恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

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第14章 黒衣の魔力戦闘部隊

第173話 謎の子供達

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 ビルボートはすかさず腕を掴み、ナンバー29を捕まえる。その腕の細さに驚き、袖を捲り上げた。

「これは……」

 痩せ細った腕には、幾つもの切り傷が刻まれ、所々に痣も見られた。フードを外すと脅えた表情をした少年がビルボートを見つめている。

 この少年は何故逃げたのか。何故こんなにも脅えているのか。そして、痩せ細った体に無数の傷痕は……。

――虐待。

 いや、国外では奴隷制度が残っている国もある。この狂乱の隙を見て主から逃げ出したのか?

「ニーキュ! 父ちゃんもニーキュのお父さんも意識が戻ったよ! 来て!」

 ジョンはビルボートからナンバー29を引き離すかのように引っ張った。ナンバー29は少しほっとしながら、寝転がる兵士の前に立つ。

「ああ……君も無事だったんだね……良かった……」

 辛そうに横たわる姿ではあったが、すすだらけの真っ黒な顔から優しい笑顔が溢れていた。またふわりとナンバー29の心に暖かな風が吹く。

 何だろう……。

 ナンバー29は、表情も変えずただ兵士の顔を見つめた。そこに同じ服装をしたナンバー29よりも背の高い子供が近付いてきた。

「行くぞ……」

 彼もまた顔を覆い隠していたため、表情は全くわからない。しかしナンバー29は声で誰なのか理解した。

「……ン…………サン……」

 誰も聞こえないくらいの小さな声を漏らす。彼はナンバー3。五つ年上で、ナンバー29の目付役だった。
 怒られると思ったナンバー29は体をびくつかせ、一歩後退る。

「あれ? ニーキュ? どこ行くの? ここにいた方が安全だよ? あっ、ニーキュのお兄ちゃん? 良かった、家族揃ったんだね!」

 ジョンがまたニーキュの手を取った。彼の手も笑顔も温かい。兵士に視線を移せば彼もまた優しく微笑んでいた。

 何……?
 どうしてそんな顔をしているの?

 ナンバー29には理解できなかった。

「君はニーキュ君のお兄さんかい?」

 ビルボートは黒い服を着た少年二人に近付き、今来たばかりのナンバー3に話し掛ける。

「……はい……失礼します……」
「待ちなさい」

 直ぐに立ち去ろうとする二人をビルボートは止めた。

 彼らはどこか様子がおかしい。
 兄らしき人物が現れた瞬間、ニーキュが脅えたような気がした。普通、この状況下であれば喜び合うはずなのに、彼らは違っていた。

「君たちは何の目的で王都にきたんだい?」

 ナンバー3はビルボートの問いに黙り混む。

「うーん。じゃあ、君たちは――」

 疑われていると感じたナンバー3は、ナンバー29の腕をつかみ走り出した。

 捕まれば殺される。
 早くこの場から離れなくてはならない。

「待ちなさい!」

 ビルボートは直ぐに距離をつめた。腕を伸ばし、ナンバー3の腕を掴もうとした時だった。
 横一線に炎の壁が立ち上がる。



「ま、魔法!?」

 ギリギリのところで避けたビルボートは、驚きの声を上げた。立ち上がる炎の向こうには、少年二人が走っていくのが見える。

「その二人を捕らえろ!」

 ビルボートは炎の向こう側にいる兵士四名に命令を下す。今から自分が追いかけても間に合わないと判断をすると、検問所に向かった。
 王都を囲う塀より外側に建てられた建物の中には、毎日訪れる訪問者の調査書が棚の中にズラリと並べられている。

「ここ数日の調査書をここへ!」

 検問所にいる兵士に過去一週間の記録が書かれた調査書を持って来させた。
 ビルボートはいくつかの調査書を開き、素早く目を通す。

「ん? これは……デール王国の学生? 昨日来たのか……。この学生達はどういう出で立ちだ?」

 検問所の兵士に問うと、調査書を持ってきた兵士が一歩前に出た。

「それなら丁度私が担当しました。皆、同じ全身黒の服を身につけておりました。遠方から来たせいか、皆疲れている様子で覇気がありませんでした」
「黒い服……。こういう服装か?」

 ビルボートが紙に絵を描くと、兵士は力強く頷いた。

「そうです。教師と名乗る御者もそのような服装でしたからよく覚えています」

 あの二人はここに書かれている学生に違いない。その内の一人は魔法を使える者がいる。

 魔法……。

 魔法であれば容易に地区全体を素早く燃やせるだろう。たとえ子供だとしても。

――深夜二時。五度目の爆発音が轟く。

「くそっ! またか!」

 子供であれば目立たずに遂行できる。彼らの様子と状況からかなり可能性が高い。

 ビルボートはこの可能性にかけ、騎士と兵士に命令を下す。

「各地区で黒衣を着た子供を探せ! 魔法を使える可能性が高いため気を付けよ! 確証はないため殺さず捕らえるように!」

 命令を下してからもビルボートは考えた。果たして入国してきた三十三人もの子供達全員が魔法を使えるのだろうか? 只でさえ魔力を持つものは希だと言うのに……。

 その時、ナンバー29の傷を思い出した。

「まさか!?」

 自分の考えにゾッとするビルボートだった。



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