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第14章 黒衣の魔力戦闘部隊
第174話 痛み
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右腕をナンバー3に掴まれながら薄暗い森の中を走っていた。進めば進むほど、暗くて冷たい闇に浸かっていくみたいだった。
「止まりなさい! 我々は危害を加えるつもりはない!」
兵士の一人が後ろから叫んだ。
捕まれば殺される。そう言われていたから走っていた。
ナンバー29が後ろを振り返ると、兵士が四名追いかけてきている。
あの人と同じ服装……。
危害を加えない……なら、逃げなくてもいいの?
自分を助けてくれた兵士と同じ格好の人に、僅かに心が引き寄せられていた。
前を走るナンバー3を窺うように見ると、止まるつもりはなさそうだ。ナンバー29は何も言わずにナンバー3の後を追う。それでも意識は後ろの兵士にあった。
風の力を借りてるおかげで、兵士達に追い付かれることはなかったが、突き放すことは出来ない。ナンバー3から流れる魔力から苛立ちを感じた。
「しつこい……」
ナンバー3が言葉を零すと急に立ち止まった。冷たい視線が後ろの兵士たちに向けられる。
「ま、待って!」
ナンバー29はナンバー3の腕を思わず引っ張った。しかし、そんなことはお構いなしに、ナンバー3は兵士達に向かって炎の魔法を解き放った。
「うわぁあああ!」
赤く熱い炎は一人の兵士に襲いかかる。炎が体にまとわりつき、兵士は土の上に転がった。
その瞬間、ナンバー29の心臓が跳ねた。胸を抑え、炎を静かに見つめる。
「君っ……!! な、何てことを!! 大人しくこちらに来なさい!!」
三人の兵士達は剣を抜き、臨戦態勢に入るとナンバー3も身構える。
――――炎が……。
ナンバー3は兵士に向かって炎の一線を引く。炎の壁が森を燃やす。
――――炎が……!
赤く燃え上がる炎は兵士を飲み込んでいく。
ナンバー29の瞳に揺れる炎が焼き付き、心が熱く燃えた。
「あああああああああーーーーーーっ!!!!」
ナンバー29の身体の奥底から声が溢れだした。それと同時に強い風が吹き荒れる。ごおおおおおっと風の音が鳴り響き、木々が大きく揺れた。
――――嫌だ嫌だ嫌だ!!
頭を抱え、見たくないものに目を反らす。
何人かの悲鳴が耳の奥で聞こえた気がしたが、ナンバー29にはそれを気にする余裕はなかった。
沸き上がる不思議な衝動を抑えることが出来ず、気持ちのままに何かを解き放つ。
――――嫌だ嫌だ嫌だ!!
――――嫌だ嫌だ嫌だ!!
――――嫌だ嫌だ嫌だ!!
どれくらい経っただろう。
全てを出しきると気持ちが落ち着いていた。目に写るのは自分の手と踏み固められた固い土。いつの間にか四つん這いになっていたようだ。
しんと静まり返った森の中に、ナンバー29の激しい呼吸音だけが鳴り響く。
ゆらりと立ち上がり、周りを見渡すと大きな木々がナンバー29を中心になぎ倒されていた。炎は見当たらない。ほっと肩を落としたのも束の間、目の前の倒れた大木の横に、兵士が一人倒れているのを見つけた。
ナンバー29の筋肉がこわばり、体が硬直する。
「違う……」
小さく首を振りながら、重い体を引きずるように一歩一歩前に進んだ。
胸や喉の痛みを感じ、両手で抑える。
「違う……」
何が違うのかも分からないが、何かが違うのだ。
世界が滲んで、瞳から一筋の涙が零れた。
やっとたどり着いた兵士の側に立ち、黒い煤がついた顔をじっと見つめる。
ここに倒れているのは、あの兵士ではないことは分かっていた。しかし、同じ格好の兵士が炎に包まれた瞬間、見たくないものを見た気がした。嫌だと思った。火を消さなくてはと――――。
「うわあああああああーーっ!!!!」
膝から崩れ落ち、大声を張り上げて泣いた。今まで、殴られても蹴られても切られてもこんなに痛くはなかった。
――――痛い……! 痛いよ……!! 胸が痛いよ……!! 僕は……僕は……!!
暗闇の中、ナンバー29の声が鳴り響いた。
◇
今まで三十分置きに一つの地区が炎上していた。しかし、七回目辺りから各地区で炎が燃え上がりだした。
子供たちはアトラス王国の兵士に怪しまれた場合、『戦うのではなく逃げろ』と言われていた。『逃げるために魔法を使え』と。
――――殺されるのは嫌だ!
その恐怖心から子供たちは魔法を手当たり次第に発動し、戦うよりも大きな被害をもたらした。それは、デール王国が想定していた結果だった。
子供が纏っている服は炎の中でも動けるよう、防炎魔法が施されていたため、直ぐに炎の中に飛び込んで消えてしまうのだ。
「くそっ! 被害がどんどん広がっていく!」
犯人が分かったにも関わらず、兵士や騎士達は小さな子供相手に苦戦を強いられた。それだけ、魔法は強力だった。
アトラス王国の王都は炎に包まれた。
「止まりなさい! 我々は危害を加えるつもりはない!」
兵士の一人が後ろから叫んだ。
捕まれば殺される。そう言われていたから走っていた。
ナンバー29が後ろを振り返ると、兵士が四名追いかけてきている。
あの人と同じ服装……。
危害を加えない……なら、逃げなくてもいいの?
自分を助けてくれた兵士と同じ格好の人に、僅かに心が引き寄せられていた。
前を走るナンバー3を窺うように見ると、止まるつもりはなさそうだ。ナンバー29は何も言わずにナンバー3の後を追う。それでも意識は後ろの兵士にあった。
風の力を借りてるおかげで、兵士達に追い付かれることはなかったが、突き放すことは出来ない。ナンバー3から流れる魔力から苛立ちを感じた。
「しつこい……」
ナンバー3が言葉を零すと急に立ち止まった。冷たい視線が後ろの兵士たちに向けられる。
「ま、待って!」
ナンバー29はナンバー3の腕を思わず引っ張った。しかし、そんなことはお構いなしに、ナンバー3は兵士達に向かって炎の魔法を解き放った。
「うわぁあああ!」
赤く熱い炎は一人の兵士に襲いかかる。炎が体にまとわりつき、兵士は土の上に転がった。
その瞬間、ナンバー29の心臓が跳ねた。胸を抑え、炎を静かに見つめる。
「君っ……!! な、何てことを!! 大人しくこちらに来なさい!!」
三人の兵士達は剣を抜き、臨戦態勢に入るとナンバー3も身構える。
――――炎が……。
ナンバー3は兵士に向かって炎の一線を引く。炎の壁が森を燃やす。
――――炎が……!
赤く燃え上がる炎は兵士を飲み込んでいく。
ナンバー29の瞳に揺れる炎が焼き付き、心が熱く燃えた。
「あああああああああーーーーーーっ!!!!」
ナンバー29の身体の奥底から声が溢れだした。それと同時に強い風が吹き荒れる。ごおおおおおっと風の音が鳴り響き、木々が大きく揺れた。
――――嫌だ嫌だ嫌だ!!
頭を抱え、見たくないものに目を反らす。
何人かの悲鳴が耳の奥で聞こえた気がしたが、ナンバー29にはそれを気にする余裕はなかった。
沸き上がる不思議な衝動を抑えることが出来ず、気持ちのままに何かを解き放つ。
――――嫌だ嫌だ嫌だ!!
――――嫌だ嫌だ嫌だ!!
――――嫌だ嫌だ嫌だ!!
どれくらい経っただろう。
全てを出しきると気持ちが落ち着いていた。目に写るのは自分の手と踏み固められた固い土。いつの間にか四つん這いになっていたようだ。
しんと静まり返った森の中に、ナンバー29の激しい呼吸音だけが鳴り響く。
ゆらりと立ち上がり、周りを見渡すと大きな木々がナンバー29を中心になぎ倒されていた。炎は見当たらない。ほっと肩を落としたのも束の間、目の前の倒れた大木の横に、兵士が一人倒れているのを見つけた。
ナンバー29の筋肉がこわばり、体が硬直する。
「違う……」
小さく首を振りながら、重い体を引きずるように一歩一歩前に進んだ。
胸や喉の痛みを感じ、両手で抑える。
「違う……」
何が違うのかも分からないが、何かが違うのだ。
世界が滲んで、瞳から一筋の涙が零れた。
やっとたどり着いた兵士の側に立ち、黒い煤がついた顔をじっと見つめる。
ここに倒れているのは、あの兵士ではないことは分かっていた。しかし、同じ格好の兵士が炎に包まれた瞬間、見たくないものを見た気がした。嫌だと思った。火を消さなくてはと――――。
「うわあああああああーーっ!!!!」
膝から崩れ落ち、大声を張り上げて泣いた。今まで、殴られても蹴られても切られてもこんなに痛くはなかった。
――――痛い……! 痛いよ……!! 胸が痛いよ……!! 僕は……僕は……!!
暗闇の中、ナンバー29の声が鳴り響いた。
◇
今まで三十分置きに一つの地区が炎上していた。しかし、七回目辺りから各地区で炎が燃え上がりだした。
子供たちはアトラス王国の兵士に怪しまれた場合、『戦うのではなく逃げろ』と言われていた。『逃げるために魔法を使え』と。
――――殺されるのは嫌だ!
その恐怖心から子供たちは魔法を手当たり次第に発動し、戦うよりも大きな被害をもたらした。それは、デール王国が想定していた結果だった。
子供が纏っている服は炎の中でも動けるよう、防炎魔法が施されていたため、直ぐに炎の中に飛び込んで消えてしまうのだ。
「くそっ! 被害がどんどん広がっていく!」
犯人が分かったにも関わらず、兵士や騎士達は小さな子供相手に苦戦を強いられた。それだけ、魔法は強力だった。
アトラス王国の王都は炎に包まれた。
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