恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

文字の大きさ
上 下
169 / 235
第13章 敵国

第169話 平和への約束

しおりを挟む
 圧倒的な強さで制圧を果たしたセイン王子達は、もう一度エーデル王女が待つ部屋に集まった。

「バルダス陛下……カルディア殿下……」

 無下に転がされた肉親を見たエーデル王女が戸惑いの声を漏らす。

「カルディアも殺さなかったんだね」
「はい。"ローンズ王国は今回の戦争には参戦しない。我々を止めたとしても、もう全ては動き出している"とカルディア王子が言っておりました。その理由を聞きだすため殺さず連れてきました」

 ジェルミア王子の問いにアランが答えると、セイン王子がギルに目配せをした。ギルがカルディア王子の側に座り、自白魔法をかけてから質問をする。

「なぜローンズ王国がアトラス王国を助けないと思っているのですか?」
「エリー王女を誘拐したのはリアム国王だと、シトラル国王が信じているからだ」

 セイン王子の眉がぴくりと動く。

「リアム陛下はそのようなことはしません。どのようにして信じ込ませたのでしょうか?」
「ディーン王子が誘拐し、助け、リアム国王が犯人だと告げる。王女を助けた者からの言葉は信じやすい。それにシトラル国王はリアム国王が嫌いなようだからな。信じ込ませるのは容易だったようだ」

 カルディア王子はうつろな瞳で素直に答えた。

「ディーン王子が? シロルディア王国も手を貸しているということですか?」
「あそこの国王は何も知らない。ディーン王子の独断での行動だ。しかし、我々は約束をした。アトラス王国を落とした暁に国の一部を渡すこととデール王国との同盟を結ぶことを」
「そうですか……。ところで、デール王国の軍隊が動き出せば直ぐにローンズ王国、アトラス王国に知らせが行きます。誤解を解く時間も生まれ、その作戦は上手くいかないと思いますが、何か他に手でも打っているのでしょうか?」

 ギルが次々と疑問をぶつける。

「魔力戦闘部隊をアトラス王国に送っている。我々が到着する前にアトラス王国は火の海になっていることだろう」
「魔力戦闘部隊……魔力を持つものを量産していると聞きましたが……。何名……いるのですか?」

 作られた魔法使いたちは戦争に利用するために育てられたのだろう。ギルは悲痛な表情を浮かべ、膝の上に置いていた拳をぎゅっと結ぶ。

「三十三名。七歳から十五歳までの少年少女だ」
「……」

 ギルは押し黙ってしまった。
 その様子に気がついたセイン王子が、ギルの肩を叩くとジェルミア王子に視線を移す。

「幼くても魔力を使えるのであれば戦力は大きいでしょう。しかも子供たちであれば不審感を感じさせずに近づける。恐らくアトラス王国への入国も可能。これは急を要します。直ちにポルポルを飛ばしシトラル陛下に報告を! 夜明けまで二時間。国民には申し訳ないが、すぐに広場に集まって貰うよう準備をお願いします」



 ◇

 予定時刻よりも早い時間に起こされた国民は、ぼうっとした頭でバルダス国王が出てくるのを待った。城の前に集められた国民と兵士達は戦争前の叱咤激励が行われるものだと思っている。
 しかし、目の前に現れたは、この場の雰囲気にはふさわしくない美麗の男だった。美しい金色の髪に、目を奪われるような整った顔立ち。何故そのような人物が国王が立つべき台座に立つのだろうか。

 誰もが戸惑いの視線を向けた。

「私は第二王子ジェルミアである! バルダス国王を討ち、第一王子カルディアはアトラス王国の捕虜として受け渡した!」

 民衆が不安な表情に変わり、ざわめきが広がる。

「だが!」

 ジェルミア王子はより大きく声を張り上げると、一瞬にしてざわめきが止む。

「戦争に負けたわけではない! このくだらない戦争を止めたのだ! この戦争はバルダスの私利私欲のものだった。戦争に勝ったとしても国民の暮らしは良くならなかっただろう。今の暮らしに満足している者がこの国にどれだけいるのか! 想像してほしい。明日食べるものを気にする必要のない世の中を。知識を得たいと思ったときに得られる喜びを。それはただの夢物語ではない。現実に存在する世界がある!」

 国民一人一人丁寧に見渡すジェルミア王子の言葉に誰もが耳を傾けていた。

「私は、ローンズ王国と協力し合い、これまでのバルダス国王による絶対王政を廃止する! これからは王のために生きるのではなく、他国のように民は人間らしく自らの幸せのために生きる。今日はそのための第一歩を踏むのだ!」

 それでもなお、困惑した表情のままジェルミア王子を見つめている国民に、力強い視線をぶつける。

「バルダス国王の代わりに私がこの国を作り替える! 愚かなる戦争などはしない! このジェルミアが王となり、約束をしよう! 笑顔が溢れる国にすることを!」

 ジェルミア王子はチラリとセイン王子に目を向けると、セイン王子もまた壇上へと上る。



「ローンズ王国の第二王子、セインである! 我が国も過去に同じような問題が起きていた! 民のことなどを考えぬ王は必要ない! それはジェルミア国王がそれを証明するであろう! 我が国ローンズはこちらのジェルミア国王と共にデール王国を再建したいと考えている! 直ぐには変わらないだろう。しかし、皆の協力があればこの国は変わることができるのだ!」

 セイン王子とジェルミア王子が視線を合わせ頷き合う。

「共に歩もう! 平和へ未来へ!!」

 静寂に包まれていた空間に、ぺちぺちと小さな拍手が聞こえてくる。その音が徐々に広がり、大歓声が巻き上がった。

『ジェルミア陛下、万歳!!』
『ジェルミア陛下、万歳!!』
『ジェルミア陛下、万歳!!』

 国民の声を聞いた二人はまた顔を見合せ、笑顔を交わし合った。





しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

悪妃になんて、ならなきゃよかった

よつば猫
恋愛
表紙のめちゃくちゃ素敵なイラストは、二ノ前ト月先生からいただきました✨🙏✨ 恋人と引き裂かれたため、悪妃になって離婚を狙っていたヴィオラだったが、王太子の溺愛で徐々に……

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...