屋に静けさが広がる。
一人残されたディーン王子は、深く息を吐いてから瞳を閉じた。
「エリー様、緊急事態です。今すぐお支度を」
エリー王女を優しく揺すりながら、耳元で声をかける。
いつもと違う様子を感じ取ったエリー王女が、ハッと目を覚ました。
「どうしたのです?」
隣で眠るサラを起こさぬよう、声を潜めマーサに尋ねた。
「落ち着いて聞いてください。今、王都では――」
マーサは神妙な面持ちで状況を説明を行う。その内容にエリー王女は両手を口に当て、悲痛な表情を覗かせた。
「そんな……! 皆さんは無事なのですか?」
「避難はしているようですが、全員無事とはいかないかもしれません。エリー様も直ぐにお支度を。いつでも逃げられる準備が必要です」
「わかりました。サラ、起きて下さい。サラ……」
隣でスヤスヤと眠るサラを起こし、サラにも状況を簡単に説明した。サラが暮らすK地区はまだ爆発が起きていないということだったが、血の気が引いたように顔を青く染める。
「お父さん、お母さん……」
「今は皆さん避難をしていらっしゃいます。ご無事を祈り、お着替えをしながら気持ちを落ち着かせましょう」
マーサはサラを安心させるように微笑んだ。
「……はい。そうですね」
二人は急いで着替えを済ませると、後宮内の建物から中庭に出た。
「空が赤い……」
エリー王女は視界に飛び込んできた光景に息を飲む。
夜中だというのに、空が赤く染まっている。そこからは炎は見えないものの、その明るさに規模の大きさが窺えた。
エリー王女は隣に立つサラの腕を掴み、瞳を揺らす。
「エリー様。ディーン様と共にこの国から離れるようにと陛下から言伝てが今、参りました」
マーサが侍女から受け取った手紙をエリー王女に渡した。素早く目を通し、マーサに手紙を突き返す。
「私も皆とここに残ります。一人で逃げるなど!」
「シロルディアの馬車であればデール王国も手を出されないとのことですので、私共のことは気になさらずお逃げ下さい!」
マーサは険しい表情で訴えた。
「エリー、あなたはこの国にとって必要な人なの。ここに残ったとしても何も出来ないわ。だけど、逃げて生き延びることが出来れば必ず道は開ける。大丈夫、きっとアランもアルバートも直ぐにエリーの所へ戻るはずだから」
サラもエリー王女を説得する。エリー王女は自分が大切な人達を残して逃げるなど考えたくもなかった。
「出来ません……そんなこと――」
「セイン様だってきっとエリーの所に来てくれるわ。だから今は陛下の仰る通りにすべきよ」
愛するセイン王子の顔が脳裏をよぎる。胸の前で両手を握り締めて、瞳を閉じた。
「……いえ、サラ。それでも皆を置いては――」
サラはエリー王女の言葉をさえぎり、ぎゅっと抱き締めた。
「あなたは王女なの。お願い……逃げて……」
「サラ……」
◇
シトラル国王の執務室を出たディーン王子は、エリー王女と逃げる準備を進めるため部屋に戻ってきていた。
「予定とは違いますが、まぁいいでしょう」
ディーン王子のやることは、シトラル国王の側にいて寝首を掻くことだった。しかし、エリー王女とこの国を離れてほしいと願われてはそうするしかない。
予定外ではあったが、エリー王女は人質としても使える。それに戦乱の中でエリー王女を殺すには惜しいとディーン王子は思っていた。
「ディーン様、ポルポルです」
ソルブが窓からポルポルを入れると、ディーン王子の側の机に止まった。
「状況報告だな。ありがとう、ポルポル……」
ディーン王子が胸を撫でて手紙を受け取ると、すぐに内容を確認する。ディーン王子の手が震え、顔が大きく歪んだ。
「失敗しただと! なんて使えない連中だ!」
デール王国が落とされたことと、セイン王子とエリー王女の側近二名、デール王国から数名アトラス王国に向かっているという内容だった。
恐らく自分のことも知られているのだろう。
「如何しますか?」
ディーン王子はソファーにどかっと座り、暫く考えを巡らせていた。
「ディーン様。あれを使いましょう」
「あれは……しかし……」
「私は必ずディーン様を誰もが認める王にしてみせます。ディーン様はそのまま第二案で進めて行ってください」
ソルブはいつもディーン王子を信じ、支えてきた。ここで終わらせるわけにはいかない。強い意思を宿したソルブにディーン王子は重い首を縦に振った。
「わかった……頼んだぞ」
「はっ!」
ソルブは嬉しそうに笑みを浮かべると、素早く部屋を出ていった。部屋に静けさが広がる。
一人残されたディーン王子は、深く息を吐いてから瞳を閉じた。
0
人物紹介
大きいサイズで見る
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説

今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる