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第13章 敵国
第169話 平和への約束
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圧倒的な強さで制圧を果たしたセイン王子達は、もう一度エーデル王女が待つ部屋に集まった。
「バルダス陛下……カルディア殿下……」
無下に転がされた肉親を見たエーデル王女が戸惑いの声を漏らす。
「カルディアも殺さなかったんだね」
「はい。"ローンズ王国は今回の戦争には参戦しない。我々を止めたとしても、もう全ては動き出している"とカルディア王子が言っておりました。その理由を聞きだすため殺さず連れてきました」
ジェルミア王子の問いにアランが答えると、セイン王子がギルに目配せをした。ギルがカルディア王子の側に座り、自白魔法をかけてから質問をする。
「なぜローンズ王国がアトラス王国を助けないと思っているのですか?」
「エリー王女を誘拐したのはリアム国王だと、シトラル国王が信じているからだ」
セイン王子の眉がぴくりと動く。
「リアム陛下はそのようなことはしません。どのようにして信じ込ませたのでしょうか?」
「ディーン王子が誘拐し、助け、リアム国王が犯人だと告げる。王女を助けた者からの言葉は信じやすい。それにシトラル国王はリアム国王が嫌いなようだからな。信じ込ませるのは容易だったようだ」
カルディア王子はうつろな瞳で素直に答えた。
「ディーン王子が? シロルディア王国も手を貸しているということですか?」
「あそこの国王は何も知らない。ディーン王子の独断での行動だ。しかし、我々は約束をした。アトラス王国を落とした暁に国の一部を渡すこととデール王国との同盟を結ぶことを」
「そうですか……。ところで、デール王国の軍隊が動き出せば直ぐにローンズ王国、アトラス王国に知らせが行きます。誤解を解く時間も生まれ、その作戦は上手くいかないと思いますが、何か他に手でも打っているのでしょうか?」
ギルが次々と疑問をぶつける。
「魔力戦闘部隊をアトラス王国に送っている。我々が到着する前にアトラス王国は火の海になっていることだろう」
「魔力戦闘部隊……魔力を持つものを量産していると聞きましたが……。何名……いるのですか?」
作られた魔法使いたちは戦争に利用するために育てられたのだろう。ギルは悲痛な表情を浮かべ、膝の上に置いていた拳をぎゅっと結ぶ。
「三十三名。七歳から十五歳までの少年少女だ」
「……」
ギルは押し黙ってしまった。
その様子に気がついたセイン王子が、ギルの肩を叩くとジェルミア王子に視線を移す。
「幼くても魔力を使えるのであれば戦力は大きいでしょう。しかも子供たちであれば不審感を感じさせずに近づける。恐らくアトラス王国への入国も可能。これは急を要します。直ちにポルポルを飛ばしシトラル陛下に報告を! 夜明けまで二時間。国民には申し訳ないが、すぐに広場に集まって貰うよう準備をお願いします」
◇
予定時刻よりも早い時間に起こされた国民は、ぼうっとした頭でバルダス国王が出てくるのを待った。城の前に集められた国民と兵士達は戦争前の叱咤激励が行われるものだと思っている。
しかし、目の前に現れたは、この場の雰囲気にはふさわしくない美麗の男だった。美しい金色の髪に、目を奪われるような整った顔立ち。何故そのような人物が国王が立つべき台座に立つのだろうか。
誰もが戸惑いの視線を向けた。
「私は第二王子ジェルミアである! バルダス国王を討ち、第一王子カルディアはアトラス王国の捕虜として受け渡した!」
民衆が不安な表情に変わり、ざわめきが広がる。
「だが!」
ジェルミア王子はより大きく声を張り上げると、一瞬にしてざわめきが止む。
「戦争に負けたわけではない! このくだらない戦争を止めたのだ! この戦争はバルダスの私利私欲のものだった。戦争に勝ったとしても国民の暮らしは良くならなかっただろう。今の暮らしに満足している者がこの国にどれだけいるのか! 想像してほしい。明日食べるものを気にする必要のない世の中を。知識を得たいと思ったときに得られる喜びを。それはただの夢物語ではない。現実に存在する世界がある!」
国民一人一人丁寧に見渡すジェルミア王子の言葉に誰もが耳を傾けていた。
「私は、ローンズ王国と協力し合い、これまでのバルダス国王による絶対王政を廃止する! これからは王のために生きるのではなく、他国のように民は人間らしく自らの幸せのために生きる。今日はそのための第一歩を踏むのだ!」
それでもなお、困惑した表情のままジェルミア王子を見つめている国民に、力強い視線をぶつける。
「バルダス国王の代わりに私がこの国を作り替える! 愚かなる戦争などはしない! このジェルミアが王となり、約束をしよう! 笑顔が溢れる国にすることを!」
ジェルミア王子はチラリとセイン王子に目を向けると、セイン王子もまた壇上へと上る。
「ローンズ王国の第二王子、セインである! 我が国も過去に同じような問題が起きていた! 民のことなどを考えぬ王は必要ない! それはジェルミア国王がそれを証明するであろう! 我が国ローンズはこちらのジェルミア国王と共にデール王国を再建したいと考えている! 直ぐには変わらないだろう。しかし、皆の協力があればこの国は変わることができるのだ!」
セイン王子とジェルミア王子が視線を合わせ頷き合う。
「共に歩もう! 平和へ未来へ!!」
静寂に包まれていた空間に、ぺちぺちと小さな拍手が聞こえてくる。その音が徐々に広がり、大歓声が巻き上がった。
『ジェルミア陛下、万歳!!』
