恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

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第14章 黒衣の魔力戦闘部隊

第170話 黒衣の影

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 ◇

 アトラス王国の王都はぐるりと高い塀で囲われている。東西南北にそれぞれ検問所があり、王都に入るためには必ず取り調べを受けなければならなかった。

 北検問所は、今日も多くの馬車が並んでいる。日も高く登り、そろそろお腹も空き始めた頃だ。兵士がいつものように御者に声をかけた。

「どちらから、どんな用で王都に来ましたか?」
「デール王国から来ました。私たちは学問を教える者で、馬車の中にいるのは学生です。こちらが証明書になります」

 にこにこと朗らかな笑顔を見せる教員から証明書を受け取る。

「デール王国の国印まで押されていますね」
「はい。教育の一貫でアトラス王国の素晴らしい文化を学びに来ました」
「念のため、馬車の中を確認します。三台一緒ですね」

 二名の兵士が荷台の中を確認する。中を覗くと七歳から十五歳程度の子供たちが各十名ほどそこに座っていた。お揃いの黒い服を纏っている。
 荷物は旅に必要なものだけで、武器など特に気になるものもなかった。

「問題ないようですね。お通りください」

 兵士は調査書に聞いた内容や状況書き写すと、街の中へ通した。

「長旅で疲れてるみたいだったな。子供達はみんな表情が暗かった」

 三台の馬車を見送りながら兵士は心配そうに声を漏らす。

「腹も減ってるだろーしな。俺も腹減ったよ」
「そうだな、交代までもうすぐだ」

 兵士は次の御者に視線を移動させ、直ぐに任務に戻った。



 ◇

 王都に入った三台の馬車は、行き先が違うようで、それぞれが別々の方向へと向かう。彼らは、街を熟知しているかのように迷いなく進んで行った。

 各地区の中心地に到着する度に子供が一人か二人、荷馬車から降りる。

 その子供は目立たぬよう路地など薄暗い場所へと移動し、小さくうずくまった。黒いマントを頭から被っていたため、誰もそれが人だとは思わなかっただろう。

 彼らは誰にも見つからないように静かに時を待つ――――。



 ◇

 アトラス城の上空に一羽の黒い鳥、ポルポルが姿を現した。足には手紙がくくりつけてある。ポルポルは迷わずシトラル国王の執務室へ向かい、窓を叩いた。
 すぐに、険しい表情をした第一側近であるセロードが窓を開ける。

 すっと中に入り、シトラル国王が座る執務机に降り立った。

「ご苦労だった」

 ポルポルは胸を撫でられると目を細め、足を差し出した。シトラル国王は括り付けられた手紙を外す。デール王国の国印を確認すると、直ぐに目を通した。


 ▽▽▽
 シトラル国王よ。
 突然のことで申し訳ないが、本日の深夜零時までにアトラス王国を我が国に受け渡すことを宣言せよ。
 さもなくば、多くの犠牲者が出るであろう。
 降服の印に緑の閃光弾を放て。
 国王一人の命で多くの命が救われる。
 可愛い娘のことも念頭に入れ、良く考えて判断するがいい。
 △△△


 シトラル国王は手紙をぐしゃりと握りしめると、両手で執務机を叩いた。驚いたポルポルが飛び上がり、黒い羽根をいくつか落として姿を消した。

「いかがされましたか?」

 セロードが気遣わし気に声をかける。

「宣戦布告だ……」
「えっ?」

 バルダス国王からの手紙を受け取り、さっと目を通す。セロードの眉間に大きく皺が寄る。

「零時と言うならばあと五時間。であれば、デール王国の軍は国境を越えているはずです。しかし、そのような報告は受けておりません」
「裏で手を引いている者がおるのかもしれん。早急に調べ、わが軍の準備も進めよ! ローンズがいなくとも我らに勝機はある! 返り討ちにしてくれよう!」
「はっ!」



 ◇

 数時間後、仰々しい数の兵士と騎士が街の外で待機する。街を囲う高い塀にも兵士が待ち構えていた。
 多くのかがり火が揺れ、空気がピリピリと震えている。

 まもなく零時となるにも関わらず、デール王国の軍隊が現れるどころか、気配すら感じられない。騎士団隊長のビルボートはこの静けさに違和感を感じていた。

 街の人々は家から出ないようにと指示があり、不安な面持ちで家の中で待機をする。また、いつでも逃げられる準備もしていた。

 城内では重鎮達が険しい顔をして顔を突き合わせている。シトラル国王は落ち着かない様子で報告を待っていた。しかし、相変わらず誰も来る気配がない。静かすぎるこの状況にシトラル国王は苛立っていた。

 後宮にいるエリー王女は、全く情報を教えてもらっていない。そのため、エリー王女とサラは大きなベッドで寄り添うように深い眠りについている。しかし、マーサだけは全てを教えられていた。いつでも逃げられるように準備を進め、中庭から空を見上げている。

「どうか……エリー様の身に危険がありませんように……」

 マーサが祈りを捧げる空を城内の窓から見つめる人物が一人。
 ディーン王子である。
 窓に映る顔は笑みを浮かべていた。

「そろそろか……。ソルブ、行くぞ」
「はい」

 側近と共に向かったのは見晴らしの良い塔。窓からは城下が見渡せた。これから起きるであろう場所へと目を向け、時計を見つめる。零時までもう少しだ。

 秒針がカチカチとゆっくりと動いていく。

「三、二、一……」

 ディーン王子の呟きと共に大きな爆発音が轟いた!

 遠くの暗闇の中に、ゆっくりと赤い炎が燃え上がる。

「くっくっくっくっ……。さて、シトラルの顔でも見に行くとしよう」

 顔を歪めて笑うディーン王子は、ゆっくりとシトラル国王がいる部屋へと向かった。




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