『ジェルミア陛下、万歳!!』
『ジェルミア陛下、万歳!!』
国民の声を聞いた二人はまた顔を見合せ、笑顔を交わし合った。
「バルダス陛下……カルディア殿下……」
無下に転がされた肉親を見たエーデル王女が戸惑いの声を漏らす。
「カルディアも殺さなかったんだね」
「はい。"ローンズ王国は今回の戦争には参戦しない。我々を止めたとしても、もう全ては動き出している"とカルディア王子が言っておりました。その理由を聞きだすため殺さず連れてきました」
ジェルミア王子の問いにアランが答えると、セイン王子がギルに目配せをした。ギルがカルディア王子の側に座り、自白魔法をかけてから質問をする。
「なぜローンズ王国がアトラス王国を助けないと思っているのですか?」
「エリー王女を誘拐したのはリアム国王だと、シトラル国王が信じているからだ」
セイン王子の眉がぴくりと動く。
「リアム陛下はそのようなことはしません。どのようにして信じ込ませたのでしょうか?」
「ディーン王子が誘拐し、助け、リアム国王が犯人だと告げる。王女を助けた者からの言葉は信じやすい。それにシトラル国王はリアム国王が嫌いなようだからな。信じ込ませるのは容易だったようだ」
カルディア王子はうつろな瞳で素直に答えた。
「ディーン王子が? シロルディア王国も手を貸しているということですか?」
「あそこの国王は何も知らない。ディーン王子の独断での行動だ。しかし、我々は約束をした。アトラス王国を落とした暁に国の一部を渡すこととデール王国との同盟を結ぶことを」
「そうですか……。ところで、デール王国の軍隊が動き出せば直ぐにローンズ王国、アトラス王国に知らせが行きます。誤解を解く時間も生まれ、その作戦は上手くいかないと思いますが、何か他に手でも打っているのでしょうか?」
ギルが次々と疑問をぶつける。
「魔力戦闘部隊をアトラス王国に送っている。我々が到着する前にアトラス王国は火の海になっていることだろう」
「魔力戦闘部隊……魔力を持つものを量産していると聞きましたが……。何名……いるのですか?」
作られた魔法使いたちは戦争に利用するために育てられたのだろう。ギルは悲痛な表情を浮かべ、膝の上に置いていた拳をぎゅっと結ぶ。
「三十三名。七歳から十五歳までの少年少女だ」
「……」
ギルは押し黙ってしまった。
その様子に気がついたセイン王子が、ギルの肩を叩くとジェルミア王子に視線を移す。
「幼くても魔力を使えるのであれば戦力は大きいでしょう。しかも子供たちであれば不審感を感じさせずに近づける。恐らくアトラス王国への入国も可能。これは急を要します。直ちにポルポルを飛ばしシトラル陛下に報告を! 夜明けまで二時間。国民には申し訳ないが、すぐに広場に集まって貰うよう準備をお願いします」
◇
予定時刻よりも早い時間に起こされた国民は、ぼうっとした頭でバルダス国王が出てくるのを待った。城の前に集められた国民と兵士達は戦争前の叱咤激励が行われるものだと思っている。
しかし、目の前に現れたは、この場の雰囲気にはふさわしくない美麗の男だった。美しい金色の髪に、目を奪われるような整った顔立ち。何故そのような人物が国王が立つべき台座に立つのだろうか。
誰もが戸惑いの視線を向けた。
「私は第二王子ジェルミアである! バルダス国王を討ち、第一王子カルディアはアトラス王国の捕虜として受け渡した!」
民衆が不安な表情に変わり、ざわめきが広がる。
「だが!」
ジェルミア王子はより大きく声を張り上げると、一瞬にしてざわめきが止む。
「戦争に負けたわけではない! このくだらない戦争を止めたのだ! この戦争はバルダスの私利私欲のものだった。戦争に勝ったとしても国民の暮らしは良くならなかっただろう。今の暮らしに満足している者がこの国にどれだけいるのか! 想像してほしい。明日食べるものを気にする必要のない世の中を。知識を得たいと思ったときに得られる喜びを。それはただの夢物語ではない。現実に存在する世界がある!」
国民一人一人丁寧に見渡すジェルミア王子の言葉に誰もが耳を傾けていた。
「私は、ローンズ王国と協力し合い、これまでのバルダス国王による絶対王政を廃止する! これからは王のために生きるのではなく、他国のように民は人間らしく自らの幸せのために生きる。今日はそのための第一歩を踏むのだ!」
それでもなお、困惑した表情のままジェルミア王子を見つめている国民に、力強い視線をぶつける。
「バルダス国王の代わりに私がこの国を作り替える! 愚かなる戦争などはしない! このジェルミアが王となり、約束をしよう! 笑顔が溢れる国にすることを!」
ジェルミア王子はチラリとセイン王子に目を向けると、セイン王子もまた壇上へと上る。
「ローンズ王国の第二王子、セインである! 我が国も過去に同じような問題が起きていた! 民のことなどを考えぬ王は必要ない! それはジェルミア国王がそれを証明するであろう! 我が国ローンズはこちらのジェルミア国王と共にデール王国を再建したいと考えている! 直ぐには変わらないだろう。しかし、皆の協力があればこの国は変わることができるのだ!」
セイン王子とジェルミア王子が視線を合わせ頷き合う。
「共に歩もう! 平和へ未来へ!!」
静寂に包まれていた空間に、ぺちぺちと小さな拍手が聞こえてくる。その音が徐々に広がり、大歓声が巻き上がった。
『ジェルミア陛下、万歳!!』
『ジェルミア陛下、万歳!!』
『ジェルミア陛下、万歳!!』
国民の声を聞いた二人はまた顔を見合せ、笑顔を交わし合った。
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